「テックリード」をご存じでしょうか? テックリードとはIT系技術者のチームリーダーのことです。技術への深い理解と、非技術部門と意思疎通できる力を兼ね備えたプロフェッショナルです。企業では高待遇、起業すれば億万長者です。
テックリードはデキる人なので本業の傍らYouTuberとしても収益を出します。常に意識を高く保ち、アンテナを張り、自分を悪く言う声があればたたきつぶします。
YouTuberをやっていれば炎上が起こり、争いが激化することも頻繁にあります。凡百のYouTuberなら炎上を収束させるために「謝罪動画」を泣きながら投稿したり1、iPhoneのメモで「反省の気持ち」を要点が分からないほど長文で書いて投稿したり2しますが、秀才揃いのテック系の中でも頂点を極めたテックリードはもっとスマートな手を使います。
ただちに脅迫から個人情報を晒すまで過激化します。
今回は「エリート起業家・億万長者・意識高い系」YouTuberたちの間で炎上が起こっていたので紹介します。
当事者の3名
当事者の3名です。※「テック・リード」という名前のYouTuberがいるのでご注意ください。
トレン・ブラック(Tren Black)。大学でコンピューターサイエンスを学んでいる。YouTube登録者数6万9300人。YouTuberのマット・トランとテック・リードを批判する動画を公開して、2人の怒りを買った。マットに脅迫され個人情報を晒された被害者。
マット・トラン(Matt Tran)。YouTube登録者数43万5000人。自分を批判するトレン・ブラックの動画を商売の邪魔だと判断し、動画を取り下げるように脅迫した。トレン・ブラックの個人情報はテック・リードから入手。
テック・リード3(TechLead)。YouTube登録者数72万2000人。「億万長者のボクのライフハックを紹介」「ボクのように億万長者になるマインドセットを公開」みたいな動画を作っている。自分を批判するトレン・ブラックの動画へ著作権侵害を申し立てる。その際、トレン・ブラックの個人情報を入手して、マット・トランに情報を横流しした。GoogleやFacebookに勤務していたことがありテックリードだったと主張しているが詳細は不明。動画のサムネでは妙なカップを手にしていることが多い。
マット・トランもテック・リードも登録者数が数十万人という超有名YouTuberで、当然億万長者です!4
テック・リードを批判する動画
2019年11月8日にトレン・ブラックが公開した『テック・リードとジョマテックーテック業界の底辺(Techlead and Jomatech – Worst of the Tech Industry)』と題された動画です。動画ではテック・リードとジョマテックの詐欺的商売を細かく批判しています。
2人は動画の広告スポンサーになってくれていた会社からパクった商売を始めていました。こちらは、スポンサーだったAlgoExpertのサイトです。プログラミングの自習教材を提供しています5。
こちらは、テック・リードとジョマテックが立ち上げた商売のAlgoProです。※サイトは執筆時、「準備中」になっています。
トレン・ブラックが批判しているのは、お世話になっていたスポンサーと類似のサイトを立ち上げたのが不義理だったからではありません。テック・リードとジョマテックの商品がクソだったからです。
2人は採用面接に出る問題50問の解説動画を100ドルで売っていました。なかなか良さそうですが、解説する問題はLeetCodeの丸パクりでした。問題は初歩的なもので6、実はトレン・ブラックも過去に動画で取り上げたことがあります。LeetCodeの解説は多くのYouTuberがしていて、もちろん無料で見られます。しかしテック・リードとジョマテックの解説はわかりにくく、動画は解答よりも解説する2人の顔が大写しになるという意味不明な作りでした。
トレン・ブラックの動画は反響が大きく、Redditでも同じようにテック・リードとジョマテックのサイトへの批判的な意見が多く見られました。商売の邪魔だとみたテック・リードはこの動画が著作権を侵害していると申し立てました。トレン・ブラックはもちろん著作権侵害ではないと主張しますが、YouTubeのシステムでは申し立て者に名前や電話番号が渡ることになっているため、結果的に、テック・リードはトレン・ブラックの個人情報を入手します。
マット・トランを批判する動画
2019年12月5日、トレン・ブラックが公開した『エンジニアの真実ーテック業界の底辺(Engineered Truth – Worst of the Tech Industry)』と題された動画です。動画ではマット・トランを面白く批判しています。
「デジタルマーケティング・コース」を売っているマットの発言の矛盾、そもそもマットにデータサイエンスを語る資格はあるのか7?、カルトの創始者と商売をしているのでマット・トランも怪しい人だ、などを指摘しています。
この動画を不満に思ったマット・トランは、トレン・ブラックへ「動画を消さないと、個人情報をバラすぞ」と脅迫を開始します。
動画を非公開にしなかったトレン・ブラックは2020年4月26日、個人情報をネットに公開されました。その状況を説明しているトレン・ブラックの動画です。
Coffee Breakの取材
コーヒー・ブレイク(Coffee Break)はYouTube登録者数37万9000人のYouTuberです。被害者のトレン・ブラックの友人でもあります。彼はマット・トランとテック・リードのモラルが欠如した行いを批判しています。
YouTubeさん、YouTubeは個人情報が漏れやすい設計になっています。
テック・リード(登録者数72万人)とマット・トラン(登録者数43万人)はコメンタリー・チャンネルであるトレン・ブラック(5万人)を脅迫しています。彼らは「批評動画を取り下げないと個人情報を晒すぞ」と脅しています。その1
? @TeamYouTube your systems are being abused to dox creators.
