政治インフルエンサーのチャーリー・カーク(Charlie Kirk)が講演中のユタバレー大学で銃撃された33時間後、犯人が出頭して逮捕されました。犯人はユタ州在住の白人で22歳タイラー・ロビンソン(Tyler Robinson)です。執筆時、犯人の動機は不明です。
しかし犯人が廃棄した薬莢には政治的に偏りがあることで知られる掲示板4chanの利用者や極右インフルエンサーのニック・フエンテス(Nick Fuentes)の支持者が好むネットミームが刻まれていたことから、犯人はグロイパー(Groyper)ではないかと推定されています。グロイパーはフエンテスの支持者を指します。
警察の発表
犯人は親族に促され、出頭してきたようです。FBIや警察のおかげだと言っている人もいますが、FBIも警察もたいした仕事をしていません。
Photos of the alleged Charlie Kirk assassin Tyler Robinson, age 22. pic.twitter.com/20HhrTRTtb
— Pop Crave (@PopCrave) September 12, 2025
記者会見でユタ州の知事は「事件が起こって以来、どうか犯人が我々と同じ者ではありませんようにと祈っていました。違う国から来た人であってほしい、なぜなら我々はこのような行為をしないからです。しかし、犯人は地元の人でした。」と堂々と差別的な発言をしています。
The Governor of Utah, Spencer Cox, just said, “For the last 33 hours, I had been praying that this person (who murdered Charlie Kirk) was from another country. That he was not one of us because we are not like that. But it was one of us.” pic.twitter.com/WhJqIHnz7v
— Shannon Watts (@shannonrwatts) September 12, 2025
「我々と同じ者」というのはモルモン教徒という意味もありそうです1。
この発言を受けて、後ろにいるFBI長官のキャッシュ・パテルは何を思っているのでしょうか。知事が言う「違う国から来た人」はパテルのような姿をしていそうですが。
極右青年のオピニオンリーダー抗争
銃撃事件の発生後、右翼政治インフルエンサーや共和党議員、MAGA支持者だけではなく、ブルーアノン(民主党支持の陰謀論者)までも犯人像についてさまざまな臆測を流していました。それぞれがそれぞれの立場が優位になるように都合良く事実を解釈し、デタラメを拡散していただけですが、一つの仮説は的を射ていました。それは、チャーリー・カークとニック・フエンテスが政治右翼のオピニオンリーダーの座をかけて戦争をしていたことです。
こちらの記者はその内容を投稿していました。
I’m not in any way speculating. But I’m actually shocked how few people know that Charlie Kirk has for years been among the most reviled people on the planet by white supremacists, many of whom were radicalized by sustained campaigns painting him as an anti-white fraud.
— Robert Downen (@RobertDownen_) September 10, 2025
実はフエンテスの支持者グロイパーたちは、イスラエル支持をするカークの立場を痛烈に批判していました。なぜならイスラエルを支援することは米国第一主義に反するからです。確かに、米国第一ならイスラエルに軍事支援をするのはおかしいでしょう。フエンテスは毎年America First Political Action Conferenceを主催しています。
2024年に投稿されたこちらの動画ではグロイパーズが公演中のカークに「米国第一! 米国第一!」と叫び嫌がらせをしています。この動きはグロイパー戦争と言われています。
The notion that groypers didn’t have beef with Charlie Kirk is just entirely ahistorical.
