Twitterのタイムラインにこのような動画が出てきたことはありませんか?
the gays bringing back cybergoth in 2020 you love to see it pic.twitter.com/Ox4ETxAEVe
— em (@gagafiIm) May 22, 2020
サイバーゴス・ダンスパーティーと呼ばれるこの動画にはさまざまな音楽が当てられ一種のネタになっています。
これは何の動画なのでしょうか? 彼らは何者なのでしょうか? なぜ橋の下で踊っているのでしょうか? 今回はYouTuberのwavywebsurfの解説に沿って「サイバーゴス・ダンスパーティー」がネットでいじられるまでを紹介します。
以下はこちらの動画の内容に即しています。
サイバーゴスとは
サイバーゴスは電子音楽の派生文化としてイギリスとドイツで90年代頃人気になったスタイルです。ゴスとレイブが悪魔合体し、磨き上げられたようなスタイルがサイバーゴスです。
サイバーゴスは主としてカラーコンタクトを装着し、カラフルなウィッグを被り、ネオンカラーの服装をしています。
電子音楽の中でもサイバーゴスたちが好んだジャンルはインダストリアルからテクノ、フューチャーポップまで多岐にわたります。隆盛を極めたのは2000年代前半でそれ以降の人気は衰えていると紹介されています。
サイバーゴスは他のジャンルから煙たがられていました。ゴスからは「ゴスと呼ぶには、ゴスを極めていない」、レイブカルチャーからは「レイバーと呼ぶにはレイブっぽくない」といった扱いです。
ゴスとレイブ界隈の両方から「なんだか中途半端だな」と見られる存在がサイバーゴスだったようです。その結果、イベント会場で冷やかされることもあったそうです(かわいそう)。
クラブからネット、オフ会へ
そこでサイバーゴスたちはクラブから遠のき、2000年代の中頃にはネットへ住処を移します。同好の士たちとネットで親交を深め、オフ会を開催します。
2000年代後半から2010年代の前半には、サイバーゴスたちのオフ会の映像がYouTubeなどで共有されるようになります。
2012年の3月11日、ドイツ人サイバーゴスのケンジ・イカロス(Kenji Icarus)はデュッセルドルフの橋の下で開催されたオフ会に参加しました。1999年にリリースされたハウスの曲“Lock ‘n’ Load – Blow ya mind”に合わせて踊っています。
ケンジはオフ会で撮影した映像をYouTubeに公開しました。こちらがその動画“6. Cybertreffen am 12.3.11”です。これがネタになった動画のオリジナルでした。
当初、この動画にはサイバーゴスの仲間たちから好意的なコメントがされていました。「緑のマスクした人と、その隣の紫のドレッドの人が良いね」、「白い格好した人、カッコいい」などです。
ケンジは仲間たちのコメントを受け、オフ会の様子をチャンネルに公開し続けていました。動画の再生回数は仲間のサイバーゴスたちが視聴しているだけの控えめなものでした。
ネットでいじられる
しかしその半年後、動画“6. Cybertreffen am 12.3.11”は突然再生回数を伸ばします。ニューヨーク・マガジンの取材に応じたケンジは当時を振り返り、このように話しています。
2011年の9月、あの動画の再生回数は24時間で数百回から8万回まで伸びました。ほとんどドイツ語だったコメント欄は英語で埋め尽くされます。しばらくあっけにとられ、その後調べてみたら私の動画がBarstool Sportsというサイト兼ブログに転載されていたと知りました。Barstool Sportsに掲載された後、動画はすぐにRedditに転載されたようでした。
動画のコメント欄はドイツ語から英語に変わっただけではなく内容も一転します。好意的な仲間たちからのコメントではなく、蔑みや批判的なコメントに変わってしまいました。
「ガキどもここはゲームの世界じゃないんだ。こんな服装はしてはいけない。」、「なんてバカな集団だ。橋の下に集まって踊るのも変だが、なぜその動画をネットに公開するんだ?」
ケンジは動画の概要欄に説明を書き誤解を解こうとしますが、効果はありませんでした。
結果としてサイバーゴスたちは2000年代前半にゴスやレイブ界隈から虐げられていたのと同じように、ネットからもいじられる存在になってしまいました。
さらにかわいそうなことにケンジの動画はBarstool Sportsに掲載された同時期に、別のチャンネルに再アップロードされてしまいます。
このチャンネルに再アップロードされた動画はYouTubeのアルゴリズムで優先され、ケンジのチャンネルの動画より再生回数が大幅に伸びます。
執筆時、ケンジの元動画の再生回数は72万回、再アップロードされた動画は1300万回再生されています。もはや動画はケンジの元を離れ、ミーム界の手に落ちてしまったのです。
ネタになる
このような経緯で冒頭のようなネタ動画が大量に投稿されるようになりました。
こちらはマライヤ・キャリーの名曲『恋人たちのクリスマス』に合わせて踊っているサイバーゴスたちです。
サイバーゴスたちが仲間たちと楽しく踊っていただけの動画は、ネットでいじり倒される存在になり、サイバーゴスの文化は静かに忘れられていきました。たとえサブカルチャーの歴史からサイバーゴスが消えてしまっても、ネタになった動画はまだまだネタとして生き続けることでしょう。
サイバーゴスは忘れられつつありますが、現代でもサイバーゴスのスタイルを貫いているブランドがあります。イギリス拠点のCyberdogです。独特のセンスに強い印象を受けます。
Image: Goth Stuff, ally hardesty, Drahcir Zeuqsav