Techlead (723K subscribers) and Matt Tran (436K subscribers) blackmailed and threatened Tren Black (50K subscribers), a commentary channel.
They said that he had to “remove his criticism” or he’d be doxxed. 1/
— Coffee Break (@coffeebreak_YT) April 29, 2020
トレン・ブラックは削除を拒否し、マット・トランは不法な著作権侵害のクレームにより入手した個人情報を晒しました。
トレン・ブラックは抗議の動画を公開します8が、すぐさまテック・リードに著作権侵害の申し立てをされました。
このような問題を見過ごしてはいけません。
He refused to delete his videos, so Matt Tran doxxed his personal name using information obtained from an abusive copyright strike.
Tren Black tried to fight back with a video about the subject, and was immediately copyright striked by Techlead.
THIS IS NOT OKAY.
— Coffee Break (@coffeebreak_YT) April 29, 2020
僕の主張を信じられなくても証拠はあります。この動画はマット・トランが電話取材で、「自分がしたことは脅迫に当たる」と認めています。
Oh and you don’t have to take my word for it. I have VIDEO evidence. here’s Matt Tran in a phone call admitting that what he does was blackmail. pic.twitter.com/1MzptDlXJv
— Coffee Break (@coffeebreak_YT) April 29, 2020
Coffee Breakの元動画はこちらです。マット・トランが脅迫を認めているのは、動画2分14秒からです。意外と素直。
さらに、動画3分36秒から「テック・リードからトレン・ブラックの個人情報を入手した」と認めています。Coffee Breakはバカな行いをした加害者も批判していますが、個人情報が漏れるようなYouTube著作権侵害の申し立ての設計をもっとも批判しています。
この告発を受け、テック・リードは釈明動画を出します。
(2024年7月6日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)
しかしさすが元GAFAのテックリードのテック・リード、動画開始から2分あまりで動画のスポンサーの宣伝をし、その後は過去に勤めていた会社でできないやつがいて困ったとか、過去の栄光を話し始めます。さすが元Facebook、元Google。イヤな奴だったからやめさせられて「元」になったのではないかという気がしてなりません。意識が高いです。いかなるときも自己アピールのチャンスを逃しません。これぐらいでなくては西海岸のテック業界では生き残れません。さあ、自慢たらたらで中身がない9テック・リードの動画で学んで君もテックリードになり億万長者を目指そう!
Image: Christopher Gower, F3ND1MUS, ABCs Of Attraction
注
- たくさんありすぎて一つ一つ挙げられないが、本サイトの記事の半分ぐらいはこれ。
- ギャビー・ハナの炎上。
- 本名Patrick Shyu。
- ちなみに、本サイトでよく取り上げるジェフリー・スターの登録者数は1810万人、ジェームズ・チャールズの登録者数は1860万人。
- 全7言語対応を謳っているが、C++とJavaの扱いが若干ひどいように見える。
- 二分木が二分探索木になっているかどうか検査するというものが紹介されている。
- マットはコンピュータサイエンス専攻はもう先がない!これからはデータサイエンスだ!と言っているが、本人は心理学専攻出身で、やや疑問符がつく。もちろん心理学も統計は使うが……ちなみに、マットは「ソフトウェアサイエンス」というあまり使われない用語を多用しているが、コンピュータサイエンスと言いたいのだと思われる。
- トレン・ブラックが抗議している動画。
Exposing the Techlead (as an ex-fan)
- こちらの動画では「両親と同居して家事をやってもらえ、いろいろと捗るぞ」という確かに実用的だが億万長者にしては奇妙なアドバイスをしている。