ソフィアと呼ばれる女が米国のインフルエンサー界隈を震撼させています。米国時間11月18日、Twitterスペース(音声配信機能)からソフィアの名は広がりました。しかし、彼女の起こした事件の全貌はいまだ誰にもつかめず、騒然としています。
謎めいた事件はハッシュタグ#SurvivingSophiaの名の下に語られ、ある者は己の愚かさにほぞを噛み、ある者はインフルエンサーの醜態に快哉をあげ、ある者は途方に暮れて右往左往するばかり……。
ソフィアとは何者なのでしょうか?
この謎に包まれた女はソフィア・M・ヌール(Sophia M Nur)。詐欺師です。インフルエンサーを手玉にとり、被害総額は約12億円($11ミリオン)ともウワサされています。国籍はカナダだと自称していましたが、真偽不明です。こちらの写真がソフィアです。
(2022年1月2日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
ソフィアの壮大な詐欺は話題になり、Twitterでは#SurvivingSophia以外にも#survivingstupidityがトレンド入りしていました。
発覚のきっかけとなったインフルエンサーの会話
きっかけはインフルエンサーたちのSNS上での会話です。彼らの間に思わぬ共通点が見つかり話題になりました。同じ女から金品をだまし取られていたと発覚したのです。
発端は、YouTuberのジェフ・ウィティック(YouTube登録者数313万人)、デンゼル・ディオン(YouTube登録者数147万人)、リッキー・トンプソン(YouTube登録者数121万人)、アレック・ホールデン(YouTube登録者数4690人)などが参加していたTwitterスペースの会話です。
話の流れで、謎の女に金品をだまし取られた話題が出ました。
アレック・ホールデンは「出会い系アプリでソフィアと知り合い、家で話をしていた。ソフィアが持っていた酒を勧められ、飲んだらいつの間にか気絶していた。気付いたら、服は脱がされ、家に置いていた大金と金目の物が盗まれていた」と明かしています。
ジェフ・ウィティックは「友だちの知り合いだって人から連絡があり、集団暴行され財布を盗まれて困っていると電話がかかってきた。かわいそうだから俺のクレジットカードの番号を伝えた」と話しています1。
会話の一部音声が出回っています。
#SurvivingSophia https://t.co/9lHEw3ngRm This is a very good lesson to not trust everybody😔 especially @jeffwittek do not give credit card lmao pic.twitter.com/CkFZ1QsDs2
— Tio Xany (@Pcycodelicoele) November 19, 2021
執筆時、全録音内容は公開されていませんが、視聴していた人がTwitterスレッドで詳しい内容を投稿しています(リンク)。
明らかになったのはソフィアのあきれるほど多彩な詐欺とウソです。
「有名歌手ジャック・ハーロウの付き人たちに集団暴行された、今はジャック・ハーロウの子どもを妊娠している」、「メディア会社のトリラーで働いている」、「ラッパーのドレイクのマネージャーの知り合いで、ドレイクの所属するOVOで働いていた」など様々なウソをついて同情させたり信用させたりし、その上で「いとこに金を盗まれて困っている、家に泊めてくれ」、「母親の葬儀費用がないので困っている、金を貸してくれ」など緊急を要する話を持ちかけて金品をだまし取っていた疑惑があります。
ソフィアはロサンゼルスのインフルエンサーをターゲットにしていたようです。だまされた一人のジェフ・ウィティックの名前は、「有名YouTuberのジェフ・ウィティックと同棲している」、「ジェフ・ウィティックのところで働いている」とほかのインフルエンサーをだますウソの中に組み込まれていたようです。だました上に名前も利用するとは二重、三重の詐欺です。
常習犯
実はこのソフィア、ロサンゼルスの一部インフルエンサーの間では知られた詐欺の常習犯だったようです。
今回発覚する発端になったTwitterスペースに参加していたカミル(camille)は2021年5月に、すでにソフィアを詐欺師だと告発していました。
let me tell you about this bitch @sophiamnur pic.twitter.com/DT2o4TIItn
— camille (@camiicampb) May 23, 2021
カミルは「『いとこに金を盗まれて、泊まるところがない』と泣いているソフィアから深夜に電話がかかってきた。かわいそうなので250ドル(約3万円)のホテルを前払いして泊めてあげた。翌日も同じようにホテルを予約してとお願いされたけど、前払いしたお金を返してくれないなら予約しないと断ったの。しかも先月はカナダまでの飛行機代を払ってあげたのに、まだお金を返してくれていない。お金を返して! PayPalは国境を越えると入金まで時間がかかるとかウソつかないでよ! 通報してカナダに強制送還させるわよ!」と告発していました。典型的な寸借詐欺です。
