アメリカの美容YouTuberが大好き! でもなぜか炎上してるみたい……いがみ合ったり批判を浴びたりしている理由がわからない……そんな方のために、できるだけ簡単に説明します! 詳しく知りたい方は、本文中のブログカードから本サイト内の記事へ飛べます。
この記事について
この記事は、2018年後半から2020年前半にかけてアメリカ美容YouTuber界を揺るがした一連の事件を解説します。
美容YouTuberたちの事件は数多く、とても複雑です1。そこで、同じ内容を3回、詳しさと視点を変えて書く形にしました。途中までで読むのをやめても一通り状況がわかるはずです。
具体的には、「2分で読める炎上の年表」はそれぞれの出来事を短くまとめ、「事件当時の見方」は当時の視点からなぜそのような出来事が起きたのかを解説し、「現在の視点から」はそれぞれの出来事の現在から見た解釈を書いています。
また、「2分で読める炎上の年表」の前の「主要な登場人物」で4人の主要な登場人物を紹介しています。最後の「事件の背後にあるものと残る疑問」が結論です。
この記事は2020年9月の視点で書かれています。今後、事実が発掘されればそれぞれの出来事の解釈が変わるかもしれません。
主要な登場人物
主要なアメリカ美容YouTuberを紹介します。炎上の常連は少ないので彼らを押さえればばっちりです。
ジェフリー・スター
まずは、なんといってもジェフリー・スター(Jeffree Star)です(1985年生まれ)。ジェフリー・スター・コスメティックスのCEOで、世界的に有名な美容界の巨魁です。
ジェームズ・チャールズ
若い世代から圧倒的に人気なのはジェームズ・チャールズ(James Charles)です(1999年生まれ)。飛ぶ鳥を落とす勢いでYouTube登録者数を増やしてきた美容界の新星です。
タティ
美容界に進出したジェームズを支援してきたのはタティ(Tati)でした(1982年生まれ)。話し方も品良く、ほとんど炎上騒動に関わることなく活動していました。
シェーン・ドーソン
こちらは、美容界とは無縁だったYouTuberシェーン(Shane Dawson)です(1988年生まれ)。彼は2008年からコメディ動画を投稿して人気になりました。
2分で読める炎上の年表
彼らが関わった2018年後半から2020年前半までの出来事を年表にしました。
2018年8月 ジェフリーとシェーンのシリーズ1
2018年8月、古参YouTuberシェーン・ドーソンが大物美容YouTuberジェフリー・スターに取材した動画シリーズ(ドキュメンタリーシリーズ1)を公開し、注目を集めました。
2018年8月 ドラマゲドン1
2018年8月、マニーMUA、ローラ・リー、ニキータ・ドラゴン、ガブリエル・ザモラがSNS投稿をきっかけに炎上し、謝罪に追い込まれました。「ジェフリーいじめ」だと批判されたのです。
2019年1月 ジェームズ、タティ、ジェフリーのコラボ
2019年1月、ジェームズのチャンネルでジェームズ、タティ、ジェフリーがコラボしています。このコラボが3人にとって最後の共演でした。
2019年1月 ジェフリーとシェーンのシリーズ2撮影開始
2019年1月、シェーンはジェフリーとのシリーズ第二弾(ドキュメンタリーシリーズ2)を制作し始めました。美容界の舞台裏と炎上の真実に迫ると予告されていました。
2019年4月 ジェームズがサプリを宣伝
2019年4月、音楽フェスに参加中のジェームズがInstagramライブでサプリを宣伝しました。これが大炎上になるとは誰も予想していませんでした。
2019年5月 ドラマゲドン2
2019年5月、公私ともに支援してきたジェームズに他社のサプリを宣伝されたタティはジェームズを恩知らずと非難し、同時にジェームズの性的暴行疑惑を告発しました。ジェームズは数日で300万人の登録者を失い、大手テレビ局のニュースにもなる騒ぎになりました。
2019年9月 タティとジェフリーが仲違い
2019年9月ごろ、タティとジェフリーはSNSで互いをアンフォローしました。同時にタティの撮影スタジオのディスプレイからジェフリー・スターの商品が消えました。二人の仲違いがウワサされました。
2019年11月 ジェフリーとシェーンの商品が記録的な売上げ
ジェフリーとシェーンの動画シリーズ第二弾は2019年9月に公開が始まり、第一弾に劣らぬ話題を集めましたが、期待外れだったとも言われました。2019年11月、二人のコラボ商品が発売され、爆発的に売れました。
2020年6月 ジェフリーとシェーンが相次いで告発される
2020年6月ごろ、ジェフリーとシェーンを告発する動画が公開されました。二人の過去のSNS投稿が掘り起こされ、批判が高まりました。
2020年6月 タティの告発(カルマゲドン?)
