ロシアのプロパガンダの実態を紹介するRussian Media MonitorのJulia Davisに注目

社会・政治

遠い国の出来事が報道されることがあります。報道では、異文化圏での出来事そのものは知ることができても、出来事がその文化圏の人々によってどのように受け止められているのかをうかがい知ることはできません。

では、どうしたら知ることができるでしょう? その文化圏の人々が観ているテレビ番組を見れば、知ることができるかもしれません。

今回紹介するのは、テレビ番組を紹介し続けている人の仕事です。

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Russian Media Monitorのジュリア・デイヴィス

ジュリア・デイヴィス(Julia Davis)氏の運営するRussian Media Monitorはロシアのテレビ番組に英語字幕をつけて紹介しています。

主たる発表の場はTwitterで、Twitterアカウントのフォロワー数は37.1万人です。ジュリア氏は1974年、ソ連のウクライナで生まれ、米国の左派系メディアThe Daily Beastへの寄稿やテレビへの出演もしています。

Russian Media MonitorにはYouTubeチャンネルもありますが、こちらは登録者数は2.59万人とやや注目度が低くなっています1サイトもあります。

YouTubeチャンネルの概要欄によれば、Russian Media Monitorは2014年、ロシアによるクリミアの併合の直前に、ロシアのプロパガンダと戦うために設立されました。

ジュリア氏によるTwitterでの紹介は、たいていこのような動画です。

司会の男性はジュリア氏の動画への登場回数で一二を争う、ヴラディミル・ソロヴィヨフです。この動画のような形式のトークショーを司会し、ロシア政府のプロパガンダを流し続けています。

ソロヴィヨフはロシアのプロパガンダの中心人物と目されています。そのため、彼が所有していたイタリアの別荘はイタリア政府によって没収され、その後何者かによってプールにペンキが投げ込まれ、まるで血みどろのようになってしまいました。抗議活動でしょう。

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紹介されたプロパガンダ

ロシアではソロヴィヨフの番組のような大仰な舞台装置のトークショーが人気なようです2。トークショーでは政府の意見を司会者やゲストが代弁します2

トークショーの基本的な調子は、ウクライナは失敗国家であり、ナチであり、米国とNATOはロシアを破壊して植民地にしようとしており、ロシアは軍事的大国であり負けるはずがない、というものですが3、これは完全にロシア政府によるプロパガンダです。

プロパガンダはしばしば現実を裏返したものです。このプロパガンダも例外ではありません。ロシアが失敗国家であり、ロシアがヴァグネルをはじめとするネオナチを多数抱え、失敗国家であり、ウクライナを破壊しようとしており、軍事的にも弱体であることは広く知られるようになってきました。トークショーはその現実を糊塗するための道具のようです。

「特別軍事作戦」と「部分的動員」の失敗を受けて、プーチン大統領の支持率にやや陰りが見られますが、それでもいまだに支持率が高いのはこのようなプロパガンダの結果でしょう2。国民や為政者が私たちとは異なる現実を見ていることがわかります。

こちらの動画では、2014年のマレーシア航空17便撃墜事件で、ロシアのニュースが当初「ウクライナの輸送機を撃墜した」と誇らしげに報じていたのに、事実が判明すると一転して、「これはウクライナ軍による撃墜だ」と非難し始めたことも記録しています。

(2022年12月7日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)

エリザベス女王の死去に際して、エリザベス女王ではない人物の映像をエリザベス女王のものであるとして、英米圏の植民地支配を批判する内容を放送したことも記録しています。

(2022年12月7日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)

このようなゆがめられた報道がなされている実態を見ると、ロシア軍が占領したウクライナの地方を併合するための記念式典の演説でなぜか突然、LGBTQを攻撃しはじめたプーチン大統領が見ている現実がいかなるものであるかが、少し理解できるように思います。こちらの記事でも触れたとおり、プーチン大統領の見ている現実の中では、この戦争はロシアの文化と西側の文化の戦いであるようです。

