NYT記者が誹謗中傷で訴えられる YouTuberと旧来メディアの不幸な関係は断ち切れるのか

社会・政治

ニューヨーク・タイムズ(New York Times)のネット専門記者が芸能事務所のマネージャーから訴えられています。記者の名前はテイラー・ロレンズ(Taylor Lorenz)です。

彼女はこれまで乱立するTikTokスターの「コンテンツハウス(クリエイターハウス)」など、ネットの事象について書いてきた、この分野のパイオニアです。TikTokのダンスはオリジナルが不明になりがちですが、そのオリジナルを探り当てて取材したレネゲード・ダンスの報道、TikTokから発生した流行語“OK, Boomer”の調査報道、ブラック・ライブズ・マター運動に便乗するインフルエンサーの告発など、老舗メディアらしからぬ題材を老舗メディアらしい丁寧さで扱う注目のジャーナリストでした。筆者も彼女に注目していた一人です。私淑していたとさえ言えるかもしれません。

しかし、彼女は今や「えせジャーナリスト」に堕してしまったと言わざるをえません。今回、訴えられてしまったのも誤った(というよりも意図的にウソを交えた)「報道」が理由です。本記事では、彼女の「報道」の何が問題なのかを解説します。

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誤情報が多い

2021年6月8日に公開された、Yahooのアラステア・ボストウィック(Alastair Bostwick)記者がロレンズを批判する動画です。

Content Cop – Taylor Lorenz (Midwest Edition)

ボストウィックは1時間18分におよぶ動画1でロレンズの悪らつぶりやウソの報道を細かく指摘しています。一部の内容を紹介します。

自称「フェミニスト」だが、女性のキャリアを潰す

ロレンズはフェミニストを自称しています(たとえばこちらの過去ツイート)。SNSでは女性と女性の権利を擁護する発言をたびたびしていますが、他方、ロレンズは記事では標的にした女性たちを徹底的に攻撃してキャリアを潰してきました。

その一例が人気Instagramアカウント「ガール・ウィズ・ノー・ジョブ(Girl with no job)」を運営するクラウディア・オシュリーです。ガール・ウィズ・ノー・ジョブはさまざまなミームを扱って人気になったアカウントです。

Claudia Oshry Instagram

ロレンズは、クラウディアの母親がパメラ・ゲラーであることを暴露して中傷記事を書きました。

パメラ・ゲラーはトランプ支持者で反ムスリム的発言をする右派の政治コメンテーターです。ロレンズはこの事実をスクープとして報じました。左派的なメディアでは、右派的な主張、特に人種・民族差別的な主張は御法度です。クラウディアは所属事務所を解雇され、スポンサー契約を解除され、番組は打ち切られます。

母親が有名な右派論客だからといって、特に政治的主張をしていなかった娘が解雇されるべきだとは言えません。しかし、ロレンズはこの反クラウディア運動の旗振りをしました。

その他ロレンズが中傷した相手は、アウェイ・ラゲッジのCEOステフ・コリー、TikTokスターの芸能事務所を運営していたアリ・ジェイコブ(Ariadna Jacob)などです。いずれも、各界で注目されつつあった女性たちです。

これは自称「フェミニスト」にしては奇妙です。もちろん、フェミニストであっても、女性の不正を告発するのは正義にかなっています。しかし、ロレンズが告発した女性たちには特別な落ち度がない人もいたのです。

アリ・ジェイコブが提訴

2021年8月、ロレンズの記事で誹謗中傷されたとアリ・ジェイコブが損害賠償$6.2ミリオン(約6億2000万円)を要求する訴訟を起こしています。ロレンズはアリ・ジェイコブの運営するインフルエンサー事務所のずさんな運営と不正を告発していました。

アリ・ジェイコブは「ロレンズの記事が出た後、クライアント85名(全員)が事務所を離れ、企業からは提携を断られるようになった。ロサンゼルスからラスベガスに引っ越しを余儀なくされ、公私ともに大損害を被った」と訴えています(外部記事)。

ロレンズの記事はセンセーショナルなものでした。しかし、ボストウィックは動画で、ロレンズが未成年のTikTokスターに「アリ・ジェイコブに関する暴露をしてくれれば、(私の力で)Instagramアカウントが認証マーク付きになるかもよ。だから、できるだけ悪い内容を教えて。」と持ちかけていたことを明らかにしています。取材に応じたTikTokスターは求められるままにロレンズが望むことを話しましたが、事実とはかけ離れていたようです2

しかもロレンズの中傷記事にはさらに怪しい動機があるのではないか、とボストウィックは指摘しています。ロレンズは芸能事務所に所属しており、その事務所はアリ・ジェイコブの事務所とライバル関係にあったのです。これは明らかな利益相反です。ロレンズのジャーナリストとしての公正性には大きな疑問符がつきます。

