歌手のブリトニー・スピアーズが自身が2008年から成年被後見人とされているのは不当だと訴えて話題になっています。2021年6月23日にリモート出廷したブリトニーは、13年間に及び成年被後見人とされていることで自由が著しく侵害されてきた、人身売買さながらの扱いだ、後見は終了されるべきだ、と主張しています。
長らく自身の状況について沈黙を貫いてきたブリトニー本人の声明に、ファンは歓喜しています。ブリトニーの発言、その反響、結果として起こった「悪役」への批判を紹介します。
ブリトニーを自由に#FreeBritney
ブリトニー・スピアーズは1981年生まれ、1990年代から2000年代にかけて全世界で驚異的な人気を誇ったポップスターです。
パパラッチに追われ、たびたび奇行を報じられ、ゴシップ誌の紙面を飾ってきました。トラブルも多く、2008年には親族の申し立てで成年被後見人とされ、行動を制限されてきました。
この問題に最近関心が集まったのは、2021年2月5日、Huluでドキュメンタリー『Framing Britney Spears』が公開されたからです。しかしそれ以前から、ファンの間ではブリトニーを心配する声がありました。「ブリトニーは意に反して薬を飲まされ、アル中で子育てに無関心だった父親のジェイミー・スピアーズから虐待されている」とささやかれていたのです。
ファンが心配していたのは、Instagram投稿が偽物くさく、ライブを突然キャンセルするブリトニーの行動が不自然だったからです。ブリトニーの自由が制限されているのではないかと疑われていました。
ブリトニーを心配するファンは「ブリトニーを自由に(#FreeBritney)」を合い言葉に活動していました。一部では根拠のない陰謀論ではないかとも言われていた「ブリトニーを自由に」運動ですが1、今回、裁判所でのブリトニーの発言が明らかになったことで、一気に信憑性を増しました。
実際、被後見人となったブリトニーは、経済的な自由や投票の自由、運転して外出する自由までが制限されていました。今回ブリトニーが23分間話した内容は、想像以上に非人道的なものでした。
ブリトニーの声明
ブリトニーは13年間、成年被後見人の立場(conservatorship)にありましたが、これは不当だったと主張しています。財産の管理権を奪われ、ライブも自分の意思で行うことはできず、「セラピー」に通い投薬を受けることを強制されてきました。これは家族やその取り巻きの弁護士やセラピストによる虐待であると主張しています。
6月23日、ブリトニーはオンラインで申し立てを行いました。本来裁判の音声は録音・放送してはらないはずですが、#FreeBritneyの運動家たちが持ち込んだマイクでライブストリーミングした音声まで出回っています。
以下はNBCの報じた書き起こしに基づく抄訳です。
ツアーが終わったら今度はラスベガスのショーでした。休みが必要でしたが、もう予定されているから、と言われました。毎週4日が練習で、自分の練習だけではなくショー全体の監督や振り付けも私の仕事でした。
マネージャーの言い分は変です。私が練習に出てこなかったとか、練習中に薬をちゃんと飲まなかったとか。でも、薬は朝飲むもので練習中に飲むものじゃありませんでした。彼らは練習を見に来もしませんでした。なんであんなことを言うんでしょう。
練習中にあるダンスの動きをやめようと提案したことがありました。気に入らなかったんです。私は誰かの奴隷じゃない。ダンスの動きを拒否する権利くらいあってもいいでしょう。ところが、私が提案するとマネージャーもダンサーも部屋を出て、ドアを締め切って45分は出てきませんでした。彼らはセラピストのベンソン先生を呼んで、私に「君は練習の決まりに従っていない」と言わせました。しかも、先生は「君は薬を飲んでいないな」と言うんです。8年間毎日飲んでるのに。
もうこんなことには耐えられないと言ったことがありました。すると、嫌ならラスベガスのショーはしなくてもいい、と言われました。解放されたと思いました。
3日後、セラピストの先生に会うと、私が練習に非協力的だとか、薬をちゃんと飲んでないとか言ってきました。しかも翌日、私が5年間飲み続けてきた薬を取り上げて、リチウム2を飲ませました。リチウムは強い薬で、酔っ払ったみたいになって、ちゃんと話ができなくなりました。やめてほしいと言ったら、先生は6人の看護師に私を交代で見張らせて、飲みたくもない薬を飲ませました。
一番悪いのは父です。私に関することは全部父が許可を出すことになっています。父が全部許可を出したんです。ほかの家族も私を助けてくれませんでした。
休みの間ずっと、毎日4時間、女性が心理検査をしに来ました。それが終わって、父から「検査の結果が悪かったから、ビバリーヒルズの療養所に入りなさい。リハビリだ。」と電話で言われました。私は1時間ほど電話口で泣き続けましたが、父は私が泣いているのがうれしいようでした。父は我が子を傷つけられる力があるのがうれしかったのです。
荷物をまとめて療養所に行きました。私は週に7日働いていました。休みなしです。ほとんど人身売買ですよ。強制的に働かせる、財産を奪う、私を四六時中監視する。プライバシーなんてありません。週に7日、毎日10時間働かないと子どもや恋人に会えません。全部彼らの言いなりです。
これが今回、裁判所に来た理由です。もう自分を偽れません。不幸せで、夜も眠れない。ひどすぎる。毎日泣いてます。
父や、私を成年被後見人にした人たちは刑務所に入るべきです。自分のしたくないことを強制されるなんて間違ってるからです。
前に裁判所に来たときは、私は無視されて、彼らが私にしたことも何もなかったみたいに扱われて、私がウソつきみたいでした。またここに来たのは、私はウソつきじゃないからです。話せばきっとわかってもらえると思ったからです。
現状をなんとかしたいんです。成年被後見人に異議の申し立てができるのかどうかわからないんですけど、審査を受けなきゃいけないのはおかしいと思います。私が無能力だと言ってくるような人と一緒にいたくはない。私は十分よくやってるはずです。
私はあの人たちに後見してもらっているわけではありません。そうではなくて、私があの人たちを食べさせてやっているんです。この話はこれまで公の場で言ってはきませんでした。言っても信じてもらえないと思っていたので。パリス・ヒルトンが寄宿学校で虐待されていたっていう話みたいに3。私もその話は信じてなかったし。
でも、それは間違いだったんだと思います。「あれはウソだ。だってブリトニー・スピアーズだよ。」って笑われるのが怖かった。
私はウソつきじゃない。自分の人生を取り戻したいだけです。もう13年にもなります。ずっと自分でお金を稼いできたんです。もう検査されたり審査されたりするのはいやなんです。たくさんの人を養っているのに、監視されて、「まだだめだ」と言われ続けるのはおかしいでしょう?