タティが「ドラマゲドン2のとき私にジェームズを告発するようにそそのかしたのはジェフリーとシェーンの二人だった」と告白しました。
事件当時の見方
ここでは、事件当時の動きを詳しく振り返ります。
2018年8月 ジェフリーとシェーンの動画シリーズ1
2018年8月以前から、ジェフリーは度重なる過去の人種差別発言や暴力の動画がSNSで拡散され、定期的に厳しい批判の対象になっていました。
しかし、ファンの支持は厚く、不思議なほど金持ちだともウワサされていました。シェーンの動画シリーズ1はこの謎の多い大富豪の実態に迫るという触れ込みでした。
動画シリーズ1は、ジェフリーのコスメブランドが大成功し、ジェフリーは投資家としても成功していることを世に広めました。同時に、ジェフリーは複雑な家庭環境や、過去の自傷行為も告白しました。ジェフリーが暗い過去を語り、自分は変わったと語ったことが共感を呼びました。この動画でジェフリーは差別主義者疑惑を晴らし、一気に名誉を回復しました。
賞味期限の切れたコメディYouTuberだと思われていたシェーンも、硬派なドキュメンタリーYouTuberとして再注目されました。
2018年8月 ドラマゲドン1
2018年8月、ドラマゲドン1が起こります。ドラマゲドンとは、「ドラマ」(炎上)と「アルマゲドン」(世界終末戦争)を合わせた言葉です。きっかけは、一枚の写真の投稿でした。
投稿では、美容YouTuberのマニーMUA、ローラ・リー、ニキータ・ドラゴン、ガブリエル・ザモラの4人が「あいつがいなくてせいせいする」と言っていました。
これはカーダシアン家の真似ですが、「あいつ」とはジェフリーだと界隈を知る誰もが思いました。
ジェフリーはSnapChatにすすり泣く様子を投稿しました。ジェフリーのファンはいじめに激怒し、写真の4人を攻撃し始めました。4人はそれぞれ釈明しましたが、ローラ・リーとニキータ・ドラゴンは過去の差別発言まで掘り起こされ、首謀者とみなされたマニーMUAの人気は失墜し、立ち直れないほどのダメージを受けました。
2019年1月 ジェームズ、タティ、ジェフリーのコラボ
2019年1月、ジェフリーとタティが、人気急上昇中の新鋭美容YouTuberジェームズのチャンネルに揃って登場します。内容はクイズで、ジェフリーとタティそれぞれのブランドの宣伝を兼ねたものでした。
2019年1月 ジェフリーとシェーンの動画シリーズ2撮影開始
2019年1月、動画シリーズ1の大成功を受けて、ジェフリーとシェーンは再びコラボ動画の撮影を始めました。テーマは美容業界の舞台裏と闇でした。YouTuberたちが続々参入している業界の利益の秘密は何なのか、なぜ炎上は美容界と切っても切れない関係なのか、インタビューを交えたシリーズになると予告されていました。
しかし、実際には炎上の当事者へのインタビューはシリーズには入らず、視聴者は不満をためることになります。
2019年4月 ジェームズがサプリを宣伝
2019年4月、ジェームズは野外音楽フェスのコーチェラ2に参加していました。
ジェームズがコーチェラに参加したのは、意中の人と会うためでした。ジェームズはSNSで知り合った青年をコーチェラに一緒に参加しようと誘ったのです。
コーチェラは2週にわたって行われます。1週目に参加したジェームズは、警備をつけていなかったのでファンにもみくちゃにされ、あまり楽しめませんでした。しかも、ジェームズは意中の青年にコーチェラのチケット目的で利用されただけだと気付き3、急遽、仕切り直しで友人と2週目も参加することにしました。ジェームズは、ニキータ・ドラゴンに紹介された企業に警備をつけてもらうことにしました。かわりに企業から提示された条件が、サプリの宣伝でした。
ジェームズとコーチェラに行った青年は曖昧な動画を投稿し、ジェームズの痴話ゲンカがドラマチャンネルで取り上げられます。
2019年5月 ドラマゲドン2
コーチェラでの宣伝はジェームズにとっては何の気なしにした小さな仕事でしたが、タティにとっては大きな裏切りでした。タティも自分のブランドでサプリを売り始めたところだったからです。公私ともにジェームズとつきあいのあるタティは、サプリ会社の設立に時間と労力を費やしてきたことを知っているはずのジェームズが他社の宣伝をするのが許せなかったのです。
ジェームズの投稿の後、タティは泣きじゃくり、「ハリウッドは醜い」とほのめかす投稿をしました。
何があったのかと人々がざわつく中、2019年5月、ジェームズに向け動画“Bye Sister…”4を公開し絶交を宣言します。
タティは、ライバル社のサプリを宣伝したジェームズの不義理をなじり、私生活の行状を告発しました。この動画がきっかけでジェームズの信用は失墜します。
ここでジェフリーも参戦し、「ジェームズは青少年を性的に暴行している。自分はほかの被害者の名前も知っている。」とほのめかします。
数日後、ジェームズは動画を投稿して自分は潔白であると主張し、徐々にこの主張が受け入れられて炎上は沈静化しました5。
2019年9月 タティとジェフリーが仲違い
2019年9月ごろ、タティとジェフリーは仲違いしたとみられます。ソーシャルメディアでの交流はしばらく前からなくなっていたため、関係はそれ以前から悪化していた可能性があります。この時点では、視聴者にはその理由はわかりませんでした。
2019年11月 ジェフリーとシェーンの商品が記録的な売上げ
2019年8月にジェフリーとシェーンのシリーズ2の公開が始まりました。美容業界の利益の仕組みは語られましたが、ジェフリー以外の美容YouTuberは登場せず、炎上については語られずじまいでした。
2019年11月に動画の中で企画が進められていたコラボ商品が発売されると、商品は爆発的な売れ行きを見せました。再生回数の高い人気動画シリーズだったので、宣伝効果は抜群だったようです。話題性に便乗した転売目的の買い占めもありました。
学校を休んでモールに買いに行く子どもたちもいました。発売当日にはアクセスが集中したサイトがダウンしています。
当初、全9作と発表されていたシリーズは、商品が発売されると尻すぼみになり、全7作で完結となりました。
動画シリーズは、シェーンがコスメ業界の成功者ジェフリーに教えを受けて商品を作り、宣伝する長尺のCMだという批判も出ました。しかし、この時点では批判よりも賞賛の声が大きかったようです。
その後、追加の商品も発売されています。
2020年6月 ジェフリーとシェーンが相次いで告発される
