消えた文化の架け橋 貧乏料理とロシアなまりで人気のLife of Borisが「ロシアの軍艦よ、くたばれ」と言い残してYouTubeを去る

YouTuberニュース

遠くの国の、普段まったくふれる機会がない文化を知ることができるのがネットのいいところです。テレビでしか見たことのない、あの人々はどんな暮らしをしているのでしょう? どんな経験をしているのでしょう? 抱腹絶倒の面白い経験も、思いもよらない恐ろしい経験もあるかもしれません。いずれにせよ、幅広く情報を収集して自分の意見を形作れるのはよいことです。

YouTubeは世界中の国々でサービスを展開していますから、世界中の声を聞くことができます1。今回は、遠い国のボリス(Boris)の動画から彼の笑いと悲しみを紹介します。なぜ「悲しみ」なのかは、すぐにわかります。

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ライフ・オブ・ボリス

YouTube登録者数338万人のライフ・オブ・ボリス(Life of Boris)は、チェーンソーを使った料理動画や、金欠でも美味しく料理する動画、スラブ系が○○をしたらシリーズなどで人気になりました。ボリスはロシアなまりの英語を駆使していますが、どこに住んでいるのかははっきりしません。ロシア在住だと言っている動画も、エストニア在住だと言っている動画もあるようです。ボリスは1986年生まれです。

こちらは『ボリスがスラブなまりで米国の州を発音したら』という動画です。470万回以上再生されています。特にマサチューセッツ州、ミシシッピ州、オハイオ州、ワイオミング州の発音に苦戦しています1

Slav pronouncing U.S. states

こちらは『ポテトの皮料理』です。ジャガイモの皮を厚めに切り美味しい料理にする方法を紹介しています。

POTATO PEEL RECIPES 🥔🥔 – budget cooking with Boris

貧乏飯はボリスの得意分野です。本サイトの各国の貧乏飯対決記事でもスラブ系の代表としてボリスの動画を紹介していました。「おばあちゃん」に食材を恵んでもらうばかりで現実性のない節約プランがツボでした。ボリスの動画では「おばあちゃん」(бабушка、バブシュカ)という単語がよく出てきます。

ボリスはアディダスのジャージを常に着たガラの悪い若者のキャラで通しています。これはゴプニクと呼ばれる人物類型をコミカルに再現したものです。いわばスラブ系チンピラです。

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(2022年10月2日:削除されたInstagram投稿をキャプチャ画像で置き換えました。)

ゲームプレイやDIYや車や旅行など様々なジャンルで、ロシアなまりの早口英語と無理矢理加減が笑いを誘う動画の数々を世に送り出し、ボリスは支持を得ていました。

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2月26日に消えた文化の架け橋

「支持を得ていました」と書いたのは、2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻すると、これまでとは全く雰囲気が異なる動画を公開したからです。

動画は2022年2月26日に公開されました。黒い背景に文字と音声だけの『終わった(all is lost)』と題された動画です。

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(2023年1月22日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)

この状況を恥ずかしく思う。ロシアとベラルーシのゲーム会社はもう俺にメールを送らないでくれ。返信はしない。こんな動画は作りたくなかった。政治的なことには関わらない信条だったけど、そんなことも言ってられない。
ロシア、ウクライナ、ポーランド、チェコ、スロベニア、エストニア、ラトビアに俺の親戚、友人、仕事の関係者がいる。みんな無事だと言いたいが、ウソだ。
ひとたび戦争になれば、文化なんて吹き飛んでしまう。もう俺は行かねば。いつかきっと戻ってくる。約束する。
最後に現代史の中で最も勇敢な言葉を。「ロシアの軍艦よ、くたばれ!」

最後は「ロシアの軍艦よ、くたばれ(Русский военный корабль, иди нахуй)」で締められています。2月24日、ロシアの軍艦から砲撃を受けたウクライナの国境警備隊が、降伏を促すロシア海軍へ向けて最後に放った言葉です。

コメント欄は、ボリスへの好意的なコメントであふれています。スラブ文化を世界に紹介し、私たちは仲間だとメッセージを発し続けてきたボリスが恥ずかしく思ったり罪の意識を感じたりする必要なんてない、今こそボリスが必要なときだ、と。

ボリスは文化の架け橋でした。こんなときこそ、文化の架け橋は必要です。

しかし、ボリスが戻ってくるのか、戻ってくるとしていつになるのかは明らかにされていません。

報道によれば、ロシア国内ではプーチン大統領の支持率は高くウクライナとの戦争への支持も強いそうです。報道のとおりであれば、ボリスの意見は必ずしもロシア国民の一般的な意見ではありません。ボリスの動画が出た2週間後ですが、ペスコフ大統領報道官は「この軍事作戦について恥ずかしく(стыдно)思うロシア人は、真のロシア人ではない」と発言しています。

しかし、YouTubeで発信するとともに、情報を得ていたボリスは、ロシアでの多数派の意見とは違う意見を持ち、その結果、これまでとは違う行動を選択したようです。それがボリスにとってよい選択であり、彼がまたいつかYouTubeに帰ってきてくれることを願うばかりです。

【2022年5月16日追記】ボリスがYouTubeに帰ってきて、ロシアからマクドナルドが撤退したなら自分でマクドナルドのバーガーを自作しよう!など勢いのある動画を再び投稿しています。

  1. ネットへのアクセスができない人の声を聞くことはできないのは悲しいことである。
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