エドワード・バーネイズは現代の広告・PR手法の創始者。彼が伯父フロイトの理論に基づいて作った大衆を操作する手法を例を挙げて紹介。
今回はPR・プロパガンダを生み出したエドワード・バーネイズ(Edward Bernays)のお話です。
YouTuberのテイファニー・ファーガソン(Tiffany Ferguson)が面白く取り上げています。テイファニーはメディア研究をしている学生です。大学の講義で『自己の世紀』の動画を観て、議論が白熱したのでYouTube動画のテーマにしたと話しています。
以下はこちらの動画の内容に即しています。
エドワード・バーネイズ
オーストリア系アメリカ人のエドワード・バーネイズは裕福な家庭に生まれ、コーネル大学に進学しジャーナリズムの道へ進みました。
1910年代、バーネイズは広報委員会に雇用されプロパガンダに尽力しました。広報委員会の目的は、アメリカ世論と諸外国へ第一次世界大戦への参加を肯定するように仕向けることでした。参戦すればヨーロッパに民主主義を広げられると宣伝して大衆を扇動したのです。意外なまでにこのプロパガンダは功を奏します。パリを訪れたエドワードはプロパガンダの影響力をじかに観察しました。
バーネイズの発言です。
When I came back to the United States, I decided that if you could use propaganda for war, you could certainly use it for peace. And “propaganda” got to be a bad word because of the Germans using it, so what I did was to try and find some other words. So we found the words “counsel on public relations”.
米国に戻り、プロパガンダは戦争に利用できるものともなり、平和をもたらすものにもなり得ると確信した。ドイツ人が使用していたせいで「プロパガンダ」にはよくない響きがある。そこで「広報活動(public relations: PR)の顧問」と別の用語を用いることにした。
以降、プロパガンダではなくPRという言葉を浸透させました。
バーネイズは精神分析学者のジークムント・フロイトの甥です(フロイトの妹アンナと妻マルタ・ベルナイスの弟エドワードの息子)。
バーネイズは戦後、参戦を呼びかけるプロパガンダから商品のPRへと仕事を変えます。バーネイズは叔父の精神分析学、当時注目を集めていた群衆心理とバーネイズのプロパガンダの専門知識を生かせば、大衆に商品を売り込むことができると気づきました。
女性にタバコ
1920年代以前の広告は商品の機能と必要性を強調するものでした。料理に必要なケチャップ、移動のための自動車、実用性のある丈夫な靴、など。商品をイメージで売ること、個性の表現のために商品がほしいと思わせることはされていませんでした。
浪費は上流階級のたしなみで庶民とは無縁のものでした。
そのような大衆に必要でないものをどうにかして商品を買わせる方法はないか? バーネイズはこの市場を開拓する必要があると考えました。
私たちはアメリカを必要性の文化から欲望の文化へ切り替えねばならない。たとえすでに所有しているものを完全に使い切らなかったとしても、大衆が新しいものを欲するように調教せねばならない。
欲望で必要かどうかの判断を鈍らせるのだ。
その代表例が女性にタバコを吸わせることでした。当時、女性がタバコを吸うのは社会的タブーとされていました。潜在的な顧客を獲得できていないことに不満だったタバコ会社はバーネイズに助言を請います。バーネイズは精神科医のアブラハム・ブリル氏を訪ねます。ブリル氏はこう述べました。
タバコは男性器の象徴であり性欲の象徴である……女性もタバコを吸うことで男性器を所有することになるのだ。
Cigarettes were a symbol of the penis and of male sexual power…Women would smoke because it was then that they’d have their own penises.
「自由のたいまつ」と名付けられたこのプロパガンダによって、タバコを吸うことは女性が自立し男性と同等に扱われる象徴だ、と流布しました。バーネイズは女性たちを雇い、1929年のイースター・パレードに参加させタバコを吸わせました。女性たちが次々にタバコに火を付ける姿は抑圧から解放された象徴となりました。これ以降、女性にとってたばこはタブーではなくなり、女性の喫煙率が上昇します。
バーネイズの手法は食品業界でも使われています。朝食の定番(?)のベーコンと卵ですが、この習慣もバーネイズが広めたものです。バーネイズの広告以前のアメリカの朝食はもっと質素で、オートミールなどでした。
バーネイズは、オートミールよりも高カロリーな朝食を食べるのが健康に良いと宣伝しました。そのために彼は医師にアンケートを採り、その結果を新聞の記事にさせたのです。この結果、ベーコンと卵の朝食が広まりました。
パンケーキ粉も同様の改革が行われました。従来のパンケーキ粉には水を加えれば完成しました。しかし、消費者(主婦)は「手軽すぎるため」パンケーキ粉の使用に罪悪感を抱いたそうです。
そこで、女性性の象徴である卵を加える粉に改良した結果、売行きは伸びました。卵を加える手間をあえて強いることで、消費者の満足度を刺激したのです。いかにもフロイトらしい手法だとティファニーは動画で話しています。
バーネイズは今では言及されることが少なくなった人物ですが、彼は現代社会に絶大な影響を残しています。たとえば、広告と宣伝はますます必要性から欲望にシフトしています。インフルエンサーがSNSで宣伝するのは、商品の必要性や有用性ではなく、「すてきな私と同じようにあなたもこれを手にして!」というメッセージです。
YouTuberがマーチを出すのも、商品が売れるかどうかが、ますます消費者に訴えかける力で決まるようになってきているからです。ティファニーの動画はBBC制作の番組『自己の世紀』(The Century of the Self Part 1)によっています。こちらも興味深い番組です。
参考:『自己の世紀』(The Century of the Self Part 1)
Image: Salma El Bourkadi, SatoriD2, melanated consciousnessdotcom, Tempus Archivum, SkyKel, American Aristocracy