テイラー・スウィフトが黒魔術でスーパーボウルの勝者を決めたとトランプ支持者が主張 バイデン大統領は勝ち誇る

社会・政治

米国では一年で一番のスポーツイベント、スーパーボウルが2024年2月11日に開催され、カンザスシティ・チーフスが勝利しました。

チーフスの勝利を受けて、今年11月の選挙で再選を目指すバイデン大統領は、こんなツイートをしています。

一体、何事なのでしょうか? この一見、大統領らしからぬツイートは、2024年の選挙の帰趨を決するかもしれません。ツイートの背景を紹介します。

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テイラー・スウィフトにまつわる陰謀論

話は1月下旬に遡ります。チーフスは1月28日にAFCチャンピオンシップで勝利し、スーパーボウルへの出場を決めます。すると、一部のトランプ支持者の間ではこれは人気歌手テイラー・スウィフトの黒魔術によるものだという声が上がりました。こちらの記事を下敷きにして紹介します1

寝言は寝て言え。これだけでは何のことやらわかりませんが、この発言には背景があります。

テイラーは昨年から、チーフスの花形選手であるトラビス・ケルシーと付き合っています。また、テイラーのファンたち(スウィフティーズ)はテイラーには不思議な力があって、テイラーに仇なす者は滅びると(半分冗談で)ウワサし、これをテイブードゥーと呼んでいます。「テイラーの黒魔術!」と叫ぶ人たちは、テイブードゥーで若い世代に影響も与えれば、試合結果もねじ曲げるし、選挙も動かす、と言いたいようです。

テイラー・スウィフト現象は全部、心理作戦で情報工作だ、という意見もあります。

テイラーに対する強い警戒感と恐怖があるようです。

トランプ支持者がテイラーを警戒しているのには陰謀論にとどまらない理由があります。テイラーがこれまでもしばしば若者に選挙に行くように呼びかけ、それに加えて2020年の大統領選挙ではバイデン支持を表明したからです。テイラーが若い世代をバイデン支持に傾かせることを警戒しているのです2

これをもっと明確に言っているツイートもあります。

トランプ支持者が政治的な主流派や、主流派のメディアを嫌っているのは有名ですが、どうやら米国最大のスポーツイベントも嫌いなようです3

なお、このツイートではトラビスは「ミスター・ファイザー」と呼ばれていますが、これはファイザーのコロナワクチンのCMに出演していたからです。よく知られている通り、共和党支持者・トランプ支持者は反ワクチン派が少なくありません。また、トラビスは2023年にトランスジェンダー女性を広告に起用して保守派から批判を浴びたBud Lightの広告に出演しており、これも保守派にとっては面白くない要素です。

なお、テイラーはハーフタイムショーにはもちろん出演せず、客席で楽しんでいたようです。このツイートの予想は外れたわけで、八百長疑惑も怪しそうです。

ここまでがスーパーボウル以前の出来事です。スーパーボウルが危惧していたチーフスの勝利に終わり、陰謀論がかったトランプ支持者からは予想通り不満の声が出てきました。

陰謀論が深まってしまったようです。

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テイラーとソロスと宇宙レーザー

強硬なトランプ支持者が奇怪な陰謀論を唱えるのは今に始まったことではありません。2023年には保守系のFoxニュースがテイラー・スウィフトはペンタゴン(米国防省)の心理作戦の一部だ!と主張していました。

トランプ支持者の陰謀論はもはや「いつものこと」ですから、陰謀論を反トランプ派が馬鹿にするのもおなじみの光景になっています。

こちらの記事

トランプ支持者が、テイラーが同時に二つの場所にいるのに気づき、ジョージ・ソロスとユダヤ宇宙レーザーの話を聞いて、「スーパーボウルのスタジアムにいるのはテイラーの影武者で、東京のライブにいたのはホログラムで、しかも両方とも小児性愛者だ」と断言し始めるのに心の準備をしておこう。

すごいことになるよ。

と締めくくられています4

「同時に二つの場所にいる」というのは、「2月10日の夜までテイラーは東京ドームでライブなのに、11日の夕方にラスベガスのスーパーボウルを観戦するのは不可能だ!」と騒ぎ出す人がいそう、ということです。もちろん、日付変更線をまたぐので、10日の夜遅くに東京から飛び立っても、10日のうちに西海岸に到着することは可能なのですが。

陰謀論をからかう人々

このような経緯を踏まえると、バイデン大統領の「計算通り」というツイートは、勝手にテイラー・スウィフトを敵認定して、勝手に転んだトランプ支持者をコケにしていたわけです。

ついでですが、バイデン大統領のツイートの画像の「赤く目の光るバイデン大統領」はDark Brandonと呼ばれているキャラクターです。元々、トランプ支持者にバイデン大統領はバイデンではなくブランドン(Brandon)と呼ばれていました。「取るに足らないやつだから勝手な名前で呼んでやれ」という意図です5

さらにトランプ元大統領の目を光らせダークな雰囲気をまとわせた(ネオナチ風の)ミームもあったのですが、これを組み合わせてバイデン陣営が自分のものにしてしまったキャラクターがDark Brandonです6。トランプ支持者のミーム画像から作られたキャラクターで、トランプ支持者の主張する陰謀論をからかってみせたのが冒頭のツイートということになります。

YouTuberのフィリップ・デフランコはバイデン大統領のツイートに乗っかって、ゴリゴリのトランプ支持者が言い出しそうなことを言ってみせています。

「開票速報で最初は勝ってたのにひっくり返された! 不正だ!」というトランプ支持者の主張のパロディーです。選挙不正もスポーツの八百長も、英語では同じriggedという言葉で表せるから出てくる発想かもしれません。

