クリミア大橋の爆発炎上が象徴するものとは?ミームが大量投下され、NAFOも活躍

社会・政治

クリミア大橋が現地時間2022年10月8日午前6時過ぎに爆発炎上し、損傷しました。ウクライナ軍もしくはウクライナの情報機関の攻撃によるものと見られています。

この大事件を受けて、ミーム、コラ画像、ネタ動画が大量発生しているので、背景事情込みで紹介します。

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クリミア大橋とは

クリミア大橋(別名ケルチ海峡大橋)はロシアが2014年以来占領しているウクライナのクリミアと、ロシア本土をつなぐ橋です。

クリミア大橋の建設計画は2014年のロシアによるクリミアの一方的な併合の翌日にプーチン大統領が発表しました1。道路部分は2018年、鉄道部分は2019年に開通しています。道路部分の開通式ではプーチン大統領が自らダンプカーを運転して走るパフォーマンスを行い、政権の威信を大いに高めました。これは裏返せば、橋が部分的にであれ破壊されたことは政権にとっての大きな痛手となることを意味します。

ウクライナ政府はロシアによるクリミアの併合は国際法に違反しており、それゆえクリミア大橋も違法建造物だという立場です。ウクライナ大統領府のポドリャク大統領顧問のツイートです。

クリミア大橋はロシア軍にとってクリミアおよびウクライナ南部への重要な補給路でした。ロシア軍は今後ますます厳しい戦いを強いられることになります。さらに、ロシア政府とプーチン大統領の威信は著しく傷ついたことになります。

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イメージとの戦いとNAFO

2月の侵攻直後からロシアは、自国の軍事力を誇示し、ウクライナと国際社会に譲歩を迫ってきました。実際の軍事力のみならず、「軍事大国のイメージ」も使って圧力をかけていたのです。しかし、ウクライナ軍の善戦が伝えられ、ロシア軍の欠陥が明らかになると、このイメージは揺らぎ、ロシアへの譲歩を主張する声も弱まってきました。

軍事大国のイメージの失墜に一役買ってきたのがNAFOです。NAFOとはロシアの情報戦と戦うネット上の親ウクライナ集団で、柴犬のクソコラでロシアの失態を馬鹿にする投稿をし続けてきました。今回もNAFOが大量の投稿をしています。

どう見ても馬鹿げた画像です。しかし、この馬鹿げた画像は、ロシア政府のプロパガンダも同じぐらい馬鹿げたものにして笑い飛ばしてしまいます。これはプロパガンダへの有効な対抗策です。

プーチン大統領は本気でこの戦争はロシア文化と西側文化の文化戦争であると信じているようなので、馬鹿げた画像で戦うのはますます有効だということになりそうです。

NAFOの活動によって、バイユーのタペストリーの新たな断片も発見されたようです。もちろん、コラ画像です。

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(2022年10月22日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

“Ye fiendish Anglo-Saxons”とあるのはロシアのプロパガンダがしばしば「アングロサクソンによる世界秩序との戦い」として戦争を正当化しているからでしょう2。“Cigarette”とあるのは、弾薬庫がウクライナ軍に攻撃されて爆発したときロシアのメディアが「不注意による事故である」と表現したことから発生したミームです。今回もタバコの不始末による事故だと主張するつもりだろうというわけです。“Cruiser Moskva”が沈んでいるのは毎度のお約束です。ロシアのイメージ戦略の観点からは、クリミア大橋の炎上は黒海艦隊旗艦モスクワの撃沈に続く大失態です。

NAFO以外にも、いつものミームも登場しています。こちらはいわゆるDisaster Girlです。

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(2024年9月22日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

また君の仕業か……。

ネット上の祭となればウィキペディアに項目ができたり、編集されたりするものですが、クリミア大橋のページに「破壊された日付」が追加されてしまいました(現在は削除)。

こんなやりとりがされているのでは?という投稿もありました。

プーチン大統領と部下の並ぶテーブルが信じられないほど長いと話題になったことがありました。ちょうど修理に使えたようでよかったですね。

お誕生日プレゼント?

