チアリーダーはアメリカのハイスクールドラマに必ず出てきます。あるときは主人公、あるときは憎たらしい敵役、あるときは可憐な恋人……。でも、チアリーダーって何をするんでしょう? ミニスカートでボンボンを振って踊るだけ? いいえ、違います。熱血で、スポ根で、チーム愛なのです。
田舎町の短大、でもコーチも部員も超一流、団結してさらなる高みを目指し猛特訓を続ける、そんなチアリーディング部の胸に迫るドキュメンタリーが『チアの女王』(原題:Cheer)です。
今回はこのNetflixで配信中のドキュメンタリーを紹介します。競技チアリーディングを知らない、興味がない人にこそ是非観てほしいオススメ作品です。観れば登場人物の誰もが好きになる、感動の涙が止まらない全6話のドラマです。
『チアの女王/Cheer』
舞台はコーシカナ、テキサス州のナバロ短期大学(Navarro College)。時は2019年、デイトナビーチで毎年4月に行われる全米チアリーディング協会の大会1にが近づいてきたころ。困難を乗り越え奮闘する学生たちと、恐いけど底知れぬ愛情で見守るコーチの人間模様がこのドキュメンタリーの主題です。
この作品を見始めてまず驚かされるのがチアリーディングのパフォーマンスのレベルの高さです。フライヤーと呼ばれるメンバーが宙を飛び、数メートルの高さで宙返りします。
派手なパフォーマンスは危険と隣り合わせです。作中でチアリーディングはケガの多い競技だと語られます。脳しんとう・脱臼・骨折・むち打ち・筋肉痛は日常茶飯事です。登場人物の多くもケガに苦しみますが、それでも歯を食いしばって競技に向き合います。
それはコーチのモニカを信じているからです。
(2024年1月27日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
コーチはモニカ・アルダマ。ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取り、都会でキャリアを追求していましたが、地元に帰ってコーチになり、一気にナバロ短期大学をチアの名門校にしました。
彼女のもとでチアをしたいと全米から学生が集まり、彼女も学生を我が子のように導きます。時に厳しく、時に限りなく優しく。家庭に問題を抱える学生や、過去の陰におびえる学生を、彼女は片時も離れることなく、見守ります。彼女は学生たちを「子どもたち(kids)」と呼んでいます。
練習は過酷を極めます。泣きながら練習に復帰したメンバーに別のメンバーが「空気が悪くなるから泣くな! 床に落下しそうになっても悲鳴を上げるな!」と怒鳴りますが、それでも結束は崩れません。学生たちがモニカに絶大な信頼を寄せているからです。
登場人物を紹介
モニカ・アルダマ(Monica Aldama)とアシスタントたち
モニカ・アルダマは鬼コーチ。あたたかく人情家の南部の女。賢く、優しく、弱音は絶対に吐かない。保守的だと自負するが、どのような背景を持つ学生にも差別なく掛け値なしの愛情を注ぎ家族として扱う。優れたチームには優秀な指導者がいるのだと納得させられる人物。
※ネタバレを含むのでスワイプはしないでください。
左からアンディ、モニカ、カペナ。アンディ(Andy Cosferent)はモニカの右腕。カペナ(Kāpena Kea)は学生の成績もしっかり管理するアシスタントコーチ。チアリーディングを通して得た教訓や強さは人生を生きていく糧になると話す。苦手な人とも滞りなく協調する能力を鍛えられるのは、チアリーディング競技ならでは。
ラダリウス・マーシャル(La’Darius Marshall)
負けず嫌いで気性が荒いスタンター(トップを支えたり投げたりする役)兼タンブラー(マット上でのパフォーマンスする役)のラダリウス。心の傷を抱えている。自分の役割には責任を持つが、他人の失敗には冷酷なところもあった。シリーズを通して人間的にも大きく成長した。ルームメイトのジェリーのポジティブさや思いやりを尊敬している。
(2021年1月3日:削除されたInstagram投稿をキャプチャ画像で置き換えました。)
ジェリー・ハリス(Jerry Harris)
いつも明るいムードメーカーのジェリー。明るい笑い声で周囲を和ませる能力がある。
(2020年9月19日:削除されたInstagram投稿をキャプチャ画像で置き換えました。)
アシュリー・サワイ(Ashlee Sawai)
フライヤーのアシュリー。ケガに苦しめられつつも頑張る。
(2024年11月10日:削除されたInstagram投稿をキャプチャ画像で置き換えました。)
モーガン・シミアナー(Morgan Simianer)
トップフライヤー兼タンブラーのモーガン。コーチのモニカが大好き。モニカの期待に応えるために何でもこなす頑張り屋さん。度胸はモニカも認めるほど。
レクシー・ブラムバック(Lexi Brumback)
問題児マスタータンブラーのレクシー。才能があるが、その価値や使い道をいまいち分かっていない。ひょうひょうと練習をこなすが、過去の問題がよみがえり苦しむことも。
ガビ・バトラー(Gabi Butler)
とにかく美人のガビ。競技チアリーディング界ではもとから人気スターだったが、Netflixの配信が開始するとInstagramのフォロワー数は120万人まで爆増! 過保護で口うるさい両親がいるが……。
そのほかのチームメイトたち
デイトナでパフォーマンスをするメンバーに選ばれなかった学生、メンバーに選ばれるも事故で離脱せざるを得なくなる学生、一度は選ばれるもついに外される学生、選ばれなかったけれど補欠として努力を続ける学生……。作中では彼らの姿も丁寧に描かれています。かかわるすべての人々が「家族」です。
大反響と絶賛の嵐
2020年1月8日から作品が配信されると、チームは注目の的になりました。多くの視聴者が競技の過酷さもまざまざと見せつけられる緊張感がある内容に心を揺さぶられたのです。学生とコーチ陣の語る人生が、深刻な社会問題や家庭問題、非行問題に切り込む内容だったことも話題を呼びました。
『エレンの部屋』でモニカ、ジェリー、ガビ、ラダリウスがトークしています。
(2020年9月19日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)
反響が大きかったおかげでチャンスの扉が開き会ったことのない人にも会うことができたと彼らは語っています。
メンバーみんながお気に入りのリアリティ番組“Bad Girls Club”2のキャストからSNSでいいねをもらえたのがうれしかったと発言しています。
チームでパフォーマンスを披露しています。
(2020年9月19日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)
ケンダル・ジェンナーはモーガンが大好きだと話していました。
2分30秒のパフォーマンスが終わっても人生は続く
このドキュメンタリーの中の時間は「デイトナまであと何日」です。この字幕が出るたびに、コーチ陣や学生たちと同じように焦り、時間が限られたものであることを痛感させられます。最終話を観るのが怖くて、もったいなく感じられます。
作中で語られているとおり、チアは永遠に続けられる競技ではありません。プロの道はなく、チアリーダーとしてのキャリアは卒業とともに終わります。たった2分30秒の競技のために青春を燃やし尽くし情熱を傾ける人々のひたむきな姿に惜しみない拍手と賛辞を送らずにいられません。
【2020年9月19日追記】ジェリーが逮捕されたと報道されています。これに伴い、本記事に埋め込んだSNS投稿も複数消されました。