世の中信用できない情報が多すぎて困ります。楽園のように描かれている世界が実は生き地獄かもしれないし、賢そうに見える人はみんなアホなのかもしれません。
今回は、観ていて気分が悪くなったNetflixのドラマ『エミリー、パリへ行く』のネタバレ記事です。モラル崩壊の乱交恋愛、オシャレをはき違えたダサい衣装、主人公エミリーはサイコパスなのかについて考えたいと思います。
このドラマシリーズは「かわいい20代女子が憧れのパリで奮闘するサクセス・ストーリー」のように宣伝されていますが、内実はギャング映画もびっくりの裏切りの連続、殺伐とした人間関係、登場人物たちはムラムラ性欲の塊(前頭葉の機能低下を疑う)、美意識が乏しい世界が濃縮されています。
衣装が醜い
ファッションセンスはどのようにして磨かれるのでしょうか。美しい色彩を見たり、美術作品を鑑賞したり、仕立ての良い服に実際に袖を通してみたりすると磨かれそうです。
エミリーは残念ながら、センスを磨く努力はしていないようです。パリに観光気分で上陸して、観光客丸出しのちぐはぐなコーディネートを職場で披露しています。
何をしたいのか、やる気がないのか、やる気がありすぎるのか、自分をオシャレだと勘違いしている悪趣味な人はいただけません。$65の鞄に、アリス・アンド・オリビアのブラウスにパイソン柄のスカートを合わせる……
『セックス・アンド・ザ・シティ』や『プラダを着た悪魔』の衣装で知られるパトリシア・フィールドがコスチュームデザインを監修したようですが、感覚が鈍ってしまったのでしょうか? どうもここには制作者の意図があるようです。
こちらの動画でプロデューサーのダレン・スター(Darren Star)は「アメリカ中西部から来たエミリーは大胆なコーディネートを楽しんでいるのさ。うまくいくときも、失敗するときもある。」と話しています。
エミリーは独自のスタイルがあるけれど、オシャレというわけではない設定なんですね。回が進むごとに少し落ち着いた気がするのはそのせいでしょうか。
(2020年12月20日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
同様の指摘をしている投稿です。
『エミリー、パリへ行く』は駄作じゃないよ。意図の通りに制作されている。洋服がダサいのはキャラクターに合わせているから。衣装担当は、主人公がフランス語を習得するのと同じように回が進むごとに衣装もマシにしていくはず。
(2022年1月10日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
モラルはどこへ 誰とでもヤる
誠実な関係を築くためには時間と労力を伴うものですが、主人公エミリーは完全に放棄しています。たいていドラマを見ると、主人公に共感する要素があるものですが、エミリーの行動を見ていると怒りしか湧いてきません。口角をぎゅっと上げた笑い方をしながら、無神経な発言をするエミリーは「性格に欠陥があるのではないか」と思わずにはいられません。リリー・コリンズの演技のせいか、エミリーから人間的な奥行きは感じられません1。
恋愛事情も共感する要素がありません。階下の住人ガブリエルに彼女がいると知りながらヤッてしまうエミリー。エミリーにも交際中の男性がいたような気がしますが、二重で浮気しています。
ドラマの登場人物に色魔しかいないのはなぜでしょう(前頭葉の機能低下を疑う)。こちらの記事にもフランス人批評家は辛辣なレビューをしていると紹介されています。
【エミリーのネタバレ注意】このドラマは浮気を正当化してるからよくないと思う。カミーユがかわいそう(しかもカミーユが唯一オシャレ)。エミリーとガブリエルはクズ。
*emily in paris spoiler*
they are romanticizing cheating and it is not ok, camille deserves better (plus she is the only stylish one) emily and gabriel are trash— ? (@devilwearsYSL_) October 3, 2020
アメリカ人もフランス人もそれぞれのステレオタイプを助長する描写ばかりで疲れます。午前8時に出勤しても同僚はいないとか、エミリーの上司がエミリーを「田舎者」とフランス語でなじるとか。性格の悪さを誇張しすぎでしょう。
こちらはパリ在住の2人(滞仏8年のアメリカ人と19年のイギリス人)のリアクションです。
確かにステレオタイプどおりなところはあるようです。「フランス人はフランス語を話さない人にはキツイ、上司や同僚の意地悪さはあるある」と話しています。それにしてもステレオタイプがひどい。
高級下着を職場で贈られるシーンは、驚きです。送り主は、エミリーの上司の愛人男性……2。まともな人はいないのでしょうか。
もっとセンスのいいフランスのドラマを観たい方は、同じくNetflixで配信されている“Dix pour cent”(『エージェント物語』)をごらんください。危機に陥ったタレント事務所のドラマで、シーズン4まであります。どの回も複数のプロットが同時に展開し、魅力的な登場人物の性格も緻密に描かれ、飽きさせません。本国でも評価が高いようです。登場人物のファッションもシックで現実的です。
フィリッピーヌ・ルロワ=ボリューは『エージェント物語』にも出演していますが、『エミリー、パリへ行く』のような平面的なキャラクターではなく、情緒的に深みがある良い演技をしています。
アメリカ人が見たパリ
フランス語を話せないのに、パリの仕事を受けたエミリーの度胸に恐れ入ります。ごんぶと眉毛で「アメリカ的視点をフランス人に伝授すべく参りました!」と話すエミリーに戦慄しました。
パリの観光スポットが随所に出てくるので、旅行推奨CMのようです。パンデミックが発生してしまったので、数年間旅行は楽しめそうにありませんが。
そして私のファッションは
(2024年4月14日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
どうやら『エミリー、パリへ行く』は、垢抜けないエミリーがパリへ行っていろいろと解放するドラマなのですね。シーズン2が公開されたとしても、たぶん見ません。
こちらの動画でも、エミリーのキャラクターに共感する要素がない(エミリーにセンスはないのに高級ブランドを着用する謎)、多様性を重んじるご時世に相手役の男性はすべて白人なのはなぜ?、フランス人がアメリカにやってきて「フランス式はこうです!」と職場でわめいたらどうなると思う?、ヴィクター・アンド・ロルフ2019SSコレクションの廉価版が出てきてびっくり、などを指摘しています。
おまけ
こちらの記事で、パリ在住YouTuberが避けた方がよい装いを紹介しています。観光客がしがちな失敗をエミリーもしています。
【2020年10月13日】本文を加筆しました。
Image: South African Geek, Netflix’s ‘Emily In Paris’ Is Riddled With Clichés But So Easily Binged