2020年5月に始まったブラック・ライブズ・マター運動は、近年の反差別運動を超える空間的な広がりと時間的な長さを見せています。しかし、暴力に発展することも多く、批判も絶えません。
今回は、黒人YouTuberたちの声をまとめました。一方では当事者でありつつも、他方では運動との距離の取り方に悩む意見が見られます。
マーカス・ブラウンリーの声明
YouTube登録者数1200万人のマーカス・ブラウンリー(Marques Brownlee)です。急上昇の常連でもある有名YouTuberです。
5月末、運動が広がり始めたころにこのようなツイートをしました。
もちろん、このところ僕はジョージ・フロイドさんの事件についていろいろ考えていました。もちろん、どうしていつものように近所に走りに行った黒人男性が殺されてしまったのかも考えていました。もちろん、このタガの外れた大統領がどれほど危険なのかも考えていました。もちろん、僕の発言力を「正しく」使ってみんなが耳を傾けるべきメッセージを広めるにはどうしたらよいのかも考えていました。
当然、「君は黒人だろう」「黒人であることについて何か言いなよ」「ハッシュタグつけなよ」を見るたび、ますます考えることになりました。
でも、ハッシュタグに飛びついたり、はやりの署名活動をツイートして「気運を高め」たりするのは違うんじゃないかと思うのです。確かにそれで何か変わるかもしれない。でも、日常的に人種差別があるのは歴然としているでしょう? 僕の考えが間違っているのかもしれませんが。
パンデミックで金儲けするための派手なロゴのついたマスクが多すぎる。悲劇を金に変えようとしたRIP Kobe1のTシャツが多すぎる。本当の社会運動をする代わりになっているハッシュタグが多すぎる。
要するに、こういうことです。発言力の使い方は人それぞれでいい。僕はもっと大きい運動にかかわりたいのです。それは、手本になって人を導くこと。他の人の手本になる人がすることをしたい。
ゴルファーとして、アルティメットのプレイヤーとして、テック系レビューアーとして、ずっと僕はその場でたった一人の黒人でした。行動は言葉よりも重いと信じている一人として、いつも正しい考えを実践しようとしてきましたし、自分にはできないと思っている人の手本になるため正しい選択をしようとしてきました。これが気運を高めるために僕がしてきたことです。僕自身がいいなと思えるような人になることです。
自分でかかわって、確かに社会をよくするのを見てきたコミュニティや組織に寄付をして助けるのが僕のやり方です。
でも、ここまで来ると、ハッシュタグもツイートも必要な気もします。身の回りで起こっていることを見て、何もせずにいるのはとてもいやなことだからです。
何をするかはその人次第です。それを大事にしたいものだと思います。
「少しでも変えられる限りは」──コービー・ブライアント
#BlackLivesMatter pic.twitter.com/bW50HAMoNw
— Marques Brownlee (@MKBHD) May 29, 2020
続いて6月上旬に公開された動画です。
およそ同じ内容について語っていますが、最後に、多様なYouTuberの登録者になるだけでなく、観てほしい、と語っています。単に登録者になるだけで観ないとYouTubeは質が低いクリエイターだと見なすのだそうです。
YouTuberのジャーヴィス・ジョンソン(Jarvis Johnson)がマーカスのツイートにコメントしています。
言ってくれてありがとう。うまく考えがまとまらなかったことを代弁してもらった。❤️
thank you for saying this. i’ve been trying to put this into words and you did it so well ❤️
— jarvis johnson (@jarvis) May 29, 2020
マックの悩み
こちらは同じくYouTuberのマック(MacDoesIt)の意見です。彼は普段は独特のユーモアのある動画を投稿することで知られています。人種差別的な映像やゲイ差別的な映像を茶化す動画も作っています。
鬱だ。不安で目を覚ましては、何時間も呆然としている。ちょっとSNSから距離をとろう。スポンサーつき投稿は出すけど、距離をとらないと。一日のうちにひっきりなしに間違ってる間違ってないって言われ続けるのは本当にこたえる。
I’m broken. Keep waking up extremely anxious then going numb after a couple hours. Stepping away from social media for a bit. You may see a couple sponsored posts pop up but I need to step away. Being both validated and invalidated constantly in one day can really break you
— mac kahey (@MacDoesIt) May 29, 2020
論争が多い問題に触れると賛否ともに強い言葉が飛んできます。精神的にこたえている様子です。
TROYCETVの意見
YouTuber トロイス(TROYCETV)の動画です。運動に対して批判的な見方をしています。
最後までちゃんと観てくれ、反射的に反応するのは最悪だ、と断ってから始めています。
