スーパーの食品売り場には毎日のように新商品が登場します。定番商品になるものもありますが、多くはすぐに消えます。その中には誰が買うのかわからない珍商品もあります。
これは、アメリカのスーパーで発見された、珍商品についての物語です。異様な形、異常な食べ方、物理法則に反した成分表示、正体不明のメーカー、謎の人物の訪問予告……現代の病理を映し出すかのようなその商品が、これです。
(2024年3月9日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
その名は「ラウンドミール(Roundmeal)」。この商品のどこがどう珍商品なのか、見てみましょう。
ラウンドミールにざわつく人々
ラベルによれば、中身はマカロニとビーフで、内容量は三人前です。マカロニ・アンド・チーズ(マックアンドチーズ)は米国では国民的なおやつなので、マカロニとビーフの組み合わせも人気になりそうです。
野菜が入っていませんが、栄養は豊富なようで、理想のインスタント食品です。カロリーが高そうなところが不安ですが、そこもアメリカらしいといえばアメリカらしいところです。まん丸の食べ物なので、“Roundmeal”というのはいいネーミングです。
アメリカのスーパーマーケットによくあるような商品に見えますが、多くの人が衝撃を受けています。
(2021年10月24日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
“PROTEIN”はタンパク質ですが、“BLASTED”は意味がよくわかりません(「タンパク質爆撃」?)。
“FRESH!”というシールも貼られています。なるほどフレッシュなのか、と思いきや、このような声があります。
(2024年2月3日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
確かにマカロニとビーフがどうフレッシュなのかは不思議です。さらによく見ると「冷凍(keep frozen)」とありますが、常温の棚に入っているようです。大丈夫なのでしょうか?
作り方も書かれていますが、なんとこのまま鍋に入れて火にかけるだけです。ラップみたいなもので包まれているのですが、これをそのまま鍋に入れて大丈夫なのでしょうか? 雑すぎます。
さらに怪しい点に気づいた人がいました。8オンス(約226グラム)とのことですが、本当はもう少し重そうです。しかも、不思議な矛盾があります。
Trying to figure out how they got 410 grams of protein into 226 grams of macaroni pic.twitter.com/fuLpppapo1
— Time Spinner (@Time_Spinner) May 26, 2021
確かに、物理法則が乱れているように見えますが、アメリカの最新技術をもってすれば、可能なのでしょう。これがPROTEIN-BLASTEDの意味だと思われます。たぶん。
ラベルの下の方に気になるものを発見する人もいました。
(2022年5月1日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
確かにラベルには「デイヴィスに来てもらおう(Win a visit from Davis)」とあり、このデイヴィスなる人物が「君の家に行くぜ(I’ll come to you)」と吹き出し付きで言っています。いったい誰なのでしょう……。
これを見てこの商品を買いたくなる人は、このデイヴィス氏が何者なのかを知っていて、しかもデイヴィス氏に家に来てもらいたいと思っているようです。家でデイヴィス氏と一緒にこのマカロニ・ビーフを食べるのでしょうか?
三人前のマカロニ・ビーフですから、毎日三人で食べていたら、デイヴィス氏が来たときには四人になるので微妙に足りません。日々これを食べる人なら、取り分が減っただけで耐えられなくなりそうですが、どうするのでしょう?
しかしデイヴィス氏とは何者なのでしょう? こんな声がありました。
Why is Davis coming for me and why does he look like Tommy Wiseau? pic.twitter.com/MenmAAsZAO
— 🔬 Emos 🔬 (@ericmosberger) May 26, 2021
トミー・ウィゾーは2003年公開のカルト映画『ザ・ルーム』の監督兼主演俳優です。確かに似ています。
I’m pretty sure Davis is actually Tommy Wiseau. Maybe this entire food brand is a marketing campaign he is doing.
— WeirwoodTreeHugger (@weirwoodtreehug) May 26, 2021
あらゆる意味で理解に苦しむ駄作として知られる『ザ・ルーム』は、それにもかかわらず巨額の資金をかけて制作されたこと、広告にも多額の費用がかかっているらしいことなど、謎の多い映画です。その監督なら、意味不明な食品ブランドを立ち上げるようなプロモーションをするかもしれません。
このマカロニ・ビーフはHenton’sというメーカーの商品のようなのですが、Henton’sという食品メーカーは検索しても出てきません。零細メーカーなのでしょうか?
