米国政治への干渉でロシア人2名起訴!中年の危機でバンドマンのYouTuber、Tim Poolは騙されたと言うが誰が信じる?

社会・政治

米国大統領選挙が2ヶ月後に迫る2024年9月4日、司法省がロシアによる政治的プロパガンダ装置の摘発を発表しました。このニュースは米国のYouTuberたちに衝撃を走らせました。プロパガンダの舞台になったのがYouTubeチャンネルだったためです。

Right-Wing Influencers Allegedly Caught Up In Russia Propaganda Scheme

起訴状には金の流れとコンテンツに関する指示、さらにはコンテンツ作成に関わったYouTuberの詳しい情報が書かれています。起訴状では起訴された人物以外は匿名ですが、すぐに特定され、非難の声が集まると同時に、いじられています。

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起訴内容

司法省によるプレスリリース起訴状によれば、この事件の黒幕はロシアの国営メディアRT(以前のRussia Today)です1。RTはYouTubeにもチャンネルを持っていましたが、フェイクニュースが多いため2022年3月に凍結されたという筋金入りのプロパガンダメディアです。

起訴されたのはRTの社員のコンスタンティン・カラシニコフ(Kostiantyn Kalashnikov, 31)とエレーナ・アファナシェヴァ(Elena Afanasyeva, 27)です。2人は米国の会社にYouTubeチャンネルを作らせ、動画を投稿させていました。そのチャンネルとはこちらのTENET Mediaです。

Tenet Media

Tenet Media

チャンネル概要の説明と起訴状に引用されている文言が一致し、登録者数や投稿動画数も同じです。運営している会社は起訴状ではU.S. Company-1と書かれていますが、チャンネルと同じTenet Media社という名前です。

さらに、起訴状には動画に出演している政治コメンテーターが匿名のCommentator-1からCommentator-6までとして登場しますが、それぞれ誰なのかもおよそ特定されています2

デイヴ・ルービン(Dave Rubin)、ティム・プール(Tim Pool)、ベニー・ジョンソン(Benny Johnson)、ローレン・サザーン(Lauren Southern)、マット・クリスチャンセン(Matt Christiansen)などです。彼らは全員、右派のコメンテーターで、元から親ロシア・親トランプの意見を発信してきました。彼らを使って共和党支持者・トランプ支持者にロシアのプロパガンダを浸透させることが目的だったようです。

起訴状によれば、2023年前半からRTの関係者は西ヨーロッパの金融業者Eduard Grigoriann3を名乗ってTenet Media社4に資金提供を持ちかけ、右派のコメンテーターを獲得し、作るべきコンテンツの内容について指示していました。

Tenet Media社はコメンテーターたちを集め、金額の交渉もしています。Commentator-1は年間$5M(約7億円)、Commentator-2は毎週$100k(約1400万円)を要求し5、経営陣はあまりに高額で利益が出ないと思ったものの、RTからは資金が提供されました。

Tenet Media社へはトルコ、UAE、モーリシャスのダミー会社経由で$9.7M(約14億円)入金され、これが収入の90%を占めていたようです。ほとんどがCommentator-1とCommentator-2に支払われました。Commentator-3以下がかわいそう。

RTは総額にしておよそ1000万ドルをTenet Mediaに投入したようですが、チャンネルTENET Mediaの総再生回数は1600万回と、1ドルで1.6回しか再生されていません。あまり効率はよくないようですが、再生回数を増やすことだけが目的ではなかったのかもしれません。

TENET Mediaは3月のモスクワのテロはISISではなくウクライナと米国の仕業だという動画を出していました。プロパガンダの場を確保した上で、拡散は別の手段を使えばよいという考えなのかもしれません6

4月には陰謀論をプッシュしまくりの世界一の金持ちことイーロン・マスクがTENET Mediaを激推ししていました。

迷惑な人がSNSの経営権を得たものです。この種の目立ちたがりのアホ人物が宣伝してくれればロシアとしては十分なのでしょう。

司法省による起訴の報道を受けてTENET Mediaの最新動画には多数のコメントがつき、「認証済みロシアプロパガンダ」「売国奴」「刑務所に入るか、モスクワへの片道航空券を買うか選べ」など言いたい放題になっています。

Tenet Media社の経営者のローレン・チェン(Lauren Chen)は7月に、パレスチナ・イスラエル紛争に米国内で声を上げている人々について「あいつらの愛国心はアメリカじゃないどこかに向かってるわけ」と言っていましたが、それは自分のことだったようです7

NBC Newsの記事によれば、ローレン・チェンはRTのサイトに寄稿者として名を連ね、ウラジミル・プーチンを賞賛し、ウクライナ支援を停止せよと主張しています。

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もう一つの事件

なお、この起訴と同時に、ロシアによるフェイクニュースサイトのドメイン32個の差し押さえも発表されています。ワシントン・ポストのサイト(washingtonpost.com)に見せかけたサイトwashingtonpost.pmに偽記事を掲載していたと発表されています。偽記事のスクリーンショットはこちらで見られます。

この事件とは直接関係がありませんが、つい最近、カマラ・ハリス候補が過去にひき逃げをしたことがあるというフェイクニュースが出ていました。

このフェイクニュースは「証拠」とされるレントゲン写真の日付が明らかに古く、すぐにウソがばれました。しかし、このフェイクニュースも存在しないニュース局の名前とそれらしいドメイン名のサイト(たった2週間前に取得されたもの)で拡散されていました。このような手法は広く使われているようで、差し押さえられたのもこのたぐいのドメインです。

