Netflixで公開される映画『He’s All That(ヒーズ・オール・ザット)』の予告編が公開され、さまざまな反響がありました。TikTokの人気スター、アディソン・レイ(Addison Rae)が主演を務めていることで話題になっています。ネットスターが映画やドラマに出演するといじられてしまうことが多いのですが、『ヒーズ・オール・ザット』もその運命をたどるのでしょうか。
『ヒーズ・オール・ザット』予告編
『ヒーズ・オール・ザット』は1999年のティーン映画『シーズ・オール・ザット』のリメイクになります。『シーズ・オール・ザット』は22年前の映画なので、女性蔑視的な表現や、体型を批判する表現が含まれていて非適切だ指摘されています。
『シーズ・オール・ザット』では冴えない女の子が、学校一の人気者の男の子とプロムに参加するまでが描かれています。『ヒーズ・オール・ザット』では、男女の役が入れ替わり、人気者の女の子役をアディソンが演じています。
Netflix公式の予告編はこちらです。
予告編が公開された段階で、すでに酷評されています。YouTuberのニック・デュレイミオ(Nick DiRamio)の意見です。
You know it’s a bad sign when they show the entire movie in the trailer and it’s never ever funny not once https://t.co/3kFJiUNQQR
— Nick DiRamio (@nickdiramio) August 5, 2021
ニックのチャンネルでは、YouTuberが出演した映画や音楽ビデオについて批評をしています1。辛辣ですが、改善するための的確な助言も加えているので、よい動画ばかりだと思います。ニックのチャンネルリンクはこちら!
the bad netflix movies are back, the commentary renaissance is coming https://t.co/etNJgISvnM
— trin (@lovelltrin) August 5, 2021
評判が悪いNetflix映画が公開されると海外YouTuberがレビュー動画を大量に公開します。過去にYouTuberの餌食になっている代表的な映画は『キスから始まるものがたり(The Kissing Booth)』シリーズです。
リメイクは成功するのか? たとえば『Valley Girl』は……
ネットスターが商業的に成功した青春映画のリメイクに参加したのは、アディソンが最初ではありません。あの炎上系YouTuberローガン・ポールは1983年の映画『Valley Girl』のリメイクに出演しています。2018年公開予定でしたが、ローガンの樹海事件のせいで2020年まで公開されなかったという曰く付きの作品です。
そもそもヴァレー・ガールとは1980年代のカリフォルニア州サンフェルナンド・バレー界隈の若い女性たちを指す言葉です。彼女たちはこの時代の流行の発信源だったとされています。
1983年のオリジナル版『Valley Girl』はニコラス・ケイジとデボラ・フォアマンが主演を務めた青春映画です。ヴァレー・ガールのまとった空気を活写しつつ、ミドルクラスの少女と下町育ちの少年の恋を描いた青春映画の一つの古典として名高い本作ですが、今見るとアラが目立ちます。
主人公の二人が惹かれあう理由も、ヒロインの心変わりも、あまり必然性が感じられません。……ティーン向け映画だからそんなものと言えばそうなのですが。今見るとストーカーまがいの少年の行動や、露骨に男性視聴者向けのパジャマパーティーのシーンも違和感があります。近年の映画ならもっとテンポよく進めるだろうというところで物語の進み方が遅く、古さは否めません。
今と変わらぬオッサン顔のニコラス・ケイジが高校生役で画面に出てくるたびに変な気分になる映画ですが、主要キャストの中で一番若いのがニコラス(公開当時19歳)なので、ますます微妙な気分になります。叔父に巨匠フランシス・フォード・コッポラを持つニコラスを売り出すために、ヒロインの両親を『地獄の黙示録』の出演者で固めた映画だと知るとますますショックです。あんな顔してお坊ちゃんだなんて……というか、お坊ちゃんだからあの顔でも成功できたのか……。
2020年のリメイクはストーリーの不自然なところを隠すためミュージカル仕立てにし、80年代ポップミュージックと80年代ファッション2をふんだんに取り入れ、現代と80年代の二つの時間軸を作品の中にはめ込み3、エピソードや配役も現代の感覚にあわせ4、展開を早くし、オリジナルのカットも一部取り込んでいて原作愛も感じられる、意欲的な演出です。
現代のティーン映画として容認可能なのも、演出のレベルが高いのも、明らかにオリジナルではなくリメイクなのですが、IMDbでもRotten Tomatoesでもオリジナルの方が評価が高くなっています。リメイクは受け入れられない宿命にあるようです。今では受け入れられない題材を苦心して現代風にまとめたスタッフの苦労の報われなさに涙を禁じ得ません。
余談ながら、リメイクではローガンは主人公の女の子とは結ばれないフられ役です。恋人そっちのけで仲間とふざけてばかりいる中身のないジョックで、往来でイタズラをする動画を作っていたころのローガンの雰囲気そのものなので、今見るとヒヤヒヤします。頭が薄く見える髪型もいただけません。
クロエ・ベネット演ずる少女に体を触られたときに頬が紅潮するのは演技ではなく素です。当時、この映画をきっかけに二人が付き合い始めたことを思い出し、遠い目になります。もう破局して3年になります。
【2021年8月28日追記】本編が公開されました! 評判は相変わらず、よくありません。
Image: Famous Entertainment
注
- ニックがシェーン・ドーソンの作品を酷評しているのは、こちらの記事で少し紹介している。ニックがギャビー・ハナのミュージックビデオすべてをレビューしている動画では「ギャビーはなぜいつも黒いブーティーをはいているのかな?」とコメントしていた。本当に疑問。
- オリジナルは本物の80年代ファッションが出てくるので、今見るとティーンが中年の格好をしているように見えて変な感覚になる。人は若い頃の自分の装いを繰り返し続けるのだと思わされる。一方、リメイクのファッションは確かに80年代風なのだが、明らかに現代風にアレンジされていて違和感はない。
- 「現代」のシーンは妙だが。
- 近年の作品の例に漏れず、登場人物の人種的多様性が高い。