2020年6月、シェーンとジェフリーの知人であるキャメロン・レスターとタブ・デイヴィッドが相次いで二人の悪行を告発する動画を投稿しました。
告発は「シェーンもジェフリーも、人種差別主義者で、人の悪口ばかり言っている。」というものでした。過去の動画やSNS投稿で彼らの人格に問題があることは一部では知られていましたが、多くの人々は問題視していなかったり、知らなかったりしました。しかし、今回の告発は注目を集めました。
ドラマチャンネル6のアシュリー・カイルも動画を投稿し、ドラマゲドン2の前後にジェフリーから送られてきたメッセージを公開しました。
メッセージでジェフリーは、ジェームズに関する悪いウワサをほのめかし、それを動画にするようにアシュリーに促していました。ジェフリーは同じようにして誰彼なく悪口を吹き込んでいたようです。平然と他人の悪口を言う様子を見せられると「この人は他の人の前では自分のことをどう言っているのだろう?」と不安になります。「これがジェフリーが他人を支配するやり方だった。」とアシュリーは振り返っています。
ドラマチャンネルは美容YouTuberから個人的に情報を流してもらえれば再生回数を稼げます。そのため、美容YouTuberとの関係を良好に保つ必要があります。アシュリーは気味悪く思いながらもジェフリーから情報を受け取っていました7。
また、メッセージには、「シェーンも同じ意見だ。シェーンにもタティの告発動画がトレンド1位になっていると伝えなくては。」とありました。アシュリーは、「当時は『なぜシェーンが?』と思った。しかし、今になって、シェーンもジェフリーと結託していたとわかった。」と言っています。
ここに至って、「ドラマゲドン2の黒幕はジェフリーとシェーンだったのでは?」という疑いが深まりました。
疑惑を受けて、シェーンはTwitterに長文を投稿しました。内容は、「自分は潔白だ。美容業界は頭がおかしい。もう金輪際かかわらない。」というものでしたが、これはドラマチャンネルYouTuberおよび一部美容ファンの憤激を呼びました。
怒った人々はシェーンの過去の不適切な動画を掘り返し、告発を始めました。その結果、シェーンはハリウッドセレブのスミス家からも批判を浴びることになりました。
2020年6月 タティの告発(カルマゲドン?)
2020年6月、タティが動画を公開し、ジェフリーとシェーンにそそのかされてドラマゲドン2の告発をしたと認めました。
動画でタティは、「確かに告発動画を投稿したのは自分だが、彼らに仕向けられた。シェーンはドラマゲドン2に無関係だと言っているが、これはウソ。シェーンはサムネを作ると申し出てきた(が断った)。私は汚い動画を投稿した人として叩かれた。それは甘んじて受け入れるが、糸を引いていたのは彼らだった。」と主張しました。
動画公開から30分後、シェーンは、タティの動画を再生しながら取り乱し、悪態をつく様子をInstagramでライブ配信しました。注目すべきことに、タティの動画は全40分のため、最後まで見終わらないうちにInstagramライブを始めたことになります。その後、2020年9月に至るまでシェーンは一切SNSの投稿をしていません。
ジェフリーはおよそ3週間後に釈明動画を投稿しましたが、コメント欄は批判が集中したため公開後1時間ほどで閉鎖され、高評価・低評価の数は高評価率が50%台に落ち込んだため数日で非公表になりました。
(2022年3月13日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
その後に投稿された動画も高評価は70%台になっています。普段は高評価が95%以上だったジェフリーとしては低い数字です。SNSへの投稿も低調です。
この一連の騒動は「ドラマゲドン3」または「カルマゲドン」と呼ばれています。「カルマゲドン」は「カルマ」(業)にかけた言葉です。ジェフリーとシェーンにとっての因果応報という意味です。
現在からの視点
2020年9月時点では、それぞれの事件の背後にある、当時はよく見えなかったものが見えてきています。
2018年8月 ジェフリーとシェーンのシリーズ1
シリーズ1はジェフリーを過去の悪事を反省して生まれ変わった優秀なビジネスマンとして描きました。同時に、このシリーズはジェフリーにつきまとう悪いイメージをぬぐい去りました。
ジェフリーには差別主義者だという悪評がありました。シェーンは動画の中で「なぜ差別主義者だと批判されているの?」とジェフリーに質問しています。ジェフリーは過去の人種差別発言の例を出して「自分が外見をバカにされたときにやったこと。自分はコンプレックスがあるから。」と答えました。また、過去の自傷行為を語り「全身にタトゥーが入っているのはその過去を葬り去るため。」と語りました。これが多くの人の共感を呼び、ジェフリーは免責されました。
シェーンのシリーズはジェフリーを美化しすぎていた嫌いがあります。シェーンの熱狂的ファンはシェーンを「ドキュメンタリー作家」だと言っています。しかし、このシリーズに限らず、シェーンの動画は真実に迫ることを目指すドキュメンタリーというよりも、炎上した人物のイメージ回復を狙うPR動画の趣があります。ドキュメンタリーにしては対象に感情移入しすぎています。
それはシェーンにもジェフリーと同じように差別的な動画をコメディとして投稿してきた過去があったからでしょう。シェーンにはジェフリーを免責したい気持ちがあったのです8。
シェーンが有名なYouTuberだったため、シェーンの古参ファンや、これまで美容YouTuberにあまり興味のなかった人々がジェフリーのファンになりました。
これはジェフリーにとっては願ってもないことでした。悪評を消し、商品を広い層に宣伝できたからです。シェーンの動画はジェフリーにとっては自分のYouTuberとしての評判と影響力を増す魔法でした。
一方、シェーンは以前から動画で自分は貧乏だと言ってきました。もちろん有名なYouTuberですから誇張です。それでもジェフリーの豊かさには圧倒されたようです。シリーズ1でジェフリーに「私をリッチにして!」と言うシーンがあります。
Well @shanedawson got his wish! He secured that bag & Jeffree made him rich…. but at the cost of respect. pic.twitter.com/DK6FmWYC4z
— Randi Savage (@randi_savage) June 21, 2020
