新時代のゲイポップアイコンが誕生しています!ジョジョ・シワ……ではなく、チャペル・ローン(Chappell Roan)です。オリビア・ロドリゴの前座を務め、ホワイトハウスに招待されるも辞退して、2014年からYouTube動画を投稿してきたチャペルはどのようなアーティストでしょうか?
as the world’s foremost Chappell Roan data journalist, I bring you an update on her Spotify monthly listeners – she’s increased over tenfold since the start of 2024, which is WILD pic.twitter.com/ZHCjDnTaiA
— Nicki Camberg (@nickicamberg) April 29, 2024
2023年9月22日に新アルバム『The Rise and Fall of a Midwest Princess』を発表して、半年後にビルボードにTop10入りする人気になっています。
「売れる」まで10年
こちらはチャペルの2021年の様子と今年のライブ会場の様子を比較しています。人気が出るというのは、これだけ差があるのかと思わされます。
しかし人気が出るまで決して平坦な道ではありませんでした。
チャペルは2020年4月『ピンクポニークラブ』を発表しています。『ピンクポニークラブ』はゴーゴーダンサーへの憧れと賞賛を込めた曲です。ウェストハリウッドにあるゲイバー「アビー」での体験を歌にしています。
『ピンクポニークラブ』を発表した時期は残念ながら、パンデミックが始まったばかりでした。クラブで踊るための曲『ピンクポニークラブ』は時期にふさわしくなく、『ピンクポニークラブ』の結果に落胆したアトランティックレコーズはチャペルとの契約を解除します1。
最悪なのは契約解除だけではありません。同じ週に4年交際したパートナーから別れを告げられます。資金が底をついたチャペルは、故郷のミズーリ州へ帰りバリスタ、ベビーシッターをして生計を立てたそうです。2020年秋には再びロサンゼルスへ戻りプロダクション・アシスタントをしながら、ドーナッツ店でバイトをしていました。
この経験を振りかえりチャペルはこのように話しています。
諦めそうだった。音楽に携われないなら、故郷に帰りエステティシャンしながらドラァグ・クイーンをしていたと思う。長い間貧乏な暮らしをしていると、何も恐れることはなくなる。
チャペルが現在のプロデューサー、ダン・ナイグロと仕事を始めたのは2020年でした。ダンはオリビア・ロドリゴやコナン・グレーのプロデューサーを務めています。チャペルはオリビアのGuts Tourの前座を務めていたことが、今の人気を得るもとになりました2。
チャペルは2014年からYouTubeに動画を投稿しています。その頃、YouTuberのトロイ・シヴァンとコナー・フロンタに才能を褒められています。
i’ve had 16 year old girl on repeat for 2 months. you HAVE to listen to this, guys – go send some love. https://t.co/TwZnI2HnYo
— 👼🏼 (@troyesivan) November 5, 2014
その後トロイ・シヴァンはYouTuberからアーティストとしての転進に成功しました。チャペルも、チャペルを認めたトロイも、スターへの道を駆け上がっていったとは、まるでフィクションのようです。
チャペルの音楽
チャペルの曲は1980年代シンセポップのようなサウンドが特徴的です。
チャペルのヒット曲『Good Luck Babe』は同性愛について歌っています。語り手の恋の相手はクィアだと認められなくてそのまま結婚してしまい深夜、夫の横で頭を抱える……「そうなるって私はわかってた」とチャペルは歌っています。
『Naked in Manhattan』も女友だちに片思いをしている気持ちを歌っています。「キスをしたら地獄に落ちるかもしれないけど、私たちなら大丈夫」と歌っています。
ポップな音にチャペルはクィアな歌詞を乗せていますが、最初からそうだったわけではないようです。中西部出身で、保守的でクリスチャンとして育ち、夏はクリスチャンのサマーキャンプに行っていたそうです。チャペルの本名はケイリー・ローズ(Kayleigh Rose2)です。人口6000人ほどの小さな街で生まれました。