大勢の会いたくもない人と会わされるのはいやです。自分のお金を自分で管理して、彼氏とドライブに出かけたいんです。
家族を相手取って訴訟をしたい。私の身に何が起こったのかをみんなに知ってもらいたい。私にはインタビューを受ける権利があります。声を上げる権利があります。弁護士はだめだと言ってますが、そんなことはありません。あの人たちはウソばかり言ってます。私の家族も。自分の勝手な理屈を言って、私のイメージを悪くしてる。
成年被後見人が取り消しになった例があるのを知っています。取り消しにならなかったのは家族の誰かがその人に不利になることを言ったときだけです。
私の家族は13年間、私の後見人をすることで暮らしてきました。だから、終わりにしたくないと思うのはわかります。でも、今度は私が彼らの悪事を暴く番です。
私は毎週2回、セラピーに行かされ、週に1回精神科に行っています。もう耐えられません。
成年被後見人になっているので、結婚もできなければ、子どもも産めません。 IUD(子宮内避妊器具)が入れられてるんです。IUDは外して、また子どもがほしい。でも、あの人たちが許してくれないんです。
ずっと一生懸命働いてきました。私の人生を取り戻してもいいはずです。2年か3年休みを取って、やりたいことをやりたい。ほかの人たちと同じ権利を得て、子どもを作ったり、家族を作ったりしたい。
今日はここで話すことができてよかったです。ありがとうございました。
「悪役」が批判される
今回のブリトニーの声明に喝采を送る著名人が多くいました。その中には、ブリトニーの元交際相手ジャスティン・ティンバーレイクがいます。ジャスティンはブリトニーの勇気を讃えるツイートをしていましたが、ブリトニーファンからは逆に批判されてしまいました。
ジャスティン・ティンバーレイクのツイートです。
After what we saw today, we should all be supporting Britney at this time.
Regardless of our past, good and bad, and no matter how long ago it was… what’s happening to her is just not right.
No woman should ever be restricted from making decisions about her own body.
— Justin Timberlake (@jtimberlake) June 24, 2021
ジャスティン・ティンバーレイクは曲“Cry Me A River”のミュージック・ビデオで、ブリトニーと3年間の交際を終えた理由は「ブリトニーの浮気のせいだった」と描いていました。当時のブリトニーはインタビューで「結婚するまで処女を貫く」と言うほどの清純派として知られていました。しかしジャスティンは、破局後のラジオ番組の取材で「ブリトニーとヤったのか?」という質問に「うん。」と答え、ブリトニーのイメージに傷をつけています。
ドキュメンタリー『Framing Britney Spears』では、当時のメディアが「2人の破局は性的に奔放なブリトニーのせいだった」と報じられるきっかけになったジャスティンの言動が批判されています。女性蔑視に加担し、ブリトニーを悪役にしたジャスティン・ティンバーレイクは批判されても仕方ないのでしょう。
当時、ブリトニーを執拗に追いかけ回していたタブロイド誌の『Us Weekly』のディレクターもドキュメンタリーに登場していますが、『Us Weekly』もブリトニーファンから批判されています。
This you? pic.twitter.com/cOExQBbDDc
— kid wonder (@thekidwonderr) June 23, 2021
ゴシップ・ブロガーのペレス・ヒルトンもジャスティン・ティンバーレイクと同様に批判が集中していました。ペレス・ヒルトンは出産直後に不安定になったブリトニーを自身のサイトで酷評して、笑いものにしてきたからです。
硬派なドキュメンタリー
現在、英語圏のTwitterはブリトニーの話題が沸騰しています。火をつけたのは『Framing Britney Spears』とブリトニーのリークされた音声でしたが、それ以前から綿密な調査報道をしてきたYouTuberたちがいます。YouTubeチャンネルDeep Diveでは執筆時、全6パートのシリーズが公開されています4。Deep Diveはブリトニーが被後見人にされていることの異常さを指摘してきました。『Framing Britney Spears』よりも深く、この件に関わった弁護士やセラピストについて取り上げています。パート1はこちらです。
2014年のインタビューでブリトニーは「女の子が欲しい。」と話しています5。世界的な大スターであるブリトニー・スピアーズが、 IUDを摘出する自由もない事実に驚きを隠せません。
Image: Famous Entertainment, #FreeBritney: The Movement (DOCUMENTARY) | Part 5