「YouTuberとしての人望もキャリアも自分が上のはずなのに、なぜジェフリーは桁違いに金持ちなんだろう?」と思ったのでしょう。シェーンは美容業界の金に魅惑されたようです。
シリーズ1で、シェーンとジェフリーは利害の一致を発見し、急接近しました。
2018年8月 ドラマゲドン1
ドラマゲドン1は、騒動から2年が経過し、ジェフリーを告発する声が大きくなった現在の視点に立つと、当時とは全く違って見えます。
ジェフリーが人々を操る手口が告発された後になってみれば、マニー、ローラ、ニキータ、ガブリエルが「あいつ(ジェフリー)がいなくてせいせいする」と言ったのは、無理もないことだったとわかります。ジェフリーは彼らの周辺も引っかき回し、不和の種を蒔いていたのでしょう。
しかし当時の受け止め方はそうではありませんでした。ジェフリーのスタンファンとその周辺は、「ジェフリーがいじめられてかわいそう!」と叫び、彼ら4人を攻撃していました。ローラの過去の人種差別発言が批判されたのも、4人を叩く空気が生まれ、人々が過去の不適切発言を探し回ったからです。
このときジェフリーは、彼らは終わったという印象を作り上げ、YouTube美容界最強の実力者となることに成功しました。アシュリーがドラマゲドン2について証言したことから類推すれば、ドラマゲドン1のときにもジェフリーは真偽不明の情報を流してドラマチャンネルに動画を作るよう促していた可能性があります。
ローラとニキータ以上の差別発言をした過去があり、すでに告発されていたジェフリーが彼女たちの差別発言を利用して勝者となったのは今となっては信じがたいことです。しかし、当時の集団心理は勧善懲悪でした9。
見方が変わるまで2年もかかったことになります。
2019年1月 ジェームズ、タティ、ジェフリーのコラボ
2019年1月のコラボ動画について、タティは2020年6月の告発動画で「ジェフリーからは『ジェームズは、タティではなくニッキー・テュートリアルズに出演して欲しかった、と私に言っていた。』と聞かされた。」と話しています。ジェフリーは陰でウソかマコトかわからない情報を流して、タティとジェームズの仲を裂いたようです。同時に「このころジェフリーがジェームズの悪口を頻繁に言うようになった。」ともタティは話しています。
同じころ、シェーンはジェームズに失礼な質問をしています。ジェームズの動画“My Best Friends Expose Me…”でジェームズに「自分の収入を見てにやにやしてない? 本当は嫌いなのに、ソーシャルメディアでは仲良いふりをしている人がいない?」と聞いています。
So.. i was randomly watching James’s old video from Jan 2019 ‘My Best Friends Expose Me’ and there’s a question from @shanedawson. These questions did not seem as a joke and look like he’s asking those to project james as an ENTITLED EGOISTIC PERSON WTF pic.twitter.com/KZdzW02xNB
— g r a c i e ? (@graciedolan69) July 1, 2020
シェーンは、ジェフリーのためのシナリオ作りをせっせとしていたように見えます。
2019年1月 ジェフリーとシェーンのシリーズ2撮影開始
ジェフリーとシェーンのシリーズ2は、美容業界の大儲けの裏舞台と、美容界の炎上の背景に迫るという触れ込みでした。
本編では炎上の背景についてはほとんど触れられず、視聴者からの非難を浴びました。しかし、シェーンが撮影していた形跡はあります。
シリーズの予告編には、涙を流しているシェーンや、2019年5月のジェームズの釈明動画を観る様子、またジェフリーが無表情で何かの動画を観ている様子が挿入されています。
(2021年5月30日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
タティは2020年6月の動画で「シリーズ2を撮影中のシェーンに、炎上について触れてほしくないと伝えた。」と言っていました。「一話しか扱わない。」とシェーンは答えたそうです。ジェームズとも同様のやりとりをしています10。
またタティは、2019年5月にジェームズを告発した日のことを振り返っています。その日、シェーンは、タティが“Bye Sister…”を公開したあとの様子を撮影させてくれと言ってきたのだそうです。タティは断りましたが、シェーンはタティの告発を事前に知っており、その様子をシリーズ2に入れるつもりだったことになります。これはマッチポンプ式のスキャンダルジャーナリズムのやり方です。
シェーンは「フォロワーにアンケートで『ビジネスと炎上のどちらを見たい?』と聞いたらビジネスが多かったから炎上を扱うのはやめた。」と言っていますが、今となっては疑わしい発言です。商品が完売した後、本来の予定ではあと3話あるはずでしたが、シェーンはやる気を完全に失っていました。宣伝動画を続ける必要がなくなったからでしょう。シリーズ1で「リッチになりたい」と言っていたシェーンはここで本当にリッチになっていました。
いま振り返って、シリーズ2は二つの点で後の展開に重要な役割を果たしました。一つは、視聴者をがっかりさせたこと。もう一つは、シェーンがウソつきだというイメージが広まったことです。
炎上の背景を知りたがっていた視聴者は裏切られたと感じました。「シェーンが予告編で涙を流していた理由は? ジェームズの釈明動画のカットは何だったの? ジェフリーが無表情で動画を見ていたのは?」という声が上がりました。シェーンが何かを隠している印象も生まれました。
(2021年10月23日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)
シェーンはこの時期、ジェフリーのプライベートにも同行し、長時間撮影していたはずです。タティもアシュリーも、ジェフリーからのメッセージにはシェーンが登場していたと言っています。ジェフリーが誰にどんな電話をかけて、どんなメッセージを送り、何をしていたのかを知っていたはずです。もし彼が本物のドキュメンタリー作家であれば撮っていたはずでした。
2020年9月の視点からは、2020年6月のタティの動画を見ながらInstagramライブで「ウソつき! ウソ泣き!」と叫んでいたシェーンは、自分のシリーズのことを言っていたようにも見えます。
