YouTubeに投稿される動画は、多かれ少なかれYouTuberが時間と労力をかけて作ったものです。ですから、動画が理不尽な理由で削除されるとしたら悪夢です。しかし、ときどきそういうことが起こります。今回紹介するのもそんな事件です。
以下の内容はこちらのRepzionの動画を元にしています。
何が起こったのか?
penguinz0(本名Charles Xavier White Jr.)は登録者数583万人のYouTuberです。彼は社会やネットのできごとについてしゃべくる動画を投稿しています。
その彼がこんなツイートをしました。
公にせずに処理しようと思ってたんだけど、人間が目で見て判断してるとは思えなくてさ。YouTubeに消されて俺のチャンネルまでストライク扱いになった動画は煽り運転事件なんかじゃないし、けが人も流血も何もない。ニセの流血もけがもないんだよ、TeamYouTubeさん。
Was going to handle this privately but it seems there is actually no human review in these things. The video that was taken down and put a strike on my channel is not even a real road rage incident and has no injury, blood or anything. Not even fake blood or injury @TeamYouTube pic.twitter.com/dVR5k38uD3
— Charlie (@MoistCr1TiKaL) September 1, 2020
penguinz0が投稿した動画は車載カメラの動画で、一見すると煽り運転でケンカになったように見えます。しかし、よく見ると、映っているのは着ぐるみの集団で、冗談だとわかります。ネタ動画ということで、以前に話題になりました1。
penguinz0が投稿していた動画はこちらです。今ではYouTubeが処分を取り消したので、見られるようになっています。
(2022年10月16日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)
YouTubeに投稿される多くの動画は無害で、誰かを楽しませようとして作られたものですが、中には有害なものや、見た人にショックを与えるようなものもあります。そこで、YouTubeには有害な動画を確認して消す制度があるのですが、どこかで誤判断があったようです。
最終的には動画が復活したのでよかったのですが、復活するまではかなり紆余曲折がありました。
YouTube運営(TeamYouTube)とやりとりしています。
TeamYouTube:当方の従業員が判断基準に照らして動画を見て審査したことを確認しました。(けんか、殴打など)ショックを与える画像を含む動画は当社のガイドラインに違反しています。penguinz0さん専属のパートナーマネージャーがおりますので、疑問の点はそちらの窓口にお問い合わせください。
penguinz0:人間が動画を見て判断したはずがないよ。俺が問い合わせたYouTubeのスタッフはみんなこの判断はおかしいって言ってるし。この審査がどうなってんのかもっとちゃんと説明してよ。
That just confirmed no one watched the video. Everyone I’ve talked to at YouTube doesn’t agree with this decision either. Would love a more thorough explanation for what actually goes on with these reviews #AnswerUsYoutube https://t.co/XHGi1gU55n
— Charlie (@MoistCr1TiKaL) September 1, 2020
penguinz0は自動判定で間違いが発生した可能性を疑っているようですが、真偽は不明です。人間が目で見たとしても、penguinz0の語りや背景がわからなかったので誤判定したとか、一瞬だけ見て誤認したとかもありそうです。YouTubeには毎秒新たに数百時間分の動画が投稿されると言われていますので、自動でも人力でも誤判定の可能性は常にあります。
penguinz0はYouTubeの判断の矛盾を指摘します。
マーキプライアーもこのニセ煽り運転で笑ってる動画を出してる。なんでまだ彼はストライクされてないの?
Markiplier also made a video laughing about the same fake road rage incident. When will he be getting his strike? @TeamYouTube #AnswerUsYoutube pic.twitter.com/mQpa4fz3KU
— Charlie (@MoistCr1TiKaL) September 2, 2020
確かに、同じ動画を挿入しているのに片方は削除され、片方は削除されていないのはおかしな話です。YouTubeの方針が一貫していません。
この騒ぎにマーキプライアーも気づき、YouTubeに連絡しました。
フェアにやろうぜ、TeamYouTube。俺の動画もストライクしてね。#AnswerUsYouTube
Fair is fair @TeamYouTube where’s my strike? #AnswerUsYouTube https://t.co/PL4tq9PNx4
— Markiplier (@markiplier) September 2, 2020
このツイートの#AnswerUsYouTubeハッシュタグで話題が広がり、YouTubeに適切な対処を求める声が強まりました。
アピールが通じて、penguinz0の動画が復活するかと思いきや、なんとYouTubeはマーキプライアーの動画も削除しました。確かにこれなら一貫しています。悪い方にですが……
マーキプライアー:アハハ、こうなった。
penguinz0:YouTubeは何にこだわってるんだ……自分のところで一番健全なクリエイターまでストライクしはじめたぞ。ミスでしたって認めればいいのに。TeamYouTubeは次はどうするんだ? WWEの試合動画も全部ニセの暴力ってことでストライクする気か?