今回、証拠として公開されたフェイクニュースサイトの内部文書には、「現在政権を握るB党に対抗して、A党の、特にA候補の意見が多数派になるため必要な措置を講ずる」と書かれており、党や候補の名前は伏せ字になっていますが、内容を見れば隠していないも同然です。

この文書ではターゲット層として、「A候補に投票する人々」以外に「ヒスパニック」「ユダヤ系」「ゲーマー掲示板の住民」が挙げられているのが興味深いところです。そういえば、A候補は最近、評判のよくないストリーマーの配信に出演していました。

今回のフェイクニュースサイト事件では、すでに出てきたRTの社員2名を含む10名が関係者として名指しされています。その中には、RTの総帥であるマルガリータ・シモニャンもいます。マルガリータ・シモニャンはよく知られたプロパガンディストで、クソ映画の制作者としても有名(?)です。

ひたすらいじられるティム・プール

ここまでが事件の概要ですが、YouTubeとTwitterではTENET Mediaに参加していた右派系政治コメンテーターたちが批判を受けています。

その中でも集中砲火を浴びているのがCommentator-2ことティム・プール(Tim Pool)です。左派系コメンテーターのハサン・パイカーは「ティム・プールはロシアの手駒だった」と題した動画のサムネでこの笑顔です。

TIM POOL IS A RUSSIAN ASSET

ティム・プールは陰謀論に走ったカニエ・ウェストをポッドキャストに出演させるも態度が煮え切らなかったのでキレられRFK Jrを支持すると主張して批判されると「冗談だった」と引っ込めるなど、政治系YouTuberの中でも「誰がアレのファンになるのかわからない」と言われる人物です。今年の5月にはA候補をポッドキャストのゲストに招いていました8

この事件が報道されると、ティムは当初、「司法省からリークがあったと言われている件について」とツイートし、「こっちが被害者」「政治的なコンテンツばっかりじゃない」「人に指図されて作ってたわけじゃない」「ジャーナリストはウソつき」と主張していました。

ところが、その後リークではなく正式発表だと気づき、訂正しました。

内容は同じです。正式発表をリークと勘違いしたのは恥ずかしい間違いです。Commentator-3ことベニー・ジョンソンも当初リークだと言っていたようで、どこか同じところから出た指示に従っている可能性もあります。

また、コンテンツの内容について指図されていないと主張しているものの、起訴状にはRTの社員からTenet Media社にいろいろな指示があったことが示されており、説得力はありません。

さらに、自分は騙されていた被害者だと言いたいようですが、「ロシアに有利な情報を流したら大金をくれる西ヨーロッパの富豪」が本当に西ヨーロッパの富豪である確率は、「ATMを操作すれば還付金が手に入ると電話をかけてくる税務署員」が本当に税務署員である確率と同じぐらい低いでしょう。ロシアからの資金だとわかった上で受け取っていたはずです。しかも、大金を受け取っておいて「被害者」とはどういうことでしょう?

一年弱でティムは$5M(約7億円)ほどの高額報酬を受け取っていたことになりますが、これでようやく腑に落ちたという声もあります。左派系政治チャンネルのエマはティム・プールの自宅スタジオを訪問した際、あまりの豪邸で驚いたそうです。左派系YouTuberではあり得ない金満ぶりです。

鋭い人は以前からティムが怪しいと気づいていたようです。こちらはYouTuberのDestinyのツイートですが、8月の時点でティムを「ロシアの操り人形」と呼んでいます。

Destinyは「こいつらハンター・バイデンの疑惑を追及してるけど、ハンター・バイデンが6年かけてもらった役員報酬よりたくさん1年で金をもらってる」ともツイートしています。

ロシアから金をもらっているティムは、SNS上の政治コメンテーターの動機やからくりをよくわかっていたようです。ポッドキャストでこのように発言しています。

ほかの政治コメンテーターを批判する文脈だったのでしょうが、どうやら意図せざる自己紹介だったようです。

フェイクニュースを流す片棒を担いで大金を稼いでも、むなしくなりそうなものです。そのせいか、ロシアからもらった金が有り余っているティム君は中年の危機の深刻化に余念がありません。バンドを立ち上げ、第二の青春(?)を謳歌する構えのようです9

元から低かったティムの評判は、ますます底なし沼にはまっていきそうです。

参考Justice Department Disrupts Covert Russian Government-Sponsored Foreign Malign Influence Operation Targeting Audiences in the United States and Elsewhere

  1. さらに背後にロシア政府がいる可能性もある。
  2. このツイートでは不明になっているが、Commentator-3はBenny Johnsonらしい。
  3. 面白いことに、偽GrigoriannもTenet Media社の経営者も、間違えてGrigorianと書くことがしばしばあったらしい。注意散漫である。
  4. 当時はTenet Mediaという名前ではないが。
  5. 年額換算でほぼ同額なのが面白い。これが相場なのだろうか。
  6. 怪しげな動画クリップをTENET Mediaに投稿させて、「TENET Mediaがこう言っている」と述べるニュースソースのロンダリングをしようとしていたのかもしれない。
  7. Lauren Chenは米国籍ではないと告訴状に書かれているが。
  8. Commentator-3ことベニー・ジョンソンは2月にTENET Mediaの動画でドナルド・トランプ・ジュニアにインタビューしている。前大統領本人と、その親父に輪をかけたドラ息子というゲストの格差がCommentator-3以下の待遇の悪さとリンクしているのが面白い。かわいそう。
  9. このツイートは2022年でTENET Media以前のものではあるが。
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