shane dawson just got on instagram live in response to tati’s new video “breaking my silence..” pic.twitter.com/dGUjEoZK5K
— shook (@shook_yt) June 30, 2020
2017年のジェフリーとシェーンのコラボに、二人でアンチ動画を観る動画がありました。アンチの口撃をジョーク混じりに軽くあしらう二人の大物ぶりを印象づけるものでした。しかし、取り上げられた「アンチ」の動画をすべて確認したディアンジェロ・ウォレスは違う印象を持ったといいます。実は、「アンチ」は彼ら二人の過去の問題行動や問題発言を淡々と取り上げていました。ところが、二人はまっとうな批判はカットして低レベルな批判だけを残し、バカにするような取り上げ方をしたのです。
二人を批判する人々は当時からいましたが、多数派にはなりませんでした。このころ、二人の大物は批判を「バカげていて取るに足らない。」と一蹴できていたのです。
2019年4月 ジェームズがサプリを宣伝
コーチェラでのジェームズの宣伝は偶発的な事件でした。
しかし、メーカーとの契約から私生活までジェームズの面倒を見てきたタティからすれば、裏切りと映る行為だったようです。ビジネス以外の面でも二人は友情をはぐくんでいたと思われます。
しかし、「ロサンゼルスに来た後のジェームズが自分を追い抜き、どんどん成長し、高収入になったら人が変わってしまった。」とタティが思ったのも理解できます。
この時期、シェーンとジェフリーはタティとの距離を縮めていました。2019年4月のシェーンのInstagramには、シェーンが動画の撮影にタティの家を訪れたときのものと思われる投稿があります。背景にはタティのサプリと、ジェフリー・スター・コスメティックスの商品が積み上げてあります。関係の密接さがうかがえます。しかし、シリーズ2にはこのときに撮影した映像は一切使われていません。
このとき、タティはかつて性的暴行の被害を受けた過去をシェーンに告げました。シェーンを強く信頼していたものと思われます。シェーンは「自分は共感能力が高い。だからジェフリーのように一度評判が地に落ちた人をほっとけない。あなたも一生支え続ける。」と答えました11。
2019年5月 ドラマゲドン2
タティの2019年5月の告発は、ジェームズの対応が鈍くなるタイミングを狙って公開されたと言われています。この日、ジェームズはオーストラリアのイベントに参加していました。時差もあり、スタッフの一部しか同行しておらず、動画撮影機材も乏しかったと思われます。
ジェームズの釈明動画は、ホテルの一室で撮影され、よく見るとジェームズの口角に白い泡があります。タティの告発がジェームズにとってどれほど不意打ちだったかがわかります12。
2020年6月の動画で、タティは「2019年5月の動画を作ったのは『ジェームズが一般の若者を性的に狙っていて犠牲者がいっぱいいる。このままでは大変だ。』とシェーンとジェフリーに吹き込まれたから。」と語っています。仲良くなったジェフリーからジェームズの素行不良を聞かされたタティは次第にジェームズへ不信感を募らせていました。しかし、当初はサプリの方が大きい理由だと説明していました。どちらが真相なのかは不明です。
一連の出来事の背景が明らかになってから振り返ると、シェーンとジェフリーは少なくともある程度はタティを操作していたと思われます。ジェフリーは急成長するジェームズを追い落としたかったでしょう。まさにマニーMUAとローラ・リーを葬り去ったドラマゲドン1の再現を狙ったのです。それは少なくとも一時的には成功しました。
アシュリーの証言を信じるなら、ジェフリーとシェーンは共謀して、ドラマチャンネルも巻き込みジェームズの追い落としを図ったようです。
ドラマゲドン2では、サプリの宣伝についての感情の行き違いと暴行疑惑の告発というアンバランスな組み合わせが、テレビでニュースになるほど巨大な登録者数の減少を引き起こしました。これはスケールが大きいのか小さいのかわからない、腑に落ちない話でした13。しかし、ジェフリーとシェーンがタティとジェームズの間に感情的なこじれを発生させ、針小棒大でスキャンダルを仕立て上げ、ドラマチャンネルを動かしてキャンセルカルチャーをたきつけていたとすれば、違和感は少し解消します。
2019年9月 タティとジェフリーが仲違い
タティがジェフリーとの関係を切ったのがいつなのかははっきりわかりません。シェーンとジェフリーのシリーズ2の予告編が出たとき(2019年9月24日)に関係を切ったのではないかと思われます。
タティは2019年5月の告発で一時登録者数を数百万人増やしましたが、その後は一貫して登録者を失っています。タティはジェフリーに陥れられたと思っているのでしょう。2020年6月の動画で宣言したジェフリーに対する訴訟14もこの時期から準備が始まっていた可能性があります。
一方、2019年の年末にはタティとジェームズは和解していました15。この事実はタティの2020年6月の告発まで公表されていませんでした。
2019年11月 ジェフリーとシェーンの商品が記録的な売上げ
シリーズ2のプロパガンダが功を奏し、コラボ商品は爆発的な売上げとなりました。
シェーンのファンは、自分が貧乏だと言い続けてきたシェーンを応援したいと思い商品を購入しました。一方、ジェフリーは常々、自分は商品ではなく芸術・体験・美意識を売っているのだと言い続けてきました16。ジェフリーの商品をシェーンの影響力で売る構図が完成したのです。
コラボ商品の売れ行きはよく、一般の反応は悪くありませんでした。しかし、美容YouTuberのウワサを取り上げるドラマチャンネルの間では、炎上を取り上げず商品説明に終始したシリーズ2への不信感が募っていました。また、コスメに全く興味を示してこなかったシェーンが「コスメ大好き!」と言い、商品を売り出し、しかし自分のチャンネルには全く化粧動画を投稿しないことも不興を買いました17。
Just went back through some old receipts & this one from @shanedawson IG stories did NOT age well. “I don’t want to look like a fraud” “I want to learn about & learn how to do my makeup.” #ShaneXJeffree ? pic.twitter.com/SxyYvX2Tnv