I’m absolutely shocked Youtube is deciding to die on this hill striking even the most wholesome creator on their site rather than admit it was a mistake in the first place. What’s next @TeamYouTube striking every WWE video for fake violence as well? #AnswerUsYoutube https://t.co/ZQ0BUzfezn
— Charlie (@MoistCr1TiKaL) September 2, 2020
Spill Seshの意見です。
ちょっと待って、マーキプライアーは2016年の動画でストライクされた? ルールを変えてこんなことしてくるなんて怖いんだけど。
Wait he got a strike from a video from 2016 ? it’s so scary to think the rules could just change and they can just do this. https://t.co/AA4nLTU4c5
— Spill Sesh (@spillseshYT) September 2, 2020
しかしYouTube運営もさすがにおかしいと気づき、処分を取り消すと発表しました。
続報:ここにこだわってるわけじゃありません。おっしゃる通りでした。(もっとしっかり)審査したところ、動画は復活し、ストライクもなくなりました。当方のガイドラインの過剰適用でした。特に、おっしゃる通り、文脈と解説が加えられていたわけですから。
Update: we’re not going to die on this hill. You were right – after (even further) review, your video & others are back up and these strikes have been removed. This was an over-enforcement of our policies, especially w/ the added context/commentary as you originally pointed out.
— TeamYouTube (@TeamYouTube) September 2, 2020
いいニュース! 処分を取り消して判断をやり直したのはみんなにも朗報だと思います。クリエイターにとってはありがたい。将来この手のことが起こったときにもっとオープンに議論できるといいですね。
Absolutely fantastic news! I think we’re all thankful to hear you were willing to go back and reevaluate the decision, it means a lot to creators to see that. Hopefully we can all have more open dialogue when it comes to things like this in the future. Thank you https://t.co/2xAT4Jcc6O
— Charlie (@MoistCr1TiKaL) September 2, 2020
動画が復活して一件落着となりました。
YouTuberたちの声
しかし、これでめでたしめでたしではありません。今回動画が復活したのは、penguinz0が数百万人の登録者を抱えるYouTuberだったため、YouTubeも無視できなかったからです。ニコラス・デオレオは登録者の少ないクリエイターの立場はもっと不利だと指摘しています。
大物YouTuberたちが一大キャンペーンを張ってたった一個のストライクの取り消しに成功したのは喜ばしいですなあ。皮肉ってごめん。でも、これからもっとクリエイター本位の規則に変えようってことにはならないだろうし、彼らが立場の弱いクリエイターを代弁してくれるわけでもないでしょ。
(2020年9月13日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
ジョン・スワンの意見です。
動画が戻ってきたのはいいよ。でも何でこんなに何回も審査しないとだめだったの?
YouTubeは、動画をストライクし、異議申し立てを却下し、Twitterでこの措置は正しいと主張し、マーキプライアーまでストライクし、「あっ、ごめーん、間違えちゃった!」
で、もっとちゃんと動画を審査しようってならないのか? 何なんだよ……
(2020年10月18日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
結果的にはよかったけど、10万もいいねがつくツイートを何個もしてやっとのことで復活させられたってのは、ひどい話。
This is awesome but it sucks that it took multiple tweets with over 100k likes for them to even remotely do something
— j aubrey ? (@jaubreyYT) September 3, 2020
今回ツイートを紹介した人たちは全員YouTuberです。YouTubeの理不尽な対応への不満と不信感が募っているようでした。
どんなに有名なクリエイターでも、プラットフォームを握っているYouTubeに比べれば立場は弱いものです。ニコラスが言っているように、有名でないクリエイターならなおさらです。これまでも不当な処分に泣き寝入りするYouTuberは数知れずいました2。審査の過程を透明化する仕組みが必要なのではないでしょうか。もし投稿される動画がまともに審査できる量を超えてしまっているのだとすれば、投稿される動画の本数を絞るのでもなければ無理かもしれません3。
注
- こちらの記事によれば2014年に投稿されたようだ。
- 記事にはできていないが、2020年2月に発覚したMeghan Rienksのチャンネルの乗っ取り事件でも、YouTube側は木で鼻をくくったような態度だった。
- 1秒あたり500時間の動画が投稿されるとすると、動画全編を目で見て確認するためには、常時180万人のスタッフが働いている必要がある。高速再生やスキップや自動判定によるスクリーニングを使うとしても、間違いなく判定するためには数万人のスタッフでは足りないだろう。様々な文化的背景や文脈の動画が投稿されるのだから、なおさらである。