ニューヨーク市地下鉄網には665マイル(およそ1070km)の軌道、472の駅、27の路線があります。さらに365日24時間営業です。毎日600万人が利用するといわれています。
しかし最近のニューヨーク市の地下鉄は運行時間はめちゃくちゃ、途中停車もしょっちゅう、ぼや騒ぎも起こります。
なぜ、このような惨状になってしまったのかという動画です。New York Timesから紹介します。
簡単な歴史から
ニューヨークの地下鉄が最悪だったのは1970年代といわれています。車両は落書き(グラフィティ)で覆われ、犯罪率は高く、機器の保守点検はおろそかでした。
しかし、当局は事態を改善するため資金を投入し見事改善します。80年代も段階的に改善していき、90年代には過去最高の状態にまでなります。
が、ルドルフ・ジュリアーニ1がニューヨーク市長に当選した後、市からの財政的支援は大幅にカットされます。彼が就任した任期1年目、メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティー(Metropolitan Transportation Authority、以下MTA)は何百万ドルも予算を削られてしまいます。
その間、地下鉄利用者は増加し運賃も上昇しますが、それでも削減された予算を補うには不十分でした。
それに目をつけた財界はMTAに取引を持ちかけます。
財界の申し出は
MTAのトップ、つまり当時のニューヨーク州知事ジョージ・パタキに「借金を私たちのところで借り換えなさい、後でわれわれに利息付きで返せばよろしい。」と話します。
パタキ知事は債務の借り換え取引に合意します。
実はこのウォールストリートの重役たちはパタキ知事の選挙中に献金をしていました。お返しとして8500万ドルの報酬と手数料を持っていきます。今もなお、MTAはこの借金を完済できていません。
そして2008年の世界金融危機が起こります。
車両整備係は解雇され、車両点検は頻繁に行われず、機器が壊れることも頻繁になります。
しかしそれでもMTAの保守点検に回されるべき予算が奪われていきます。
2017年夏、アンドリュー・クオモ知事2はMTAに財政難に陥ったスキーリゾートの救済を要請します。
他にもジャーナリストが、州に強制されてMTAの資金が外部に流れていないか調査したところ、債券発行手数料を利用されていたのがわかりました。
MTAは資金不足で稼動しており、予算の半分以上が債券を発行して借り入れたものです。債券を発行するたびに、州によって手数料を請求され(州が財源を削減したにも関わらず)MTAは州に債券発行手数料を払わなければなりません。
そして、過去15年間MTAは債券発行手数料として3億2,800万ドル以上を州に支払っています。つまり、お金を生み出せるMTAは打ち出の小槌の役割をし、市政の優先順位が高いものにお金が流れていたのです。
長期間あたためた計画
フルトンストリート駅建設はニューヨーク州議会下院議長(1994年–2015年)だったシェルドン・シルバーの長年の計画でした。ダウンタウン・マンハッタン版のグランドセントラル駅を造りたかったのです。
長い年月かけて建設し(当初予定した開業の日が近づいた頃)工事期間が大幅に超過していることからMTA理事会は規模を縮小する提案をします。理事会のメンバーの一人ナンシー・シェベル(ポール・マッカートニーの妻)は言います。
「ここに大聖堂を建てる訳にはいかない。」
しかし翌日、シェルドン下院議長は要求します。
「当初の計画通りに建設しろ。さもなければMTAの設備投資の計画に拒否権を行使するぞ。」
MTAは結局従いました。総工費15億ドルの駅ですが、新しい車両が導入されたわけでも、新しい線路が引かれたわけでもありません。
結局、政治家たちは選挙期間中、実績として上げられるようなわかりやすい功績を残したかっただけなのです。「あなた達のために建設しました。」だの「私からの贈り物です。」だの・・。
誰の目にも触れない老朽化した信号システムを新しく入れ替えても、仕方ないですからね。
忘れられた信号系統
駅周辺の建造物だけではなく、実は信号システムも大変古いままなのだそう。100年前と大差ない技術で運行状況を把握していたのです。
「電車が実際どこを走ってるか詳細には把握できていません。」
大まかな区間だけで把握しているそう。
「家電量販店に行って、1930年から使われてる電気部品の替えなんて見つかりませんから。」
新しい信号システムを導入できれば、電車はより正確に安全な車両間隔を保ちつつ走る事が可能になります。電気系統を新しく入れ替えることはここ20年の懸案事項でした。が、現段階ではたったの1路線分しか導入ができていません。
最悪な事態の発生
そうして、新しい信号システムの導入が進まない中、少しでも間違いがあると動かない状態に陥り、ハリケーン・サンディの襲来でますます深刻化します。
過去25年間NYの権力を握ってきた人々のせいで地下鉄はこんな惨憺たる状態になりました。
2017年クオモ知事は、相次いで起こる地下鉄事故をうけ非常事態を宣言します。
見えてきたトンネルの先の光
知事は今後メンテナンス強化に努めると発言しています。MTAと協力し、改善策を練ろうというのです。
これ以上、借金に頼るわけにはいかないと皆が思ったのでしょう。
2018年1月に動画は投稿されましたが、ニュースを見る限り相変わらず資金繰りに困っているようです。
2019年6月30日:表記を改めました。
Image:Metropolitan Transportation Authority, Roman Kruglov