自戒の念を込めて書きますが、筆者はアリ・ジェイコブについてのロレンズの記事を信じて、その情報を本サイトの記事に取り込みました。今振り返れば、本サイトも誤情報の拡散に手を貸したことになります。

その後

ボストウィックの動画が出た後、ロレンズはDiscordで「極右の変な奴に目を付けられて困っている。私のやることなすことに文句を付けてくるのは勘弁してほしい。」などとコメントしています。ボストウィックはスクリーンショットと共にこのようにツイートしています。

ロレンズは、誤情報の拡散の責任を問われているのに、あたかも責任を問う人に勝手なレッテルを貼って、自分が悪人に攻撃されているかのように見せかけようとしています3

YouTuberとジャーナリストの緊張関係

テイラー・ロレンズの誤情報・ウソ情報は、ボストウィックの動画が出る前から指摘されてきました。2021年5月に話題になった元部下によるミスタービーストの告発についての記事もその一つです4

ロレンズはもともとYouTuberから高い評価を得ていたわけではありません。それどころか、ロレンズに限らずネット専門記者とYouTuberの関係は、常に不安定です。

ネット専門記者がYouTuberたちが苦労して集めた情報を横取りし、喝采を受けたことも一度や二度ではありません。当時米INSIDERで記者をしていたスティーブン・エイサーチ(Steven Asarch)は、数々の女性に暴行した疑惑が浮上して批判されていたオニシオンの情報をYouTuberからかき集め、ディスカバリーの特番『Onision: In Real Life』を作ってひんしゅくを買っていました。

Onision: In Real Life』はかつて暴行犯を逮捕する番組で人気だったクリス・ハンセンを案内人に進行していますが、クリス・ハンセンはオニシオンが人気だったYouTubeの雰囲気をまるで理解していません5。YouTuberの発言は切り取られてYouTuber全体への攻撃に使われ、番組に協力したYouTuberがほかのYouTuberから非難される事態にもなっていました。

YouTuberとメディアの実りある未来のために

旧来メディアは新興メディアの人気者であるYouTuberの揚げ足取りをしようとし、YouTuberは旧来メディアをはなからウソつき呼ばわりする、不幸な関係が続いています。

両者の間には不幸な関係しかあり得ないのでしょうか? そうではないことを、ボストウィックの動画が示しています。

この動画のタイトルは『コンテント・コップ テイラー・ロレンズ(中西部編)』です。コンテント・コップはYouTuberのアイダブズ(iDubbbzTV)が生み出した動画シリーズの名前です。コンテント・コップはYouTuberのウソや悪事を暴くシリーズでした。コンテント・コップに取り上げられた人は、壮絶な批判に巻き込まれます6

ボストウィックがアイダブズの人気シリーズの名前を使ってロレンズを批判したところに、YouTubeへの愛と情熱を感じます。この動画タイトルが、メディアとYouTuberの相互理解に基づく建設的な関係が築かれる可能性を示しているように思います。

ボストウィックの動画にはYouTuberのティップスターとアリ・ジェイコブがコメントを残しています。

ティップスター:テイラー・ロレンズがひどいリポーターだと気付いていたが。実態は想像以上だったようだ。

アリ・ジェイコブ:動画41分33秒から動画に出てくるアリ・ジェイコブです。ロレンズの記事のせいで私の事務所と評判は著しく汚されました。テイラー・ロレンズは中傷した責任をとるべきですし、ロレンズが多大な影響力を悪用したことを動画で告発をしていただき感謝しています。ニューヨークタイムズも同様に責任をとるべきでしょう。


YouTube視聴者とNYTを購読する層は異なります。大多数のYouTuber間ではテイラー・ロレンズは信用ならない人として定着しています。

  1. 一部のティーチャンネルは5分で語れる内容を小一時間にまで引き延ばした動画を出すが、この動画は決してそのようなものではない。
  2. しかも、未成年に取材するときには保護者の許可を得るべきであるのにロレンズはそうしなかったらしい、とボストウィックは述べている。
  3. ロレンズに限らないが、都合のいいときだけ「自分が女だから攻撃されている!」と叫び、しかし普段はほかの女性を足蹴にしようとするのは理解に苦しむ。
  4. 告発そのものは1年半以上に前に話題になっていたのに、なぜこのタイミングで記事にしたのか全くわからない。
  5. 番組は司会を務めたクリス・ハンセンを持ち上げるような奇妙な作りで、オニシオンの被害者や騒動を見守ってきたYouTuberから非難の声が出ていた。
  6. アイダブズの人気シリーズだったが、現在のYouTubeのガイドラインに違反する内容のため少しずつ規制されている。
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