実は有名なメーカーで、ポテトサラダも売り出しているようです。
Everyone knows Henton’s pic.twitter.com/GGuwuGnRph
— Ian Fortey Is Writing About Internet Monsters (@IanFortey) May 26, 2021
セブンイレブンの商品のようです。このボトルにも同じ“FRESH!”シールが貼られています。ポテトサラダがボトルに入っています。どうやって出すのか不明ですが、それはともかく、ポテトサラダは野菜ですので、健康によいはずです。一見すごい量にも見えますが、一度にこれぐらいポテトサラダを食べるのは普通のことですので、問題ありません。
アラン・ワグナーの作品
実は、これは本物の画像ではありません。物理法則をねじ曲げデイヴィスを召喚するマカロニ・ビーフもポテトサラダの入ったボトルも実在しなかったのです。
これは巧妙な偽物の映像作品を作っているアラン・ワグナー(Alan Wagner)1の作品です。
Is this what the new generation eats for their meal? pic.twitter.com/sPRl14aIiZ
— Alan Wagner (@truewagner) May 25, 2021
Henton’sは彼が作った架空の食品メーカーだったのでした。
ラウンドミールの形状がまがまがしいので、便乗してこんなコラ画像を作る人もいました2。
(2021年8月22日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
以下、アラン・ワグナーの作品を紹介します。
こちらは子ども向けのCGアニメのDVDパッケージです。
The DVD industry has lost their mind. pic.twitter.com/k3FaYJEFMj
— Alan Wagner (@truewagner) April 13, 2021
シュレックによく似たキャラクターが宇宙船に乗っています。星が「惑星(Planet)」、ブラックホールらしきものが「穴(Hole)」と投げやりに説明されています。子ども向けの絵本にありがちな雑な説明です。
子どもたちが喜ぶおまけもついています。キャラクターになりきれる緑のグローブです。……どうやら片手だけのようですが。誰がほしがるのでしょう?
「注意:ミセス・オーガは劇中で死にます」とあらかじめ教えてくれているのは親切ですが、ネタバレすぎです。
こちらも彼の作品です。
「小さな望遠鏡を持ったガキがしょっちゅう来てウチを見てる。うちには妻と二人の子どもがいるんだ。こんなことはやめてくれ。もしおまえのガキだったら、すぐやめさせろ。」だそうです。
ひょっとしたらこれぐらい神経質になる人もいるのかも、と思わされる絶妙なポスターです。
アラン・ワグナーはYouTubeチャンネルも持っています。
こちらは“salad maker for children”(子どもにサラダを作る師?)のジェローム氏の動画です。耳慣れない職種ですが、セラピストに類するもののようです。
「子どもたちはいつもクソなものを食べさせられてます。だから最初はサラダにマシュマロやキャンディーを入れるのですが、回を重ねるとシーザーサラダを食べてくれるようになります。最後は丸のままのキャベツを10分で食べられるようになりますよ。」とジェローム氏は語っています。食の貧困はアメリカでは深刻です。なにしろ、ラウンドミールなんていう恐ろしく不健康なインスタント食品が売られているのですから! ジェローム氏は大切な仕事をしているのですね。
ジェローム氏はその後なぜか銃を公然と持ち歩く(open carry)権利について力説し始め、大統領選でミッチ・マコーネル上院議員へ投票することを呼びかけます3。
この動画は2016年の半ばに投稿されました。米国では選挙前には市井の人物が自分の人生について語り、候補者を推薦する広告がよく行われます。そのパロディーです。
こちらも銃に関連する作品です。行方不明になった銃を探してくださいと訴えるポスターです。
(2021年6月27日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
「僕はこの世を去ったお父さんを記念するため、この銃を作りました。僕だけの銃です。銃をこの袋に入れて。毎晩見に来るから。袋に入ってたらうれしい。」だそうです。怖い。
「こんなのあり得ない! いや、アメリカならあるかも……」と思わされるところが絶妙です。鋭い批評精神を感じます。