このときは、まだソフィアの悪質さは認識されず、半年後に多くのインフルエンサーが同様の被害に遭ったことが判明するまで注目されなかったようです。
ソフィアはインフルエンサーたちに近づき、有名人の知り合いがいる(メディア会社で働いている)と話して安心させ、不幸な出来事(性的に暴行された、財布を盗まれた、住むところがない)を語り金品をだまし取っていたのです。
目撃証言
西海岸のインフルエンサー周辺をうろついていたソフィアの行動範囲はかなり広かったようです。神出鬼没のソフィアをさまざまなインフルエンサーが目撃していたことが明らかになっています。
ソフィアはローガン・ポールやジェイク・ポールのパーティーや自宅にも侵入していたようです。
ローガン・ポールの付き人マイクが「自称メディア会社勤務の女が勝手に侵入してた。どこの会場にもしつこく侵入してきて、そのたびにセキュリティからつまみだされていた。」と話しています。
little did we know, we were #SurvivingSophia #OriginStory pic.twitter.com/zulSHONkm3
— Mike Majlak (@mikemajlak) November 19, 2021
最新の目撃情報では、YouTuberのキアン・アンド・JCのお祝いパーティーにもソフィアは侵入していたと明らかになっています。キアン・アンド・JCはリアリティ番組の公開とアパレルの発売を祝うパーティーを催していました。
(2025年2月18日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
ブライス・ホール対オースティン・マクブルームのボクシングはフロリダ州で行われましたが、ソフィアもフロリダ州に移動していたようです。インフルエンサーが集まるところに商機ありとみたのでしょうか。驚くほど働き者の詐欺師です。ハードワーカーがであることが美徳とされる米国では、詐欺師も働き者なようです。
(2025年2月18日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
ソフィアがインフルエンサーを餌食にした理由
有名人の知り合いで有名な会社で働いているのに身内の葬儀費用を出せないなど、よく考えれば露骨な詐欺としか言いようのない話にひっかかってしまったロサンゼルスのインフルエンサーは、お人好しだといじられています。
(2022年11月13日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
しかし一方で、インフルエンサーは華やかな業界に身を置いていますが、待遇の悪さを元部下から告発されることもよくあります(こちらの記事およびこちらの記事)。このような事情もあるので、インフルエンサーにとってはソフィアの作り話は疑わしくなかったのかもしれません2。不当契約や収奪的な雇用条件が多いうえ、世間知らずな若者ばかりの業界では詐欺師が跋扈するのも無理ありません。
インフルエンサーを食い物にするマルチ・チャンネル・ネットワーク(MCN)の不当契約についてはこちらの記事やこちらの記事をご覧ください。インフルエンサー自身が手がける詐欺も多いのですが、どうやら今回だまされたのはお人好しな面々だったようです。怪しげな商売に名を連ねるポール兄弟とその周辺が被害に遭っていないのは示唆的です。
ソフィアの悪行が広く知られていなかったのは不思議ですが、インフルエンサーの「友達づきあい」が金銭ずくで表面的なため話が伝わらなかったのではないかという指摘もありました。
#SurvivingSophia she stole 11 million dollars by scamming her way into hotel rooms and lunches into LA’s popular social circle , claimed she was pregnant with Jack Harlow but lives with Jeff Wittek ? All of you got scammed by the same person and never said a word to each other ? pic.twitter.com/V0x8y7aFSf
— willow ⚡️ (@loveforot3) November 19, 2021
寸借詐欺から窃盗、カード犯罪まで手を染めたインフルエンサーを狙ったソフィアの大胆不敵さは恐怖と驚嘆の的になっています。SNS上では、人の善意につけ込む詐欺師への怒りの声のみならず、「間抜けなインフルエンサーからろくでもない稼ぎを巻き上げた」ソフィアに義賊のように喝采を送る声もありました4。
この事件が発覚する直前までインフルエンサー界隈をうろついていたソフィアは今は雲隠れしたようですが5、このまま逃げおおせるのか、お縄となるのか、再びどこか自分の知られていない場所で「商売」を続けるのかは不明です。
Image: Molly Blackbird