新型コロナウイルスが世界的に流行しつつあります。感染症に限らず、事件が起こると、さまざまなウワサが飛び交います。ウワサには正しいものもありますが、多くはただのデマです。SNSでもマスメディアでも、さかんにデマが打ち消されていますが、デマは次々に出てきます。
YouTuberもデマを検証しています。Spill(チャンネル登録者数114万人)の動画です。Spillの本拠地はカナダですが、北米でも感染者が出てきて関心が高まってきているようです。
本記事は、この動画に基づいて構成しました。動画は後半で拘束された中国人ジャーナリストを取り上げていますが、本記事は主として前半の、欧米で流れているコロナウイルスのウワサを取り上げます。
動画をめぐる状況
最初に、Patreonでのサポートを呼びかけています。新型コロナウイルス・COVID-19にかかわる動画は非収益化(demonetize)されやすいからです。
デマを広めないため、YouTubeは特定のキーワードを含む動画を非収益化します。金儲け目的で人々の不安をあおりデマで視聴回数を稼ぐ動画が乱造されないようにするためです。
しかしそのため、デマを検証し、打ち消す動画でも収益が出なくなってしまうので、直接寄付をするように呼びかけているのです。音声についても禁止ワードがあるとされているため、動画の音声では“death”や“conspiracy”や“weapon”の語は消されており、字幕でも消し線が入っています。
おさらい
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はSARSウイルスやMERSウイルスに近縁のウイルスです。このウイルスに感染して発症する病気がCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)です。この感染症は中国の河北省武漢で2019年12月に初めて報告されました。
風邪のような症状が出て、感染します。発症しない人もいますが、発症していない人がウイルスを他の人に感染させるかはわかっていません。重症者は病院で治療を受ける必要がありますが、(病院がパンクしないように)軽症者は自宅療養することが勧められています。
起源についての陰謀論・predictive programming
ウイルスの起源について多くの陰謀論が出ています。いずれも根拠のないデマです。本気で主張している人も、面白半分の人もいるようです。
Predictive programmingは陰謀論者の用語です。「メディアがあらかじめ将来の大きな事件を予言する内容を流しておき、人々を慣れさせておくこと」を意味します。つまり、陰謀論者は、新型ウイルスは意図的に作られたもので、それは予告されていた、と考えているのです。
『バイオハザード オペレーション・ラクーンシティ』がその「メディア」だったというのが彼らの主張です。このゲームの中に出てくるアンブレラ社と「上海瑞藍生物科技有限公司」のロゴが似ているというのですが[動画3:16]、この会社は単にバイオテクノロジー企業というだけで、今回のウイルスとは特に関係ありません。
この会社についてはこちらの2019年6月の記事でも取り上げられています。
「ラクーン(Raccoon)シティ」とコロナ(corona)ウイルスがアナグラムになっていると主張する陰謀論者もいますが、RaccoonとCoronaでは“C”の数が合いません。こじつけです。
ディーン・クーンツの1981年の小説『闇の目(The Eyes of Darkness)』もpredictive programmingの「メディア」だと陰謀論者は言っています。この小説には中国の科学者がWuhan-400というウイルスを作り2020年に肺炎が広がったという話が出てきます。
しかし、ウワサを検証するサイトSnopesによれば、この小説が予言していたというのはウソです。
まず、ウイルスが小説と現実で似ていません。死亡率も違います。また、初版本ではウイルスはWuhan-400ではなくGorki-400と呼ばれています。小説と現実は偶然一致しただけだと結論づけられています。
公表された患者数が操作されている?
中国の大手IT企業テンセントが各地方政府の発表した患者数をまとめて公表しています。
あるときこのページに非常に大きな数字が載ったと話題になりました(たとえばこちらの記事)。陰謀論者によれば、「数字はすぐに小さくなったが、大きな数字が真相のリークで、公式発表の数字は操作されている」というのですが、これはデマです。
ウェブブラウザの開発機能を使えば、ウェブページの文章を操作することは簡単です。勝手な数字を入力すればいくらでも衝撃的なスクリーンショットを捏造できます。たとえば、この画像のように。
これについてテンセントが声明を発表しています。
困ったことに、SNSで私たちの「感染症の今」で私たちが出したのではない偽情報を捏造した画像が出回っています。
Unfortunately, several social media sources have circulated doctored images of our “Epidemic Situation Tracker” featuring false information which we never published.