歌詞にときおり「お母さんは悲しむけど」「地獄に落ちるかも」という言葉が入るのは、生い立ちとは真逆の道を突き進んでいるチャペルの覚悟なのでしょう。チャペルは子どもの頃に自分が聞きたかった曲を書いているとも話しています。
チャペルは力強いパフォーマンスをする女性歌手を好んで聴いているそうで、マドンナ、アラニス・モリセット、スティーヴィー・ニックス、ケイト・ブッシュの影響を受けているそうです。好きなジャンルはエレクトロ・ポップだそうです2。
チャペル・ローンが完成するまで
今でこそチャペルはドラァグ・クイーンのメイクでステージに上がる人だというキャラクターを確立していますが、元々は、自身をドラァグ・クイーンだとは思っていなかったようです。
ロンドン公演の前座を務めてくれたドラァグ・クイーンのクレヨラが「あなたはドラァグ・クイーンよ。」と言ってくれたおかげで、自信を持ってドラァグをするようになったそうです。
こちらの動画ではクレヨラ本人が「まさか、チャペル・ローンがドラァグ・クイーンと気付くきっかけになったとは思ってもいませんでした。私からすれば何気ない言葉だったのです。見て明らかにそうなものをそうだと言っただけ。私が伝えたいのは、どのようなドラァグも立派なドラァグです。どのように表現するかが重要なので、キングでもクイーンでも何でも良い。でもみんなが素敵なドラァグってわけではないから、精進しましょうね。そうすればチャペル・ローンのように世界的な舞台に立てる日が来るでしょう。」と話しています。
ドラァグ・クイーンのチャペルを形作るために欠かせない人々を紹介します。チャペルのステージ衣装を手がけたデザイナーのレイシー(Lacey Dalimonte)です。レイシーは他にもビリー・アイリッシュやマドンナ、ジェフリー・スターの衣装も手がけています。
チャペル・ローンのスタイリストはジェネシス・ウェブ(Genesis Webb)です。ヴァイオレット・チャチキやアニャ・テイラー=ジョイのスタイリングも務めています。
(2024年8月18日:削除されたInstagram投稿をキャプチャ画像で置き換えました。)
チャペル・ローンのメイクアップアーティストは『ユーフォリア』も担当しているダニー・デイヴィーです。
才能があるチャペルを際立たせるために、それぞれの業界の先駆的な人たちが関わっているのですね。
ドラァグの代表格のようになり人気が爆発して、6月のプライド月間にガヴ・ボールに出演したチャペルはホワイトハウスの招待を断った理由を明かしています。
精神的なこととコミュニティへ恩返し
精神的な問題についても公にしています。2022年5月の投稿では双極性障害Ⅱ型2と診断されたとInstagramに投稿しています。投薬とセラピーで乗り越えているそうです。
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ここまでの内容は概ねNicole Rafieeが紹介しています。
チャペルは自身の属するコミュニティへの恩返しも意識的に行っています。ABCのインタビューでこのように話しています。
個人的には、ここ数年SNSのフォロワーが多いだけで何の芸もないスターが祭り上げられるのを見ていたので、確かな実力のあるチャペルの人気には安心感があります。強い意志で成功したいと突き進み、多少失敗しても食らいつくチャペルに人気が出るのは納得です。
Image: Please Don’t Be Weird About Chappell Roan
参考:How Chappell Roan Skyrocketed to Pop Stardom
Meet Chappell Roan, L.A.’s queer pop superstar in the making
Chappell Roan on Her Love of Drag Queens and Her Debut Album That ‘Feels Like a Party’ (Exclusive)
注
- 「業界を知らない未成年者(チャペルの場合は17歳)とレコード会社は契約を結ぶ慣習があるが、搾取する気満々の契約を結ばせて、けしからん。」と話している。(動画)
- テイラー・スウィフトの前座を務めて人気になったサブリナ・カーペンターとよく似ている。サブリナも歌手としてヒットを出すまで時間がかかった。