— Randi Savage (@randi_savage) June 21, 2020
2020年6月 ジェフリーとシェーンが相次いで告発される
ドラマゲドン1とドラマゲドン2であまたの敵をなぎ倒し、コラボ商品を驚異的な速度で売りさばき、2019年から2020年にかけてのシェーンとジェフリーは向かうところ敵なしでした。
しかし、2020年6月、キャメロン・レスターとタブ・デイヴィッドの告発で状況が一転します。彼らは「シリーズ2の撮影中の時期、シェーンがラスベガスにいるジェフリーにFaceTimeでジェームズの悪口を言っているのを見た。」「業界関係者の前で悪口をわざわざ聞こえるように言っている。」「平気で悪口を言うのが不気味で、逆らえない雰囲気だった。」と言いました。
これと同じような振る舞いのウワサは以前からSNSで出回っていました。しかし、キャメロンとタブの告発が流れを変えました。理由は三つでした。第一に、私生活で交流のあった人からの告発だったことです。告発されたやり口はその後に出たタティやアシュリーの証言とも一致しています。第二に、動画シリーズ1と2で蓄積したジェフリーとシェーンの二人への不信感です。
第三に、この告発が流れを変えた理由として無視できないのが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックとブラック・ライブズ・マター運動です。
パンデミックは、人々の怒りや不安を増幅させ、同時に連帯の必要も痛感させました。これまでも米国では人種差別に基づく事件が起こり、そのたびに抗議活動が発生していました。しかし、2020年のブラック・ライブズ・マター運動ほど長く多くの地域で続いた例はありません。パンデミックのストレスによって人種差別的な行動が出やすくなっていたこと、また人種差別に限らず様々な事象への怒りが募っていたこと、そして外出も仕事もできなくなり、人々に社会問題に関心を向ける時間があったことがその理由だったでしょう。
キャメロン、タブ、アシュリーの告発が大きな力を得たのはブラック・ライブズ・マター運動と同時期だったからでしょう。差別や不公正に反対する声に耳を傾ける空気が醸成されていました。「この世界は誰かが利益を得ているが、誰かは不利益を被っている」と感じる人々が増え、今まで無視されていた声が届く空気になりました。時期が違えば、彼らの声は力を得られなかった可能性もあります。事実、2018年にジェフリーを告発したトーマス・ハルバートとデイヴィッド・シザーハンズは黙殺されました18。
この時期、他の多くのYouTuberも過去の動画について釈明し、謝罪し、削除しています。
外出制限で暇なため、シェーンとジェフリーの過去のSNSの問題発言を発掘できる人が多かったのも炎上が大きくなった理由です。「私生活でもヤバい人だった」と思わせる発言が無数に発掘されました。
一番腹立たしいのは、みんなもう知ってたってこと。クリエイターがみんなジェフリー・スターについて黙っていたことからすれば、彼がどれだけの怪物だったか、今も怪物であるかがわかるでしょう。この一人の男に命を脅かされているとみんな感じてた。
The most annoying thing about this is that WE ALLL KNEW…the silence towards Jeffree Star from so many creators was not enough for people to understand how much of a monster he is/was. People were literally scared for their lives because of this one man
— Patricia Bright (@PattyOLovesU) June 30, 2020
ジェフリーはドラマゲドン2でジェームズに対し「おまえのようなやつが美容界でのさばるのは許しがたい」と断罪しました19。しかしその根拠は提示せずにうやむやにしました。ジェフリーは差別主義者で性的暴行者だと他人を罵倒し、しかも罵倒による脅しで他人を操っていたにもかかわらず、本人が差別主義者で性的暴行者だったと見られるようになりました。
シェーンもドラマゲドン2の経過を撮影していたのに、全くそれを表に出していなかったことも改めてクローズアップされました。美容業界の闇を暴くなら、これまでYouTube美容界の炎上の中心にいたジェフリーの行状こそ動画にするべきでしょう。しかし、シェーンは商売のために不利だからそれを隠したのだとみられるようになりました。
ドラマゲドン2から一年が経ち、人々が冷静に振り返り始めたのも変化の要因でした。もはやドラマゲドン2はジェフリーがジェームズを排除するために巡らした陰謀としか思えなくなっていました20。
シェーンは自分は傍観者だと自称してきました。しかし、シェーンはジェフリーの陰謀の共犯者だと考えられるようになりました。告発者たちの証言では、シェーンはジェフリーと一緒になってジェームズやその他の人々の悪口を言っていました。シリーズ2の予告編が結果として釣りだったこと、シリーズ2が不誠実な作品だったことがこの印象を補強しました。
YouTubeドラマチャンネルが騒ぐ中、シェーンのフォロワーが減り始めます。座視できなくなったシェーンは長文の釈明を投稿しました。
釈明は「自分は何も悪いことはしていない。タティが動画を作ろうとしていたのは知っていたが、操っていたつもりはない。ジェームズは自業自得だし、タティは悪人。自分は元々美容界の人間ではない。美容界の連中は頭がおかしい。もうやめる。」という内容でした。YouTube美容界に砂をかけて出て行く内容だったため、ドラマチャンネルの逆鱗に触れました。
外出制限で時間的余裕があったためか、ドラマチャンネルたちはシェーンの過去動画を発掘し、児童性愛・動物虐待・人種差別の表現を見つけては拡散します。
シェーンは過去の不適切な動画を消し始めましたが追いつきませんでした。ついにはハリウッドセレブのスミス家にも批判される事態になりました21。
6月2日からシェーン・ドーソンが1億6300万再生分の動画を消したのは妙だな。まるでとんでもないことが起こるのを事前に知っていたみたいだ。先日の投稿は計画通りだったってことかな? どう思う?
