YouTuberの芸能事務所の役割を果たすマルチチャンネルネットワーク(MCN)が業務を停止しています。中堅YouTuberが提携を突然解消され、困惑しています。
MCNとは
マルチチャンネルネットワーク(MCN)とはYouTuberなどの映像クリエイターが所属する芸能事務所で、クリエイターに広告案件を紹介したり、クリエイターのグッズ販売を手助けしたりしています。YouTubeに動画を削除されるなど不当な処分をされたときに、MCNに所属しているとYouTubeの内部に抗議が通りやすいとも言われています。
しかし一方で、移籍できなかったり、契約時点よりも大幅に登録者が伸びて広告収入が増えても給料が据え置きだったり、自分の広告収入を確認する権利すら事務所に奪われてしまうこともあり、必ずしもよいものとはされていません。
詳しくは、MCNに勧誘された経験を明かし、善し悪しについて語っているスウェル・エンターテインメントの動画を紹介したこちらの記事をごらんください。
不穏な動き
マック・ダズ・イット(MacDoesIt)は2013年から活動しているコメディYouTuberです。YouTube登録者数は238万人。マックは2016年からMCNのフルスクリーン(Fullscreen)と契約していました。
フルスクリーンに所属していた代表的なYouTuberは、辛口コメンタリーで有名なコーディ・コー(Cody Ko)、FeZe Clanのメンバーフェイズ・ラグ(FaZe Rug)、大人気になるも燃え尽きてしまい最近はポッドキャスターとして活躍しているエル・ミルズ(Elle Milles)、1987年世界体操競技選手権で金メダルを受賞したアウレリア・ドブレの息子で双子YouTuberのドブレ兄弟(Dobre Brothers)、TikTokスターではウィリー・ウォンカ(Willy Wonka)などです。
こちらがマックのツイートです。
事務所から放置されてたから、話し合いをしたときに「業務を変更するのか」、「YouTuberのマネージメント業務を停止する意向なのか」を質問したけど、否定してた。案の定、二週間後にメールがきて業務停止を知らされた。
(2023年8月27日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
一時期は3人の担当者がいたのに、まともな対応はしてくれなかった。どれもコピペの返事で、タレント同士が交流できる場に誘導されたけど、気付いたときに残っていたのは、ぼくを含めて数名だけだった。
(2023年8月27日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
こちらも契約から解放されたとツイートするYouTuberのレプシオンです。彼もフルスクリーンと契約していたようです。
(2022年3月6日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
右派系政治YouTuberのティム・プールもこのようにツイートしています。
With FullScreen announcing they are shuttering, it seems the *You*tube era is almost entirely over
— Tim Pool (@Timcast) October 6, 2021
フルスクリーンの終了が意味するもの
フルスクリーンはYouTubeの役員を務めていたGeorge Strompolosが立ち上げました。2014年には5万人のデジタルクリエイターと提携してひと月に累計40億回の動画再生を得ていたようです。2018年12月に140名の従業員を雇い止め、2019年9月には一部事業の13%に当たる従業員を雇い止めたと報道されています。現在フルスクリーンの親会社であるワーナーメディアはさまざまな会社と吸収合併をくり返して、今後はHBOなど映像配信サービスに力を入れていく方針のようです。
フルスクリーンの解散を受けて、MCNについてYouTuberの間で話題になっていました。MCNについてアメリカのYouTuberが騒いでいたのは、Defy Mediaが破産したと報じられたとき以来です。Defy Mediaにはスモッシュで人気を得たアンソニー・パディーヤや、シェーン・ドーソンの婚約者ライランド・アダムズが所属していました。Defy Mediaの倒産時に、クリエイターとの不当契約や賃金未払いが問題になっていました。
MCNの業務終了は、個人YouTuberの芸能管理をしても採算がとれなくなった現代を反映しているのでしょうか。ワーナーメディアはフルスクリーンを売却するのではなく、単に解散することを選んでいます。これは利益がろくに出ないから有用な売却先も見つからなかったとも受け取れます。YouTuberにとってはMCNは搾取してくる悪の権化でしたが、YouTuberには見えないところでMCNは経費のかさむものだったようです。
Image: Sara Kurfeß