123 GO!、ブライトサイド、7秒クイズ、わんぱくスライムサムを見たことがありますか? YouTubeでときどき動画がおすすめに入っているのではないでしょうか。
実はこれはすべて同じ会社が運営しているYouTubeチャンネルです。運営しているのはTheSoul Publishing。この会社は何者なのでしょう?
展開するチャンネル
TheSoul Publishingは公式ウェブサイトによれば、全19言語でチャンネルを展開しています。たとえば英語版ではブライトサイドはBright Side、7秒クイズは7-Second Riddles、わんぱくスライムサムはSLICK SLIME SAM、5分でできるDIYは5-Minute Crafts、私たちの実録日記はActually Happenedです。
チャンネルは総計で100以上、総登録者数は5億人を超え、毎月500本以上の動画を出していると謳われています。
TheSoul Publishingの本社は現在はキプロスにありますが、元はロシアが本拠地だったようです。英語のチャンネルが作られたのは2016年ごろで、この頃から世界に進出したものと思われます。
動画の内容は?
TheSoul Publishingの運営するチャンネルの動画の質が高くないのは、見ればすぐにわかります。
ブライトサイドは怪しげな豆知識を取り上げる動画ばかりですし、5分でできるDIYはとても役に立ちそうにないものが多く、7秒クイズの多くはまともなクイズではありません。特にひどいのが私たちの実録日記です。このチャンネルはウソの「実話」をでっち上げてアニメにしています。詳しくはこちらの記事をごらんください。
英語版チャンネルのActually Happenedには、そっくりな内容の『私は12歳で妊娠した』、『私は15歳で妊娠した』、『私は16歳で妊娠した』という動画が投稿されていました。本数を増やすためです。
このようなずさんな動画製作を批判され、現在では私たちの実録日記とActually Happenedは動画を削除し、チャンネルには一つも動画がなくなっています。
では、なぜTheSoul Publishingは質の低い動画を量産しているのでしょうか?
収益は?
もちろんそれは収益のためです。収益目的で質の低い動画を量産する人や企業をコンテンツファームと言います。
収益はどれほどでしょう? Logically Answered(登録者数4.81万人)が動画で推定しています(2020年6月時点)。
CPM(1000再生あたりの広告収入)は$2(約200円)程度と推定されています。もっとCPMが高いチャンネルもありますが、TheSoul Publishingの動画は質が低いので、CPMも低めです。
TheSoul Publishingのチャンネルの登録者数と動画視聴回数を調べると、動画視聴回数はチャンネルの登録者数の300倍程度になっています。これは普通のYouTubeチャンネルに比べるとかなり高く、動画がよく視聴されている割に登録者数が伸びていないことになります。
これを使ってチャンネル登録者数から動画視聴回数を推定し、広告収入を求めると、年間$25M(約25億円)の収入となります。もちろん動画制作費などがかかるのですべてが利益ではありませんが、莫大な額です1。
今後どうなるのか
動画ではTheSoul Publishingの動画の再生回数は低落傾向にあると紹介されています。5-Minute Craftsの場合、視聴回数のピークは2018年9月で、8.6億回でしたが、2021年1月には1.7億回まで落ち込んでいます(しかし日本語版の5分でできるDIYではこのようなはっきりした傾向はない)。
その理由はクリックベイトが効きにくくなったことです。クリックベイトとは釣りサムネや釣りタイトルで視聴者を引き寄せる(が観たあとで視聴者はがっかりして腹を立てる)動画のことです。これについてもLogically Answeredは動画にしています。
一時期はYouTubeのおすすめページはこの手の質の低い動画であふれていましたが、2019年ごろをピークに、この手のチャンネルは再生回数を減らしています。これはYouTubeが様々な指標を使って質の低いチャンネルがおすすめに入りにくくする改良をしたためだと動画では述べられています。
おそらく、クリック率(動画再生率)が高いチャンネルではなく、視聴者が長い時間、動画を見続けるチャンネルを優先するようになったのでしょう。
TheSoul Publishingの商売は難しくなったようです。事実、2020年6月にLogically Answeredの動画が作られたときにはTheSoul Publishingは月間2700個以上の動画を作っているとウェブサイトで謳っていましたが、現在のウェブサイトでは500個以上と書き換えられています。活動が低調になったようです。
TheSoul Publishingの商売は難しくなったようですが、質の低いコンテンツを量産する商売が全部ダメになったわけではありません2。
というのも、こちらの記事には2019年11月にTheSoul PublishingはYouTubeとFacebook上でディズニーとワーナーに次ぎ3番目に視聴回数を稼いだメディア会社だったとあるのですが、こちらのサイトによれば2020年12月にはもっとも視聴回数を稼いだ会社になっています。つまり、TheSoul Publishingの人気は全体としては衰えていないのです。事実、上に述べたように、日本語版は英語版と違って減少傾向にないようです。
YouTubeや視聴者とコンテンツファームの戦いは今後も続いていくものと思われます。
【2021年5月9日追記】2021年になってTheSoul Publishingは日本で出演者を募集していたようです(リンク)。2019年にはキプロスで出演者を募集していました。日本での攻勢はまだ続くかもしれません。