Wow it’s weird how @shanedawson deleted over 163 MILLION views off of his Shane Dawson TV channel, starting on June 2. It’s almosr like he *knew” ? was gonna hit the fan… ? Which make me think his post the other day may have been planned… Thoughts? #shanedawson pic.twitter.com/QYyjfkdhf8
— CodeDebYT ? (@CodeDebYT) June 23, 2020
かつての共演者は、シェーンは一度ならずブラックフェイスをやってきた無自覚な人種差別主義者だと言っています。2018年のシリーズ1でトラウマを持ち出して過去の人種差別発言を美談にしてしまったのは、2020年ならば不適切とみなされたはずです。「ジェームズは自業自得」なら、シェーンとジェフリーもそうなのではないか、と人々は感じるようになりました。
2020年6月 タティの告発(カルマゲドン?)
2020年6月の動画でタティは多くの事実を暴露していますが、中でも無視できないのが2019年5月の告発についての証言です。2019年5月、ジェームズがオーストラリアにいて身動きがとれないタイミングでタティは動画を投稿しました。タティはこのとき、「この告発を受けたらジェームズはショックを受けてホテルの高層階から飛び降りるかもしれない。」と心配したそうです。シェーンに連絡したところ「彼はナルシストだからそんな心配は無用。」と言われ、タティは公開を決断したのでした。
ドラマゲドン2に火をつけた動画の責任はもちろんタティにあります。ジェフリーとシェーンに「ジェームズが多くの人々を性的に暴行している」と聞かされ行動したとタティは語っています。現在、多くの人々がタティの説明で腑に落ちないと思っているのは、「なぜジェームズに直接言わなかったのか?」です。この疑問が残っているためタティの信頼は回復していません22。
この告発動画を投稿するようにタティを精神的に追い込み、ジェームズを陥れる根回しをしていたのはジェフリーとシェーンだったとタティは振り返っています。おそらく、ジェフリーとシェーンの二人が、ジェームズ本人に問い質すのが容易ではないとタティに思わせる空気を作ったのでしょう。これは他の証言から窺われる彼らのやり方からすればありそうな話です。しかし、確証はありません。
タティの動画を見ながら取り乱すシェーンのInstagramライブは各方面にさまざまな反応を引き起こしました23。
シェーンはその後SNSを更新していません。Twitterでいいねもしていません。次に彼が何をして、どのよう名誉の回復を試みるのかは不明です。
ジェフリーも同じ頃からSNS投稿を停止し、その後再開しましたが、不活発なままです。謝罪らしき動画も投稿しましたが、「周囲の人々に巻き込まれてこうなってしまった。自分は悪くない。」という内容でした。ジェフリーに厳しくなったYouTube美容界は、彼のいつもの言い訳だと受け止めています。
Morpheもジェフリー・スター・コスメティックスとの提携の終了を発表しました。
自分を批判する動画を消させていますが、人気回復の兆しは見えません。2020年8月下旬に発売したOrgyパレットはこれまでの彼の商品とは違い、即日完売とはなっていません。
Beauty Newsの二人は「これまでは動画でジェフリーを取り上げなければコメント欄に抗議の声が上がったのに、最近はジェフリーを取り上げると抗議の声が上がる。空気は確実に変わった。」と言っています。
事件の背後にあるものと残る疑問
一連の事件の背後には何があるのでしょうか? それは、コスメ業界の利益とファン心理です。
近年、YouTuber以外にTikTokerやInstagramerなどのインフルエンサーが多数コスメ業界へ参入しています。ハリウッドセレブの参入も少なくありません(リアーナ、YouTuberタナ・モジョ、TikTokerダミリオ姉妹、インフルエンサー多数、YouTuberキーム・スター)。
コスメは一点あたりの価格が(アパレルなどと比較すると)低く、消費者にとっては気軽に手にしやすい商品です。長期的な見通しの立ちにくい世帯の多い昨今、売り方によっては儲けやすいコスメに商機があるとみて参入しているのです24。
実際、ジェフリー・スターもジェームズ・チャールズもタティも、そしてシェーンも、コスメで莫大な利益を上げています。利益があるところには争いがあります。
YouTubeなど動画メディアとコスメの親和性も見逃せません。消費者は動画で使用感を見たがります。人気美容YouTuberの面白い語りも歓迎します25。視聴者はYouTuberを喫茶店で話し込んでしまう友人のように感じ、彼・彼女を信じてコスメを買います。YouTuber自身が広告塔となり、YouTuberのこだわりを盛り込んだコスメとなればなおさらです。
ジェフリーの差別的発言が許容され、自分は生まれ変わったという主張がしばしば感動的に受け入れられるのも、ファン心理に理由がありそうです。自分自身かつて差別的発言をしたことのあるファンには許したい心理が働くでしょう26。しかし、社会は変わりつつあり、この心理は働きにくくなってきました。
以上が2020年9月時点の視点です。しかし、いくつか疑問も残ります。
2018年8月のシェーンとジェフリーのシリーズ1の公開直後にドラマゲドン1が起こりました。また、2019年5月のドラマゲドン2はシリーズ2の撮影と重なっています。これは偶然の一致でしょうか? それとも、シェーンとジェフリーの共謀のもう一つの証拠なのでしょうか?