爆発はプーチン大統領の70歳の誕生日(10月7日)の翌日に発生しました。この記念日を狙った攻撃なのではないかという推測もされています。プーチン大統領と政権の威信を揺るがすためならば効果的な日時の設定です。

こちらはウクライナ国家安全保障・防衛会議長官オレクシー・ダニロフの投稿です。右側の動画はマリリン・モンローのハッピーバースデー・ミスタープレジデントです。

ウクライナからプーチン大統領へのプレゼントだということでしょう。だとすれば大変高価なプレゼントです。プレゼントをもらう側にとって、ですが。

こちらはアクセス数世界第2位の動画サイトP○rnHubに「元KGB職員に橋の上で予想外の誕生日プレゼント」という動画があるという画像です。いかにもなタイトルですが、ウソです。

NAFOも誕生日を盛大に祝っています。

盛大に祝いすぎたようです。

こちらは誕生日会場です。

コラ画像のプーチン大統領はどれも寂しげですが、無理もありません。こちらのTwitterスレッドによれば、今年はプーチン大統領は世界4か国の首脳から電話で誕生日を祝われ、5か国の首脳から祝電を送られたそうです。この数字はここ数年で最も少ないものでした。クリミアを一方的に併合する前の10年前には世界のほとんどの国の首脳から祝辞が送られてきていたそうです。ロシアの立場がいかに危うくなっているかがわかります。

こんなお誕生日ケーキも見つかりました。確かに、「クリミア大橋」と書かれています。

こちらの会社のロゴが入っています。本当にこれがプーチン大統領へのプレゼントだったのかは不明です。

住民投票とロンドン橋落ちた

先日行われたロシア占領地域での「住民投票」にかけた冗談もあります。ウクライナのゲラシチェンコ内相顧問です。

正当性のない住民投票で領土について勝手な主張ができるなら、こんな主張もできます。さすがに橋が海への併合を自発的に求めることはないでしょうが、占領地域の住民がロシアへの併合を求めるぐらいなら、橋が海への併合を求めることだってありうるかもしれません。もちろん、カリーニングラードがチェコへの併合を住民投票で決めることだって、ロシアがオランダへの併合を決めることだってありうることになります。

エリザベス女王の死去に続く一連の行事はコードネーム「ロンドン橋計画」が与えられ、「ロンドン橋落ちた」の合図を受けると関係各所は計画を実行に移すことになっていました。だとすると「クリミア大橋計画」はどんなもので、「クリミア大橋落ちた」を合図に何が起こるのでしょう?

プーチン大統領を名乗る偽アカウント、ダース・プーチン(Darth Putin)は、堂々たる発表をしています。

「キーウ包囲作戦が成功したので、部隊をドンバスに移す」と発表する政府なら、こんな発表をすることもありそうです。

陰謀論?

大きな事件が起こるたび、「メディアに騙されるな! 隠された真相がある!」と陰謀論を述べ立てる人々が出てくるものです。この人によればクリミア大橋の真相はこれだそうです。

危険すぎる……。よい子はマネしてはいけません。

こんな意見もあります。

これは説得力のある説です。少なくとも、「ウクライナ軍は黒魔術を使っている!」というロシアの報道に比べれば。この手の冗談はNAFOがロシア軍のプロパガンダへの対抗手段になったように、陰謀論への対抗手段になるかもしれません。

こちらは今年のユーロビジョンで優勝したKalush Orchestraの“Stefania”を歌うおじいちゃんです。

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(2023年4月16日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

それで燃えたりはしないでしょう……いくらなんでも。

陰謀論といえば、「この出来事はすでに予言されていた!」です。

これは1979年のソ連の映画“Волшебное кольцо”(魔法の指輪)の一部のようです(YouTubeリンク)。

ここに来て、有力な説が出てきました。ゴジラです。

別アングルもあります。

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(2023年7月30日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

もちろん、コラ画像です。

コラ画像が続々

ほかにも様々なコラ画像が作られています。

政治コラ画像の永遠のネタ元、『ヒトラー〜最期の12日間〜』の地下壕のシーンのコラ画像です。

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(2023年12月17日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

持ち場にいないのはフェリックス・シュタイナーの部隊ではなく、クリミア大橋のようです。

こちらはアカデミー賞の授賞式でプーチン大統領にビンタをするゼレンスキー大統領です。

オリジナルはご存じウィル・スミスとクリス・ロックです。ゼレンスキー大統領は「クリミアの名前を出すんじゃねえ」とヤジを飛ばしたのでしょうか。

こちらは『裸の銃を持つ男』シリーズの最新作『裸の核を持つ男』でしょうか。

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(2022年11月6日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

