ショッキングな映像がSNSを駆け巡りました。まずはその映像をご覧下さい。
論争を起こした映像
こちらは『MAGAの帽子を被った若者たちに侮辱されたネイティブアメリカン』として拡散した投稿のひとつです。
映っている若者たちはケンタッキー州にあるカトリックの学校の高校生です。いのちの行進(中絶反対派の集会)に参加するための修学旅行でワシントンD.C.に来ていました。
MAGA帽子(Make America Great Again「アメリカを再び偉大な国に」はドナルド・トランプが掲げているスローガン)を被った無礼な若者たちがネイティブアメリカン男性を嘲笑したと大々的に報じます。トランプ大統領は移民や先住民に対して敵対的な政策をしています。中絶反対派はトランプ大統領の支持基盤のひとつでもあります。
その象徴であるMAGA帽子を被っている白人高校生とネイティブアメリカン(ネイティブアメリカンの男性は退役軍人と報道されていました)の対立が衝撃的だったのです。高校生たちは「壁を作れ!」と大声を張り上げていたとネイティブアメリカンの男性はCNNのインタビューで話します。
動画はさまざまなSNSで拡散され論争を起こしました。
生徒に対する厳しい反応
この報道を受けてこんな投稿が……。
質問。コイツのほど殴りたくなる顔を見たことあるか?
絵になっています。TシャツにはBuild that wallの文字が。
さらに公民権運動と比較する投稿も。これは過去に黒人差別への反対運動を白人たちがあざけったのになぞらえています。
(2024年4月27日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
女性に対する性的暴行の疑いがあった最高裁判事ブレット・カバノーと高校生の顔を並べるものまで。
過去24時間の会話のテーマ:こんなに似ているものか。この外見は白人の父権社会を象徴している。見慣れた、このありきたりな外見に人々の直感が働く。そんなに良いものではない。これがアメリカの日常。
(2020年8月2日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
しかし反論も
このツイートの動画ではネイティブアメリカンの男性が声を荒げて話しています。
フェイクニュースが報道しない映像。高校生が人種的な口撃を受けている様子。
「白人はヨーロッパに帰れ。お前らの土地じゃない。」
これメディアの主旨とは異なるから報道されないだろう……。
The footage the Fake News Media won’t show you.
The Covington Catholic Kids having racial slurs flung at them.
“You white people go back to Europe, this is not your land.”
Doesn’t fit with the media’s narrative so probably won’t be covered…
pic.twitter.com/cSbaXRJp2K— The Columbia Bugle ?? (@ColumbiaBugle) January 20, 2019
新たな角度で報道
相次ぐ批判の中、違う角度から報道されるニュースも出てきました。
批判を受けて生徒たちの学校が発表した声明を大手メディアABCは報じています。
学校関係者:生徒の行いは尊厳と敬意を尊ぶ教会の教えに反しています。調査をし退学も視野に入れ厳正に対処します。
さらに動画では生徒の保護者も声明を出します。こちらは生徒を擁護しています。
先住民族の行進をしていた男性は男子生徒の集団の中の1人の生徒に歩み寄りました。生徒は何も言わず、立っていただけです。徐々に太鼓を叩いていた男性は近づき……数分間太鼓を叩いて去りました。
それぞれの声明から生徒に対する扱いが異なるのがわかります。
ここで政治コメンテーターをしているYouTuber Matt Christiansen(マット)は怒りがおさまらない様子のキャシー・グリフィンにこんなツイートをします。
キャシー・グリフィン:学校の謝罪は意味が無く哀れ。名前を教えなさい。あの子たちの名前を知りたい。恥を知れ。そのうち晒されるから待ってな。
マット:頭おかしい。
Psychopathic. https://t.co/vlKSrUM507
— Matt Christiansen (@MLChristiansen) January 20, 2019
その後、当初の報道には入っていなかった無編集の動画が投稿され全貌が分かってきました。
リンカーン記念堂付近では連日さまざまなデモや声かけをしている集団がいます。その中にBlack Hebrew Israelites(ブラック・ジュー)の数人がいました。彼らは攻撃的な演説をするので周りに人だかりができます。バスを待っていた高校生の集団も近くにいました。Black Hebrew IsraelitesはMAGA帽子を被った生徒たちに「近親相姦で産まれた奴らめ。そのみっともない帽子をとりやがれ。学校で銃乱射する奴らめ。」などと煽り始めます。
煽られた生徒たちは、学校の応援歌(トマホーク・チョップ)を歌って対抗しようとします。不穏な雰囲気になってきたところに現れたのが「先住民族の行進」で歩いてきたネイティブアメリカンの男性ネイサンでした。ネイサンは高校生の集団に迷うことなく歩みを進めているのが映っています。
編集されていますが、こちらの動画で流れが分かります。
Black Hebrew Israelites側の動画です。(1時間46分)
報道を冷静に見ると
こちらは続報が出た後に投稿された動画です。
(2023年5月7日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)
当初報道されていた「高校生たちがネイティブアメリカンの男性に暴言を吐いた」映像を探したが見つからなかったそうです。今回の件に関しては「フェイクニュース」だったと結論付けています。
こちらはコメディアンのジョー・ローガンのPodcastに記者のバリ・ウェイスが出演した動画です。
(2020年12月6日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)
バリはこうコメントしています。「編集された映像だけ見て意見を持つのはロールシャッハ・テストを受けているようなものだ。ツイッターで有名人が(一般人の)高校生の身元を公開して晒し攻撃するのは間違っている。映像に映っていた生徒の中には身元を晒され、家族まで攻撃を受けている子もいる。」
「生徒がMAGA帽子を被っていたから報道が過熱した側面もありそうだ。16歳はまだ子どもだ。」とジョーは話しています。
生徒はケンタッキー州から来ていた
修学旅行中に起こった騒動なので引率者の責任を問う声も上がっています。都会では抗議活動はよくある光景です。そういった団体と不必要な接触は避けるように注意はしなかったのでしょうか。
全米を巻き込んで論争が起こっているこの件。Black Israelitesが火付け役ってのが信じられないな。東海岸の都市圏に住んでるとこんな輩無視して生活するもんだよ。
ケンタッキー州の小さい街出身だけど、20年前修学旅行でワシントンD.Cを訪れたときは抗議活動をしている人たちと関わっちゃいけないって言われたよ。学校と引率者の無責任さには唖然とする。
I’m from a tiny central Kentucky town and twenty years ago when I went to DC on a school trip we were told do not engage or speak to anyone you see protesting on the street. The amount of incompetence from the school and chaperones is mind boggling
— Aly (@alisia8228) January 22, 2019
高校生がインタビューに
ネイティブアメリカンの男性に差別的な態度をとったように報道されていた生徒がインタビューに応じています。
何か謝罪したいことはあるか?という問いに「僕は立っていただけです。フィリップさんを侮辱する意図はありません。また会ってお話ししたい。あの場を去っていたらこんな大事にはならなかったのに、と今は思います。」と答えています。
紹介した動画はどれも低評価が多くなっています。それだけこの出来事が人々の神経を逆なでし感情を揺さぶっているのでしょう。
これは差別的な出来事だったのでしょうか? ネイサンの行動も生徒たちの反応も偶然の産物のように見えますが、事件性があるかのように報道されたため批判が起こりました。撮影された動画がすべて公開された後も人々の意見は平行線を辿り続けています。この出来事に事件性がなかったとしても、人々の話題をさらったことこそがアメリカの分断を印象づける「事件」だったように思います。
参考:Video shows what happened before standoff between student and Indigenous protester
【2020年1月23日】削除されたツイートを画像で置き換えました。