スマホやPCの最新機種をいち早く手に入れ評価するテックレビューチャンネルの一つが問題になっています。
今回の主役、アンボックス・セラピー(Unbox Therapy)は登録者数1630万人の人気チャンネルです。トレンド入りの常連のチャンネルでもあります。
問題のレビュー
アンボックス・セラピーは2020年2月20日、スマホの“Pablo Escobar Fold 2”のレビュー動画を公開していました。
(2021年4月6日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)
使用してみた感想は、「これはステータスの証」だそうです。
折りたたみ式スマホといえばサムスンやファーウェイの最新型です。設計・製造には高い技術力が必要ですが、一体どんなメーカーが作っているのでしょう? Pablo Escobarというのは耳慣れないスマホブランドです。
怪しい販売元
“Pablo Escobar Fold 2”という名前でお気づきかも知れませんが、これはまともな製品ではありません。パブロ・エスコバルは麻薬犯罪組織「メデシン・カルテル」のドンです。
コロンビアでコカインの製造と流通を仕切り、アメリカをはじめとする諸外国で売りさばき、コロンビアの政治と司法を買収して麻痺させ、いったんは収監されるも自分の資金で作った豪華な「刑務所」でパーティー三昧の日々を過ごし、最後は潜伏先を治安部隊に襲撃されて射殺されたあのパブロ・エスコバルです。Netflixドラマ『ナルコス』にも登場しました。
「カルテル」をはじめとする麻薬組織の現代アメリカ文化への影響についてはこちらの記事でも書きました。
このスマホの販売会社“Escobar Inc”の創設者はパブロの実の兄ロベルト・エスコバルです。こちらは“Escobar Inc”の宣伝写真ですが、水着を着た美女たちがスマホを持っています。
妖艶な広告です。
こちらが宣伝されているスマホの画面です。完全にパブロを前面に押し出しています。
しかし麻薬組織にこんなスマホを作る技術があるのでしょうか?
事実を指摘する動画
2020年4月9日、YouTuberのKavosがアンボックス・セラピーの不正なレビューを暴露しています。
明らかにサムスンのギャラクシーフォールドなのに、アンボックス・セラピーは知らないふりをしている! 同じ商品だけど、塗装が違うだけって指摘しないのは、レビューチャンネル失格だろ!
2020年3月10日にマーカス・ブラウンリーがレビューして、“Escobar Inc”のスマホはサムスン製だと指摘している動画です。ヒンジのテープを剥がすと、サムスンのロゴが現れます。
マーカスは“Escobar Inc”から「動画を公開するなら、商品を送る」とメールを受け取っていたことも明かしています。これは褒めて宣伝しろという要求でしょう。自費で“Pablo Escobar Fold 1”を注文していましたが、商品が届いていないことも話しています。信用できない会社です。
視聴者の意見
マーカス・ブラウンリーの動画を見た人々は、アンボックス・セラピーの不誠実なレビューに怒り始めます。アンボックス・セラピーのコメント欄です。
視聴者:アンボックス・セラピーのレビューは信用できないな。
視聴者:金もらったからレビューしたんだな。マーカス・ブラウンリーは神、お前はゴミ。
視聴者:ずっと正直な人だと思っていたが、ようやくアンボックス・セラピーの本質に気付いた。
アンボックス・セラピー、麻薬カルテルが運営してる詐欺のような商品を未だに宣伝するつもりですか。視聴者が騙される前に、レビュー動画は消すべきだと思う。少しは正直になりなよ、こんなカルテルが売り出してるクソ商品を宣伝しないでほしい。
(2022年5月1日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
そのカルテルは麻薬テロ組織で、1983年から1994年の間に少なくとも2800人の警察官を殺害し、民間人1800人を殺した。コロンビアの麻薬闘争に巻き込まれ4万6612人が亡くなっている。“Escobar Inc”を運営しているエスコバルの兄は暗殺を担当していた。
The cartel created by a narco-terrorist that killed an estimated 2800 policemen and 1800 innocent civilians and between 1983 and 1994, 46,612 people were murdered by Colombia’s drug violence.
Escobar’s older brother, who runs the company, was in charge of assassinations
— The Kavernacle (@TheKavernacle) April 10, 2020
アンボックス・セラピーは「面白くテック商品をレビューするチャンネル」から「金をもらえば何でも宣伝する究極のちょうちん持ち」になってしまった。
Unbox Therapy went from “a very entertaining tech unboxing channel” to “the ultimate shill who will say anything if you pay him” rather quickly.
— Kazi Mahbub (@kmmbd) April 9, 2020
犯罪組織の金集めの片棒を担ぐのは非難されてしかるべきでしょう。なぜアンボックス・セラピーはこんなことに手を出したのでしょうか? このままでは彼のこれまでのレビューの信用もなくなります。
犯罪組織がテック系にも進出して資金を集める時代になったようです。しかしこれは実際に儲かるのでしょうか。入金だけさせて何も送らない詐欺なのでしょうか。それとも単に宣伝目的(パブロの名前を出して犯罪組織として存在感を高めるのが目的)なのでしょうか。いずれにせよ、アンボックス・セラピーの説明が待たれます。
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