【ネタばれあり】『ドント・ウォーリー・ダーリン』レビュー フローレンス・ピューは素晴らしいが舞台裏のゴシップの方が話題性あり?

3.0
セレブ・エンタメ

2022年秋公開の映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』のレビューです。ネタバレがありますのでご注意ください。公開前からある意味で論議を呼ぶ作品だった本作ですが、内容も別の意味で論議を呼びそうです。

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この映画を観るべき人、観るべきでない人

もしハリー・スタイルズのファンやフローレンス・ピューのファンで、映画は好きだけどマニアってほどじゃないなら、ぜひ観に行ってください。印象的で素敵な映画です。

もしあなたが二人のファンではなく、映画マニアでしたらきっと満足できないので、おすすめはしません。これは多分、ご存じの佳作・名作の、できが悪い焼き直しです。

Don’t Worry Darling Ending Explained | Plot Details | Spoilers
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ストーリー

主人公のアリス(フローレンス・ピュー)は専業主婦。 毎日完璧に家事をこなしています。アリスは運転できないので、近所の奥さんと一緒にバスを利用してお買い物に出かけ、お昼もアルコールつきのランチという優雅な暮らしです。

アリスの夫はジャック(ハリー・スタイルズ)。ジャックは「ビクトリー・プロジェクト」という極秘任務をしています。極秘任務なので「ビクトリー・プロジェクト」が何なのか、妻たちは知りません。

服装と調度品から舞台は1950年代のパームスプリングスのようだと察しが付きますが、朝アリスは白シャツ一枚の姿でジャックを見送る不自然な描写もあります。不自然なのはそれだけではなく、この町は住んでいる夫婦も夫がしている仕事も謎に包まれていてすべて不自然です。

使い古された設定

『ドント・ウォーリー・ダーリン』は終盤で種明かしがされています。実はここは、バリバリ働くアリスに引け目を感じる失業したジャックが自信を回復するためやってきた、仮想空間だったのです。夫の仕事が謎で、妻たちが運転免許も持っていないのはそのためです。

類似の作品として『トワイライト・ゾーン』、『ステップフォード・ワイフ(原作小説)(1975年映画)(2004年映画)』、『ゲット・アウト』『マッドメン』をあげている評者が多いようです。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』では優秀な女性たちが家父長制の犠牲になっている、というのが主要なテーマのようです。家父長制への批判を込めた描写が随所で感じられます。

しかし、セックスシーンでは、奉仕をするのはジャックのみです。これは違和感があります。その違和感も含めてこの世界が仮想空間だと示唆する小道具なのでしょうか。それともジャックの罪悪感が込められているのでしょうか。ジャックは仮想空間の中でも強い家父長にはなれないようです。本作は強い家父長になることに憧れる、弱く傷ついた夫たちの物語なのです。

美しい世界観

50年代の調度品、インテリア、服装、車、『ドント・ウォーリー・ダーリン』はとにかく美しい世界が舞台です。衣装デザインはアリアンヌ・フィリップスが務めています。この美しい衣装と調度品は一見の価値ありです。映画の中の衣装を着てお出かけしたくなります。

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撮影監督はマシュー・リバティークです。プロダクションデザインはKatie Byronが手がけています。

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仮想空間の白々しい美しさが映像として表現されています。

フローレンス・ピューは最高 ハリーは…

知らないうちに仮想空間に連れ込まれてしまっていたことに気づく妻という難役をこなすフローレンス・ピューの説得力がある演技のおかげで最後まで観られる作品になった、という印象です。

ハリー・スタイルズはイギリス人ですが、映画の現実世界ではアメリカ人、仮想空間だけなぜかイギリス人という設定です。イギリス出身のハリーがアメリカ・アクセントを習得できなかったので苦渋の選択だったのかもしれませんが、それにしても突っ込みを入れずにはいられません1。ジャックはなぜ仮想空間に行くとき、国籍まで変えたのか?という謎が宙ぶらりんになったまま妄想のみが膨らみます。

ハリーの本業は歌手なので、そちらで活躍した方がしっくりくるのではないでしょうか。この作品で重要な役を演じるには経験の浅さ、演技力のなさが際立ちました1。フローレンスの演技力が高すぎるせいで、ハリーはさらし者になったようで不憫です。

ちょっと疑問が

観ていると疑問がいくつもわいてきます。

なぜ仮想空間で地震が起こるのでしょうか? YouTubeの感想動画のコメント欄には仮想空間はまだ発展途上なので、アップデートをする度に地震(グリッチ)が起こる、という意見がありました。

飛行機のシーンは何だったのでしょう? 意味ありげに見えて意味がわからないシーンがいくつかありました。思わせぶりなだけで何もないのかもしれません。ハリーが昇進してダンスするシーンは「これは仮想空間だ」と観客にわからせるためにやっているのでしょうが、ちょっとくどすぎます。

仮想空間にいる女性は同意しているのでしょうか? 作品の中で唯一、真実を知っていた女性はバニーのみです。主人公のアリスは気絶させられ、同意なく仮想空間に連れてこられています。仮想空間で居住している「妻」の中には、現実世界でストーカーに監禁されていて仮想空間に連れてこられた女性もいるかもしれない……という意見もあります。

仮想空間に本物の子どもはいないのはなぜでしょうか? これもバニーが終盤で明かしていることですが、現実世界では子どもを亡くしているようです。現実に耐えられないので、バニーだけは仮想空間だと知りつつ過ごしていたのです。現実は辛すぎて受け入れられないのです。

舞台裏のゴシップでは監督オリビア・ワイルドとハリー・スタイルズの恋愛が報じられて、注目された映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』でしたが、肝腎の作品にもっと深みがあれば評価が高くなったかもしれません。監督が主演俳優に入れあげても映画の質が上がるわけではないとわかります。評価できるのは映像の美しさとフローレンス・ピューの演技力で、そのほかは疑問符がつきます。

あの描写は、あの設定はどのような意味があったのか、観た後に議論をすれば楽しい映画でしょう。複数名で観に行けば盛り上がれることうけあいです。

  1. フローレンスもイギリス出身だが、さすが本職の俳優、自然なアメリカ英語である。
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