“Nothing to see”どころの騒ぎじゃありません。

認証画面でこんなものが出てきたら絶望しかありません。

パスしましょう。

ムンクの『叫び』です。そういえばオリジナルも橋のようなところに人が立っています。

ロシアが占領したウクライナの四州を併合する記念式典での映像に合わせた動画も出てきました。

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(2023年7月2日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

気合いを入れて「万歳(ウラー)」と叫ぶや爆発してしまいました3

聴衆はリアクションに困ります。

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(2022年11月6日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

もちろん、ネタ動画です。

この手の画像や動画でロシアとプーチン大統領が無力であるという見方が広まれば、ロシアは大きな武器を一つを失い、各国の親ロシア派による「この戦争の責任は西側にある、ロシアの顔に泥を塗らない解決策を探れ」という声も弱まり、戦争の終結は早まるかもしれません。

実はこれこそがロシアの政権が恐れていることです。国営メディアでは、クリミア大橋の爆発を受けて「ロシアは笑いものになるよりは恐れられるべきだ」と主張されているからです。

プロパガンダ装置だったクリミア大橋

クリミア大橋はロシアのプロパガンダ装置でした。橋はソ連崩壊で失われた「偉大なるロシア」が復活したシンボルだったのです。その名もズバリ、『クリミア大橋(Крымский мост)』という映画も2018年に作られています。脚本を書いたのはYouTubeがロシア政府のプロパガンダメディアであるとして排除したメディアの代表格RT(ロシア・トゥデイ)の編集長を務めるマルガリータ・シモニャンです(YouTubeの措置についてはこちらの記事をごらんください)。

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(2022年11月28日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

悲惨な点数ですが、「スターリン時代のミュージカル風味の『アメリカン・パイ』」と評した人もいるそうです(やっぱりひどそう)。

この低評価を見てどうしても気になってしまったクソ映画マニアの方は、YouTubeに本編がアップロードされているので、ごらんください。

Крымский мост. Сделано с любовью

この国策映画に関わることでマルガリータ・シモニャンとティグラン・ケオサヤンがいかに私腹を肥やしたかについては、アレクセイ・ナヴァリヌィの告発動画をごらんください。告発動画は冒頭、プーチンが橋の開通式でダンプカーを運転しているとき、その助手席に座っているかのような演出がされていて秀逸です。

Крымский мост. Украдено с любовью!

ナヴァリヌィによる告発動画はこちらの記事でも紹介しました。この記事の動画で告発されていたのはセルゲイ・ラブロフの豪華ヨットでした。

ロシア政府はクリミア大橋の被害を大きく見せないように努力していると報じられています。容易に勝利できるはずの「特別軍事作戦」で苦戦している上に、軍事的に劣るはずのウクライナに重要施設を破壊されてしまったとすれば、政権の正当性に疑問符がつくからです。ロシアのニュースは「クリミア大橋を爆破した人物のパスポート」を流していますが、これはウィキペディアにあるパスポート写真を加工したものではないか、という指摘もされています(ツイート)。一刻も早く事件を風化させ、政府のダメージを軽減しようとした報道です。

他方、ウクライナ政府はロシアの国威発揚装置の破壊を最大限に利用する構えです。記念切手を発行すると発表しました。

今回の爆発によってロシアのプロパガンダの大きな部分が無効化され、ウクライナの主張にとってさらに有利な環境が出現したようです。

ウクライナ国防省はゼレンスキー大統領の演説を引用し、戦争が始まって以来続くウクライナの姿勢を明示しています。

Twitter上ではウクライナ政府とクリミア自治政府のやりとりもありました。

本当にクリミアが家に戻るまでにはまだしばらく時間がかかりそうですが、このぶんだとそう長くはかからないのかもしれません。

  1. それ以前から計画が浮上しては消えていた。
  2. バイユーのタペストリーはノルマン人のアングロ・サクソン人の王朝に対する勝利を記念した作品なので、適切な素材であるといえそうだ。
  3. この記念式典の時点でプーチン大統領に元気がないという見方もあった。クリミア大橋が破壊されずとも、ロシアとロシア軍にとって先行きが暗いのははっきりしていた。
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