ジェフリーやシェーンはインフルエンサーによるコスメブランドというきわめて現代的なビジネスを立ち上げ、SNS上の熱狂的なファンという同じく現代的な力を背景に業界を席巻しました27。ところが、予想外の反差別運動の台頭で力を失いました。しかし、この見立ては正しいのでしょうか? それとも、何か本質を捉え損ねているのでしょうか? 彼らはSNSがなくとも影響力を持てたのでしょうか? また、反差別運動の盛り上がりがなくとも彼らはいずれ倒れたのでしょうか?
これからどんな事件が起こるかを見ていけば、その答えがわかるでしょう。そしてそれは、今後のインフルエンサーたちが作っていく歴史を予見する手がかりになるでしょう。
Image: jeffree green, AKINA LECLERE, Famous Entertainment, Tea By Ali, The Shane Dawson Docuseries Analysis
注
- この記事で取り上げたジェフリー/ジェームズ/タティ/シェーンの事件以外に、ジャクリン・ヒルの欠陥商品やコール・キャリガンの一連の騒動もあるが割愛する。ちなみに、ジェフリーの商品も複数回返金騒動が起こっている(こちらとこちらとこちら)。
- コーチェラ・フェス(Coachella)は例年4月に行われる音楽フェス。
- 青年はコーチェラに向かう前ジェームズに「自分はバイかも」と伝えていたが、結局「やっぱ違った」と最終日にジェームズに告げ、縁を切った。
- ジェームズの動画はいつも“Hi, Sisters!”という呼びかけから始まるため、この動画タイトルはジェームズとの決別を意味する。
- ジェームズに関係を迫られたと主張する数名が動画を投稿しているが、性的暴行というほどではないという結論に落ち着いている。
- ドラマチャンネルとはYouTuber同士のドラマ(炎上・ケンカ)を主に扱うYouTubeチャンネル。アシュリー・カイルのチャンネルもその一つ。
- 筆者もNick Sniderが騒動が起こるたび数時間で動画を出してくるので不思議に思っていたが、情報が前もって流れていたのだとわかると納得である。
- シェーンがイメージ回復を図った炎上系YouTuberのジェフリー、タナ・モジョ、ジェイク・ポールが全員白人で人種差別的発言の過去があるのは偶然だろうか?
- しかし不思議なのは、問題のツイートを投稿したのがガブリエルなのに、ガブリエルは早々に免責され、大打撃を被ったのがローラと特に首謀者とみられたマニーだったことである。マニーをたたき落とすのが目的だったかのように見える。
- こちらのツイートにあるジェームズの友人の証言が詳しい。予告編で生傷を開くようなことはやめてくれとジェームズが頼んだにもかかわらず、シェーンは拒否した。
- 繰り返しになるが、「評判が地に落ちた白人YouTuber限定」だろうか。
- こちらの記事に貼られていた動画だが現在は削除されている。
- 当時、米メディアはこの話題で持ちきりだった。格闘技マニアの中年コメディアン、ジョー・ローガンはあまりにも方々で話題になっているので、小学生の娘に何が起こっているのか教えてもらったと語っている。
- タティの夫は複数の訴訟を抱えている人物である。もう一つ抱え込むのは、勝算があるからだろうか。
- タティが2020年6月の動画で述べている。
- しかし、ジェフリー・スター・コスメティックスは高級路線まではいかない。
- 発売した商品に合わせた名前のサブチャンネルShaneGlossinも作成したが、いっこうに化粧動画を投稿しない。
- 美容YouTuberのトーマス・ハルバートはウソつきなので、もともと評判が悪かったのも黙殺の理由。
- ジェフリーはさまざまな方法で周囲のYouTuberたちの弱みを握り、脅迫し、権力を得ていると言われることがあるが、真偽は確認できない。ジェームズの「性的暴行」の被害者を知っていると言ったのはその例として挙げられる。
- ジェームズの交友関係についても触れておく。事件以前にジェームズはエマ、ドラン兄弟と友だちづきあいをしており、4人はファンからはSister Squadと呼ばれていた。彼らは歳の近い成功したインフルエンサーで、境遇が似ていたため意気投合したようだ。しかし、ドラマゲドン2で3人はジェームズのフォローをはずし、3人だけでのコラボするようになる。さらに、ドラン兄弟は相次いでジェフリーとのコラボ、シェーンとのコラボを行い、関係の悪化は決定的になる。シェーンとジェフリーが告発された後、エマはジェームズと和解し、コラボ動画を作った。
- しかしシェーンはスミス家に対して正式に謝罪していない。
- ドラマゲドン2ではジェームズがオーストラリアにいるタイミングを狙い、カルマゲドンはキャメロン、タブ、アシュリーの告発が出てシェーンが「釈明」した直後を狙ったタティの周到さも不気味である。
- 男性の(美容ネタを普段あまり取り上げない)コメンタリーYouTuberはシェーンは終わったとみる向きが多く、女性のドラマチャンネルYouTuberはそこまで極端な見方をしていないことが多いようだ。
- 完全に投資家の広告塔としてインフルエンサーが使われている例もある。TikTokerのアディソン・レイもコスメブランドを立ち上げたが、安っぽく、男の投資家の発想が透けて見えると指摘されている。
- 人気YouTuberに話し下手はいない。ジャクリン・ヒルは話のうまさが抜群である。
- ジェフリーの購買層にはカレンも含まれる。
- 本記事では触れられなかったが、ジェフリーがYouTuberのドキュメンタリーシリーズをつぶした事件はジェフリーの影響力を見せつけるものだった。