【フロリダマン特集2/3】フロリダマンの奇行と薬物

社会・政治

愉快なフロリダマンたちの事件はアメリカのメディアを通じて世界中に配信され、話題を提供しています。たとえばこれです。

10 Crazy But True Adventures of Florida Man | America Uncovered

動画の冒頭から、嵐の中で国旗を片手に不思議な踊りを踊る半裸の男、ワニを小脇に抱えて店に入る男などが出てきます。1万5000ドル相当のヴィクトリアズ・シークレットの下着を盗んだ男への判決が言い渡される映像や隣人の飼っているクジャクを追い回す男の映像もあります。

一見おもしろおかしい事件のように見えますが、ここにフロリダで珍事件がよく発生する理由のヒントが隠されています。それは薬物です。

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フロリダ州と薬物

フロリダ州、特にマイアミ市は薬物犯罪が多いのです。珍事件は薬物を使用した人が起こしていることがしばしばあります。
違法薬物薬物犯罪は1970年代から1980年代がピークでした。1980年のマイアミ市は10万人当たり70件の殺人が発生しており、アメリカ大都市平均の3.5倍、ニューヨーク市の2倍以上でした。その原因が薬物と薬物密輸業者の暗躍でした。1981年11月23日号のTime誌はフロリダ南部問題を取り上げ、『Paradise Lost?(楽園喪失?)』と題しています(リンク)。

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コロンビアの犯罪組織

このころフロリダの薬物と言えば、コロンビアのメデジン市を拠点にした犯罪組織(メデジン・カルテル)がアメリカに持ち込んだコカインでした。コカインの密輸は1960年代ごろから始まりました。アメリカではコカインがほとんど供給されていなかったのでコロンビアの密輸業者たちにとっては開拓しがいのある市場でした。

密輸によってコカインはコロンビア経済を支える巨大産業となりました。これはコカの葉からコカインを精製する間に価格が高騰するからです。1979年に麻薬取締局から出た報告書によれば、以下のようなからくりです。1 kgのコカインを作るのに、ボリビアとペルーで生産された3000 kgのコカの葉が必要です。これは625ドルです。これを塩酸コカインに精製すると9550ドルになります。アメリカ国内ではこれが数万ドルになります。利幅は百倍にも上ります。それだけの需要がアメリカにはありました。これがメデジン・カルテルの富の源泉でした。メデジン・カルテルのボスたちは巨万の富を築き、賄賂や脅しを通じてコロンビアの政治や司法に影響力を持つようになりました。ドラマ『ナルコス』に描かれたパブロ・エスコバル・ガビリアやオチョア家、ロドリゲス・ガチャがボスです。

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メデジン・カルテルがアメリカにコカインを輸入する窓口として使ったのがフロリダでした。フロリダが窓口になったのは主に三つの理由がありました。

理由その1: 地理

第一は地理上の理由です。フロリダ半島は大西洋に突き出しているので海路での密輸が容易でした。コカインの密輸入は空路や(メキシコやカナダを通過する)陸路もありましたが、大半が海路によるものでした。また、カリブ海の島々に密輸拠点が作られ、コロンビアから空路で持ち込んだコカインを島で小分けにして高速船でフロリダに持ち込みました。

メキシコ湾周辺の地図

特にバハマ共和国は首相をはじめとする政府高官が密輸業者から賄賂を受け取って買収されており、密輸業者が我が物顔に振る舞っていました。フロリダはバハマの島から高速船で数時間の距離にあり、アメリカへの水揚げに最適の場所でした。

理由その2: レジャーボート

第二は、レジャーボートです。しかも、フロリダはレジャー目的のボートが多かったため、密輸船とその他の船の区別をつけることも難しく、船による密輸の監視はほとんど不可能でした。1983年にフロリダ南部で押収されたコカインの総量は6トンでしたが、1985年には25トンに達し、1986年には30トンでした。

レジャーボート

理由その3: 警官の腐敗

第三は、取り締まり側の問題です。1985年7月にはマイアミ市警の警察官がコカインを強奪する事件が発生しています。同じ頃、警察署からの押収した現金が消える事件もありました。警察官による強盗事件も発生し、コカイン所持で逮捕される警察官もいました。

警官たちの勤務環境は過酷でした。薬物密売人たちに狙われることもある、非常に危険な職場でした。フロリダ1979年7月にはフロリダ南部のショッピングセンターで密輸業者同士の抗争に伴う乱射事件が発生しました。駐車場に放置されていたトラックには防弾板が取り付けられ、防弾チョッキ・機関銃・カービン銃・ピストル・ショットガンが放置されていました。

こちらはこの乱射事件を扱ったドキュメンタリーの一部です。

Miami in the 80's – Dadeland Shooting – Cocaine Cowboys

当時マイアミ市は薬物取引で潤っていました。密輸にかかわって大金を手にした人々が豪邸を手に入れ、新車を購入し、クラブに繰り出していました。コカインはコロンビア経済を支える巨大産業だったように、フロリダを支える一大産業になっていました。FBIの捜査官の年収が2万3000ドルなのに対して、コカインを売る18歳の少年は1日に1万ドルを稼いだといいますから、その大きさがわかります。

警察官にはアルバイトが認められていましたが、主なアルバイト先は薬物業者や彼らと取引する銀行マン・弁護士・車のディーラー・不動産屋が足を運ぶクラブやディスコのガードマンでした。このような現実を目にして腐敗せずにいることは容易ではありません。密売を見て見ぬふりをして賄賂をもらえば彼らのような派手な暮らしができるからです。

警官たちは大量採用され、充分訓練を受けていませんでした。彼らの一部は押収した現金を着服し、薬物を密売人から強奪して売りさばきました。

その後のフロリダ

関係各所の地道な努力(麻薬戦争War on Drugs)が実り、今ではフロリダの薬物犯罪発生率はアメリカの中では平均的なところに入ります。それでも、フロリダはいまだに薬物の密輸の拠点であり、薬物関連犯罪も多発しています。

“Zombie Drug” – The Truth About Flakka

こちらは合成薬物「フラッカ」のドキュメンタリーです。乱用、オーバードーズにより死に至る危険性を捉えています。麻薬取締局の発表では、2014年に全米で起こった合成薬物関連犯罪3000件あまりのうち、20%以上がフロリダ南部の3郡で発生しています。いかにフラッカがフロリダで猖獗を極めているかがわかります。

動画の中にはフラッカで異常行動を起こした人々の映像も挿入されています。駐車場を全裸で疾走し車の後部ガラスに突撃する人や異常な姿勢でにじり進む人が映っています。

フロリダマンたちの奇妙な(不気味な)犯罪の中には、薬物による幻覚や妄想がもとで起こったと思われるものがあります。また、薬物とは一見関係なさそうなフロリダマンの犯罪のニュース記事でも、薬物を携行しているのが見つかったとか薬物を使用していたと書かれていることがあります。

たとえばこちらの記事です。

https://www.miamiherald.com/news/state/article210952189.html

フロリダの空港で、トイレから靴下以外は全裸で出てきた男が、俺は爆弾をもっているぞと叫んで取り押さえられた珍事件です。結局爆弾は出てきませんでした。記事には、容疑者は前日に薬物を使用していたと書かれています。

フロリダマン(たまにフロリダウーマン)たちの奇妙な犯罪の陰には違法薬物があるのです。

次回はフロリダマンの珍事件がなぜこんなに広く知れ渡ることになったのか、その理由を別の角度から探ります。

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参考:ポール・エディ、セイラ・ウォールデン、ヒューゴ・サボガル、植村修 訳『マイアミ・コネクション―アメリカのコカイン戦争』

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