便乗してネットの有名人も八百長ネタで遊んでいます。こちらはストリーマーのエイデン・ロスです。

こちらはYouTuberでDrama Alertのキーム・スターです。

政治系ストリーマーのハサン・パイカーです。

ハサンは根っからの反トランプ派なので、もちろんギャグで言っています。元のルールなら勝っていたのはチーフスではなくフォーティーナイナーズでした。確かに延長戦のルールが変わって以来初めての延長戦だったようですが、ファイザーはさすがに無関係です。

このネタには乗っかっていませんが、2016年の大統領選挙でトランプ元大統領と戦ったヒラリー・クリントン元国務長官も高笑いです。

スーパーボウルの中継でもしばしば客席のテイラーが大写しになりました。トラビスは米国社会に「テイラーの彼氏さん」として認知されたようです。

NFL=テイラー=トラビス=民主党=バイデン陰謀論は、おおむね面白いネタとして扱われていました。しかし、見ているとこんな気分になるのも確かです。

頭が悪くなる気がしても、一応は押さえておかねばならない話題になってしまったようです。好むと好まざるとによらず、世界が陰謀論化したならば、その世界の中で生きていかねばなりません。

目立ちたがりのあの人物

こうなると黙っていられないのが、目立ちたがりで手柄とりたがりのあの人物、そう、トランプ元大統領です。

こちらのツイートで紹介されているTruth Socialの投稿ではトランプ元大統領は、「今テイラー・スウィフトが活躍できているのは自分の通した法律のおかげでバイデン大統領は何もしていない! トラビス君も嫌いじゃないぞ!」と主張しています7

テイラーの大人気の理由の一つが、人々が勝ち馬に乗るのが大好きなことです。今、テイラーは間違いなく「勝ち馬」です。トランプ元大統領に支持が集まるのも、彼が少なくとも一度は「勝ち馬」だったからでしょう8。みんなが勝ち馬が大好きな世界で勝つために必要なのが、勝ち馬に乗ることです。スーパーボウル開幕に際して、トランプ元大統領も勝ち馬に乗ろうとしたようです9

ご本尊がテイラーやトラビスにすり寄り始めたことで、支持者たちが次はどんな陰謀論を打ち出すことになるのか、興味が尽きません10

スーパーボウルも終わり、大統領選挙の年としての2024年がいよいよ本格始動した観があります。バイデン陣営はスーパーボウルの当日に合わせてか、TikTokアカウントを開設したと告知しています11。前回の大統領選挙が行われた2020年のスーパーボウルは、奇しくも2024年と同じカンザスシティ・チーフスとサンフランシスコ・フォーティナイナーズの対決で、2024年と同じくチーフスが勝利しました。2024年の大統領選挙の行方に注目が集まります。

Image: Trump and MAGA IMPLODE in DESPERATION with Latest Attacks

  1. この記事以外にもMaidasTouch Networkはトランプ支持者の頭のおかしい言動を紹介する記事を山ほど出している。「トランプ支持者は頭がおかしいね!」と書くことは商売になるらしい。それが商売になることにも唖然とするが、それよりも、商売になるとしてもあえて商売にしてしまうことに唖然とする。
  2. 以前はテイラーは政治的立場を明らかにしておらず、白人至上主義者にはテイラーを(その外見から)「アーリア人種の女神(Aryan Goddess)」扱いし、あがめる向きもあった。彼らからすれば、進歩的立場を表明するようになったテイラーには裏切られた気分なのかもしれない。勝手に期待して、勝手に裏切られただけだが。
  3. そして、今やポップスの頂点に立ったテイラーも?
  4. ジョージ・ソロスはハンガリー出身の富豪で、一部の陰謀論者から目の敵にされている。ユダヤ宇宙レーザー(Jewish space laser)は共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員が山火事の原因だと述べたことがあるが、無論、妄想の産物である。影武者・ホログラム・小児性愛者も陰謀論者がよく持ち出す用語である。
  5. ここでは省略したが、BrandonあるいはLet’s go Brandon!の由来についてはこちらのVoxの記事が詳しい。
  6. Dark Brandonの由来についても同じVoxの記事が詳しい。Dark Brandonは現在のバイデン陣営の公式Twitterアカウントのアイコンにもなっている。
  7. トランプ元大統領が特に推進した法案ではないらしいが。
  8. トランプ支持者がトランプ元大統領を崇拝するカルトと化しているとは最近よく指摘されるが、スウィフティーズが宗教じみているのも周知の通り。人々があまりにも勝ち馬に乗りたがるのが現代の政治の(あるいは、現代社会全般の)一つの問題だろう。
  9. テイラーが一人勝ちすぎて、普通だったら批判されることもテイラーなら許容されているのも問題である。先日、テイラーのプライベートジェットの位置を公開した人が猛批判されていた。イーロン・マスクが自分のプライベートジェットの位置を隠そうとしたときにはイーロンへの批判の声が強かった印象がある。ダブスタである。なお、筆者はイーロンは大嫌いで、その証拠に、上に埋め込んだ投稿もいまだに「ツイート」と呼んでいる。
  10. どんな「精神的勝利」を収めるのだろうか?
  11. 最初に投稿されたのは、バイデン大統領に二択の質問をしていく動画である。チーフスとフォーティーナイナーズのどっちが好き?から始まって、トランプとバイデンのどっちがいい?で終わる。
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