こちらは俳優のスティーブン・セガールがソロヴィヨフの番組に出演したときの様子です。

スティーブン・セガールは、戦場の残虐行為はロシアではなくウクライナによるものだと主張していますが、これはロシア政府に都合のよい主張です。一体どうしてしまったのでしょう。動画の中で彼は、ロシアを批判する人々は誰かから金をもらっているのだと示唆していますが、金をもらっているのは自分自身ではないのでしょうか。

面白いことに、ロシアのテレビ番組では米国のバイデン政権が批判され、トランプ前大統領への支持が訴えられているようです。

トランプ氏が大統領に返り咲くのがよほどロシアにとって好都合なのでしょうか? 彼がロシアで複数のセックスワーカーが放○しているのを眺めている映像があるというウワサがありますが、それと何か関係があるのかもしれません。

愉快なクリップ

テレビを見続けていると、変なシーンに気づくことがあります。もちろん、ロシアのテレビでもそうです。

確かにこれは大恐慌時代のアメリカの伝説的な犯罪者、ボニーとクライドです。誰が何をどうして間違えたのでしょうか。ロシア政府とロシア軍には明日がないという隠れたメッセージだと考えるのはうがち過ぎでしょうか。

ロシアの公安機関は逮捕した工作員から(SIMカードではなく)Sims3押収したことを考えると、同じmalicious compliance(悪意ある遵守)なのではないかという気もします。

現代ロシアの政治社会状況を表すパベドベシエ(победобесие)という言葉があります。軍事力と過去の勝利にこだわる文化を指すようですが、その例がこれです。

美容体操と軍国主義の奇妙な融合に見えます。

各界の専門家は絶賛、ロシアも!

ジュリア氏の活動は各界で評価されています。イェール大学教授のティモシー・スナイダーツイート)、米陸軍退役中将のマーク・ハートリングツイート)、豪陸軍退役少将のミック・ライアン(ツイート)が彼女の活動を賞賛し、ウクライナのクレバ外相も彼女に@ツイートをしたことがあります。彼女のツイートを多くの著名人がリツイートしているのを日々目しているという人も多いでしょう。2023年1月2日のKyiv Postの記事でもウクライナを勝利へと導く人物たちの一人として挙げられています

注目度が高いので、盗作されてしまうこともあるようです。こちらのツイートでは新聞記者に翻訳をそっくりそのまま使われてしまったことを告発しています。

これだけジュリア氏の活動の評価が高いので、ロシア政府ももちろん、それ相応の待遇をジュリア氏に与えることにしました。勲章や、地位かと思いきや……。

危険人物として制裁リスト入りしてしまったようです。テレビ番組の内容をそのまま伝えているだけなのになんで怒るの?

ロシア政府はバイデン大統領と間違えてバイデン大統領の父親(故人)を制裁したこともあるので、制裁されているのは別のジュリア・デイヴィス氏の可能性もあります。『SING/シング: ネクストステージ』の声優を務めた女優とか2

不可解な動きもあります。Russian Media MonitorのYouTubeチャンネルの動画が大量削除されてしまったとジュリア氏は訴えています。

ロシアのプロパガンダであると判定されてしまったか、あるいはロシア政府側が体裁が悪いので隠そうとしたか、どちらでしょうか。

また、イーロン・マスクが表現の自由を掲げてTwitterの経営権を握った11月には、ツイートが見られた回数も、メンションも10月からはほぼ半減してしまったそうです。

不可解です。

国際社会で理解できない行動をとる国家と指導者をなんとか理解するため、Russian Media Monitorのジュリア・デイヴィス氏が今後も情報発信を続けられることが必要です。


  1. とはいえ10月頃は1万人に到達していなかったので急成長である。後で述べる動画の削除や、Twitterの経営方針の変化が影響している可能性もある。
  2. ほかにもオルガ・スカベーヴァの番組もよくジュリア氏は紹介しているが、見た目も形式もよく似ている。
  3. 2022年秋のウクライナ軍の反転攻勢の後は、やや悲観的な調子を帯びたものに変化しつつある。
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