The “Groyper War” was a campaign launched exclusively to harass him. https://t.co/gIt5lsRqDT
— Micah Erfan (@micah_erfan) September 12, 2025
グロイパーズは「カークはイスラエルに金で買われた犬」だと言いたいようです。しかし、カークとフエンテスは白人至上主義、女性蔑視、移民排斥、反ムスリム、反LGBTQ、極右ナショナリストの点では同じです。
※以下の図はベン・シャピーロとニック・フエンテスですが、右翼思想のインフルエンサーはイスラエル寄りかロシア寄りか、純粋に米国のみを優先するかで分かれています。それ以外の点ではほぼ一致しています。
for those unclear about the difference between nick fuentes and ben shapiro pic.twitter.com/N5pfyKIbm6
— ☀️👀 (@zei_squirrel) December 15, 2020
グロイパーズの痕跡
警察の記者会見では薬莢に書かれていた犯人のメッセージに注目が集まりました。「おいファシスト!↑ → ↓↓↓」や「ベラ・チャオ ベラ・チャオ ベラ チャオ チャオ チャオ」「Notices, bulges, OwO what’s this?」「これ読むヤツはゲイなw」などです。
どれも意味不明です。当初一部のメディアはトランスジェンダーに関するメッセージが含まれていると報じましたが、これは間違いだったようです。
「↑ → ↓↓↓」はゲーム『Helldivers 2』で敵に爆弾を投下する際のストラテジムコード、ベラ・チャオ(『さらば恋人よ』)はイタリアの反ファシストの歌です。「おいファシスト」とあるので、チャーリー・カークをファシストと批判する左派の仕業のように一見、思われます。
ところがそうではない、ということがわかっています。『さらば恋人よ』をグロイパーズは反チャーリー・カークの歌として使用しており、グロイパーズ戦争の楽曲リストにも入っています。

Notices Bulge, OwO What’s This
さらに「Notices, bulges, OwO what’s this?」は2015年頃に発生したファーリーをいじるミームです。
「ファシスト」については、トランプ大統領が民主党を「ファシスト」とよんだこともあり、単なる悪口になっているようです。
警察の記者会見で「Notices, bulges, OwO what’s this?」を知った両親が娘に「パパとママはこれがどんな内容か気になっています。あなたなら知っていると思って。教えてください」と聞いてきた、と投稿する人がいます。
I love my parents https://t.co/J4DcFD71gx pic.twitter.com/5ajWSQosdL
— Aspen goes birding🌳 (@birdmoder) September 12, 2025
若者世代のミームの意味がわからないので困っている人々が多いのでしょう。おそらく、警察も同じです。
ここまでの内容はインターネット・トゥディで紹介されています。
事件が指し示すもの
ほとんど意味を成さないネット上の表現を犯人は残しています。これらのメッセージそのものには深掘りするほど内容はありません。
しかし、世間の多くの人々が全く知らない、ネット上の仲間内だけで通用するミームを薬莢に書き込むのは、ミームカルチャーの最たるものです。仲間内でウケるなら何でもいい、という行動です。
こちらのTwitterスレッドでは現代の若者(特に男性)によく見られるblackpill mindsetについて解説しています。レッドピルのさらに先がブラックピルです2。
彼らには「何がなんでも金持ち・有名にならねばならない」焦りがあります。この不安を隠すために使うのが皮肉とミームです。薬莢のミームの対象読者は世間ではなくオンラインの仲間です。目標は大ニュースになることではなく、自分のいる小さなフォーラムで喝采を浴びることです。彼らに将来の希望はなく、政治的イデオロギーというほどのものもありません。SNSによって彼らはネットの方がリアルよりもリアルだと思うようになっています。成功者になれないなら悪名でもいいから有名になろうとして走るのは、以前なら学校での銃乱射でした。しかし銃連射事件もあまりにもありふれたものになってきたので、代わりに彼らが目指すようになったのが暗殺です。しかも世間の一般人にはわからないようなメッセージでトロールできればもっといい、というわけです。
この見立てが正しければ、政治的暗殺は今後も続く可能性があります。右派は当初犯人は左派だろう、戦争だ!と叫んでいましたが、犯人が右派らしいという情報が出てきて、なんとか左派やトランスジェンダーを犯人にしようとしています。
トランプ大統領は、容疑者が出頭する前はビデオメッセージを出し、チャーリー・カークに大統領自由勲章を与える、と発表していました。しかし、容疑者が判明すると態度を一変させています。
こちらの動画で大統領は、チャーリー・カークを失って、今日はいかがお過ごしですか、と聞かれて「いいね。ところで、あそこのトラックを見なよ。ホワイトハウスの新しいダンスホールを作ってるところだ。」と答えています。
🚨BREAKING: Trump answers “how he’s holding up” after losing his friend Charlie Kirk:
TRUMP: “I think very good. By the way, right there you see all the trucks. They just started construction of the new ballroom for the WH”
Zero heart. Zero sympathy.
— CALL TO ACTIVISM (@CalltoActivism) September 12, 2025
チャーリー・カークを殺したのが左派だったら政権にとって都合がよかったのでしょうが、そうではないので忘れることにしたようです。確かに、自分の支持基盤の中で少しだけ過激な一派が犯人だとすれば、厳しい対策はとれないでしょう。そうだとすれば、グロイパースは今後も野放しになり、同様の犯行に及ぶ可能性があります。
カークは生前、「死刑は速やかに、テレビ放送でされるべきだ。見たら一日いい気分になるだろう。」と発言していました。
このような発言をする人物があたかも立派な人物だったかのように扱われ、意味のある反省と対策がされないなら、カークより少しだけ過激な人物が、自分の手で「死刑」を執行することは続くでしょう。ターゲットが自分たちより少しだけ「穏健」な立場の政権に近い人物になることもありそうな話です。右派の中の派閥抗争です。
暗い時代です。