— Tencent 腾讯 (@TencentGlobal) February 6, 2020
ただし、当局が見かけ上の患者数を減らそうとしている可能性は指摘されています。
上の二つの記事では、ウイルス性の肺炎で亡くなった人の死亡診断書では死因が隠蔽されていたと遺族が語っています。実際の罹患者数・死亡者数が公式発表より多い可能性は否定できないようです。
ウイルスの起源
ウイルスはコウモリに由来するものとされていますが、当初バイラルになったコウモリを食べる女性の動画[動画8:14]は無関係です。3年前に太平洋の島国パラオで撮影されたものだからです(こちらの記事を参照)。
ツイートの内容はデマなので訳しません。
When you eat bats and bamboo rats and shit and call it a "Chinese delicacy", why y'all be acting surprised when diseases like #coronavirus appear? ?pic.twitter.com/SQjCzheDQN
— woppa ?? (@Woppa1Woppa) January 22, 2020
カナダのレベル4感染症施設(National Microbiology Laboratory)から病原体を武漢に運んだため中国人スパイが追放されたという陰謀説[動画8:35]がありました。そのツイートではこちらのニュースがその根拠とされていましたが、後の調査で運んだのはコロナウイルスではなかったことが報道されています。これもウソ情報です。
コロナウイルスの遺伝子配列にはHIVウイルスの配列が組み込まれているという情報も流れましたが、これもウソです。そのような配列は発見されていません。こちらの記事では専門家が、新型ウイルスは人工的に作られたものではなく、自然に変異してできたもの推定されると説明しています。
ほかのコロナウイルスの遺伝子配列と比較すると、コウモリのものに近く(88%の類似度)、SARSウイルスやMERSウイルスとはもう少し違っています(それぞれ79%と50%の類似度)。
投資関係のツイートをしているアカウントzerohedge1は、ウイルスの製作者だとしてある武漢の医師の個人情報をばらまきました。その結果、明らかなデマの拡散としてTwitter社によってアカウントが停止されました。
その後、中国の駐米大使もウイルスが人工的に作られたものだというウワサを否定しましたが、Foxニュース2は「ウワサを明確に否定しなかった」と報じました。Foxニュースはデマを広めていることになります。共和党のトム・コットン上院議員もこのウワサに便乗しました[動画12:50]。
感染拡大の実態は?
中国政府がメディアを規制しているのはよく知られています。新型コロナウイルスについても情報が規制されてきました。当局の係員3がSNSへ投稿するなと言っている動画も投稿されています[動画13:52]。実態を報道する多くの中国人ジャーナリストも拘束されています。
李文亮(Li Wenliang)医師は謎の新型肺炎の発生を2019年12月30日に伝えました。彼の投稿はWeChat上で広まり、当日中に当局に拘束されました。翌12月31日、武漢市はWHOに原因不明の肺炎を報告しました。これは李医師の投稿と一致しています。2020年1月9日には原因はコロナウイルスであることが判明しました。この時点では、人間から人間への感染はないと保健当局は発表していました。
李医師は1月31日に当局の発表は誤りだとWeiboに投稿しました。李医師はすでに感染しており、2月1日にはウイルス検査で陽性が確認され、2月7日に亡くなりました。このニュースに中国のSNSでは当局への批判の声が上がり、当局は投稿を検閲し大量に削除したと報じられています。
一方で、李医師はSNSでバイラルになっただけで、本当に感染の対策を進めたわけではないという批判も出ているようです[動画20:25]。最初に警告を発したのはほかの医師だという声もあります[動画20:39]。
最初の患者が出たのは2019年12月8日ですが、弁護士・ジャーナリストの陳秋実(Chen Qiushi)氏によれば、タクシー運転手の間では12月の中旬には肺炎が流行していることが知られていたそうです。1月27日には武漢市長が中央政府の指示で情報を出せなかったとCCTVで話しました[動画22:00]。武漢市の状況を動画で伝えた方斌(Fang Bin)氏や陳秋実氏は当局に拘束され、SNSに投稿ができない状態になっています。
結論
動画は、感染の予防は通常の衛生的な習慣を徹底することであり、感染者や地域を差別することではない、SNSで注目を集めるために関係ない投稿にコロナウイルスのハッシュタグをつけたり、悪ふざけをしたりするのはよくない、と締めくくられています。
SNSの悪質な投稿の例として挙げられているのはこちらのローガン・ポールの投稿とシェーン・ドーソンの動画などです。
こちらの動画で、シェーンはコロナウイルスに感染しないように特製マスクをプレゼントされています[動画20:07]。
騒ぎに便乗した投稿の中には、MMS (miracle minecal solution)なるものがコロナウイルスに効くというものがあります。これは二酸化塩素の溶液で、効果が証明されたものではありません4。また、飲むと有害なので、決して飲まないでください。次の記事はこのウワサを検証したものです。
そのほか、ビタミンCが効く、ある種の違法薬物が効くと主張をしている人がいますが、どれも医学的に確かめられたものではありません。不確実なウワサに頼らず、保健機関の発表など確実な情報に基づいて行動してください。