トロイスはブラック・ライブズ・マター運動も結局政治に利用されているだけだと語っています。ブラック・ライブズ・マターの募金サイトからは民主党を支援する団体に転送されます(民主党も議員は白人が大多数なのに)。運動の本質を理解していないセレブリティが参加して寄付を呼びかけるのも、不気味だと話しています。これからは資金がどこに流れているか不明の団体ではなく、身元のはっきりした個人を応援したいとトロイスは言っています。
8歳の黒人の女の子が撃たれて亡くなった事件がほとんど報道されていないことにも不信感を表明しています2。この運動が人々のためになっていないことを疑っているようです。
ディアンジェロ・ウォレスの考え
最後はYouTuberのディアンジェロ・ウォレス(D’Angello Wallace)です。彼は鋭い分析と事実の精査に定評のあるコメンタリーYouTuberです。
なんとか言葉にしようとしばらく考えてた。#BlackLivesMatterについて一番誤解されているのは、根っこのところだ。僕は一人の黒人でしかないけど、説明してみようと思う。聞いてくれればわかると思う。だから聞いてほしい。(1/11)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
ソーシャルメディアは今、怒りと、真っ向から対立した意見と、侮辱と、政治と、罵詈雑言の戦場になってる。でも、それは脇に置いて、本当に背景にあるのが何かを見ることは可能だと思う。(2/11)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
ジョージ・フロイドという人が警官に殺された。それはアメリカで起こったことで、アメリカは人種的偏見から不公正がまかり通っている国だ。それは今回の事件がどこからどう見ても殺人なのに、政治的な争点になったことからもわかる。(3/11)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
黒人が怒っているのは、これが悪いことだからというだけじゃなくて、人種的不公正の原因がみんなが生まれるずっと前に始まったことだからだ。僕たちの人種が警察と会うたびに生きるか死ぬかになるだなんてことがあっていいはずがない。(4/11)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
アメリカの統計では、黒人の犯罪率が比較的高い。でもこれは不公正な制度の結果だし、ある黒人の価値を別の黒人の行動でもって判断するのは論理的にも倫理的にも間違ってる。(5/11)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
僕たちは優遇してもらいたいわけじゃない。施しがほしいわけでもない。
個人として尊重してもらいたいだけだ。
文化については、黒人は一つの集団だし、それはほかの人種もそうだ。人間については、黒人は一人一人が個人だ。ほかの人たちと同じように。(6/11)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
私は人。
私は一人の人。
私は黒人。だけど私は私。
他の人が僕が黒人であることを悪いイメージと結びつけるのがいやだ。でも、自分が黒人であることがいやになったりはしない。そういう人たちの考えが間違っていることは自分らしくしていれば証明できる。そのためのチャンスを僕は当然要求する。誰でも同じだ。(7/11)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
黒人は犯罪統計とは違う。
黒人は政治声明とは違う。
黒人は他の人の行動とは違う。
人と人は連帯して進んでいく。僕たち個人が強くないと思ったら間違いだ。(8/11)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
人をその人の祖先とか仲間の行動でけなしたりはしない。人を数字だとか歴史だと思ったりはしない。人を「問題」扱いしない。
人と人は愛し合えるものだと信じたい。みんなにそう思ってもらいたい。(9/11)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
今いろんな証拠を引き合いに出して本当の問題から目をそらそうとしている人がいるけど、ジョージ・フロイドさんが殺され、人種的不公正がその一因であったという事実はそんな「証拠」でかすむものではない。黒人たちがいま怒って(暴れて)いるとしても、だから彼は死んで当然だったなんてことにはならない。そんなことは決してない。(10/11)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
いま怒りが蔓延しているのは、人から人としての権利を奪ったからだ。これから何が起こるとしても、僕たちは一人一人の個人で、愛されるに足り、愛されうる人で、誰か他の人のせいで不当に圧迫されてはならないと思ってもらえるようになるまで声を上げ続けるだろう。(終わり)
(2021年3月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
今回取り上げた黒人YouTuberたちは、全員、YouTuberとして成功しています。そのため、マーカスも認めている通り、比較的恵まれた立場にあります。彼らは、暴力的な運動には賛成しないが、差別は間違いなく事実なのだから、運動からは距離をとりつつ、自分のするべきことをしていこう、と覚悟しているように感じられました。
注
- 元NBAスター、コービー・ブライアントは2020年1月に事故死した。
- 抗議デモ参加者が築いたバリケードの前でUターンしようとした車が銃撃され、乗車していたSecoriea Turnerが亡くなった。少なくとも4人が発砲したと報道されている。