ファッションブランドは広告や商品が原因で批判を浴びることがあります。Gucci(グッチ), Prada(プラダ)などのハイブランドから、ポップ歌手のケイティ・ペリーがプロデュースするブランド、ファストファッションのH&Mまで批判された例を紹介します。
これらのブランドが批判を受けたのは人種に対する配慮の無さです。具体的に見てみましょう。
Gucciのセーター
ラジオ番組『ブレックファースト・クラブ』の動画です。Gucciで問題になったタートルネックセーター$890のデザインの話をしています。
ブラックフェイスはアメリカで19世紀に流行った舞台メイクです。当時、黒人を馬鹿にするコメディショーが流行していました。バカで怠け者なキャラクターとしてショーに黒人を登場させていたのです。舞台に上がるのは黒人ではなく白人で、顔を黒塗りにして演じました。これがブラックフェイスです。もちろんこれは人種差別的で、文化的配慮に欠けた話です。そのためこの類いの演出は現代では見られません。
しかし、ブラックフェイスに対する認識の甘い人、歴史的な背景に疎い人、あるいは差別的な人は、変わらず演出や仮装として用いる場合があり、論争を起こす理由になっています。
問題のセーターはブラックフェイス風のデザインでした。今回のGucciのセーターは認識の甘さが原因だと考えられます。『ブレックファースト・クラブ』ではラッパーのT.IがGucciに対する抗議活動として3つの行動を呼びかけていると紹介しています。
- 3ヶ月間Gucciで購入しない。
- 今Gucciを持っている人は身に付けるのを止める。
- SNSで問題提起をする。拡散をする。
こういった小さな抗議活動をすることで、ブランドに間違いを犯したら、消費者から相応の罰を与えられると思い知らせなければならないと話しています。黒人文化をないがしろにしたまま、黒人からお金を搾取するブランドに抵抗しようと話しています。
『ブレックファースト・クラブ』では、学生時代にブラックフェイスをした過去が発覚し謝罪した、バージニア州のラルフ・ノータム知事と同州司法長官マーク・へリングにも言及し、相変わらず悪習が残っていると話しています。
Pradaの人形
Pradaも問題になりました。ソーホー(ニューヨーク)のPrada旗艦店の店頭ディスプレイの人形が人種差別的だと指摘されました。
問題を提起したのは人権活動家、弁護士のChinyere Ezie(チニェレ・エズィエ)さんです。ワシントンからの出張帰りにPradaの前を通りががってこの人形を見つけ、黙ってはいられなかったそうです。
チニェレさんはワシントンで国立アメリカ歴史博物館の展示を見ていました。博物館の展示にあったブラックフェイスとPradaの店頭に飾ってある人形が酷似していたので怒りが込み上げたと話しています。
Pradaは「商品の人形は空想上の生き物で、人種差別の意図は無かった」と声明を出しました。
しかしチニェレさんは「Pradaは多国籍企業であり巨大企業です。この人形が何を意味し何を象徴しているか、十分理解しているはずです。この人形が問題なのは誰の目にも明らかでしょう。」と反論しています。
Katy Perryの靴
(2020年6月20日:削除されたYouTube動画をキャプチャ画像で置き換えました。)
こちらはケイティ・ペリーがプロデュースしている靴です。
Katy Perry’s “Face Shoes” are pulled after blackface backlashhttps://t.co/MCmMgcnWqA pic.twitter.com/DkK4SIr6Vz
— Vibe Magazine (@VibeMagazine) February 12, 2019
こちらもブラックフェイスなのでは?と批判が起こり商品をウェブサイトから取り下げました。
他のブランドも問題を起こしている
Abercrombie & Fitch
Abercrombie & Fitchはアジア人差別のT-シャツで問題になりました。
#USA: Abercrombie & Fitch sold T-shirts featuring caricatured #Asian faces with slanted eyes and rice-paddy hats. One has a slogan that says, “Wong Brothers Laundry Service — Two Wongs Can Make It White.”https://t.co/GHFoeBMo2l
— Ruth Hart (@RuthchartRuth) June 29, 2018
H&M
H&Mのシャツにも黒人差別的な文言が入っています。
It’s funny how any other time companies want to use curly haired mixed race and racially ambiguous kids in ads, but when you want to insult an entire race, you make sure to use a chocolate child ??♂️#h&m #hnm #HM #coolestmonkeyinthejungle pic.twitter.com/IRSaySQrE2
— Gemini Unboxed (@GeminiUnboxed) January 8, 2018
ZARA
ZARAは子ども用パジャマのデザインが強制収容所の服に似ていると指摘され問題になりました。
Zara has been selling a kids’ T-shirt that looks like a concentration camp uniform http://t.co/2aqiKFTyzi pic.twitter.com/IjIuaKPuOx
— Quartz (@qz) August 27, 2014
どうして繰り返されるのか? どうすればなくなるのか?
このように、ファッション業界では繰り返し人種差別的なデザインが問題になっています。なぜこのような問題が後を絶たないのでしょうか。その理由の一つとして、デザイン部門の人種構成が偏っているからではないか?と指摘されています。
映画監督のスパイク・リーはハイブランドで一連の人種差別的な問題が起こるのは、黒人デザイナーを起用していないからだと話しています。配慮に欠けたデザインが繰り返し起こる問題はその人種のデザイナーがいれば未然に防げたはずだ、だからGucciとPradaが黒人デザイナーを起用するまで購入しない、と声明を出しています。
単一文化の中で生活していると、他の人種、他の文化に対して配慮が疎かになりがちです。しかし、多様な文化や人種に商品を売る商売をしている限り、配慮は欠かしてはならないと思います。差別的な意思の有無に関わらず、誤解の無い、他人を不快にしないデザインを心がけてほしいものです。
このような問題がたびたび起こるのはファッション業界の体質にも一因があります。大手ブランドではデザイナーは大きな裁量を与えられ、経営陣も口出しできないことがあります。デザイナーに裁量があるのはクリエイティビティの尊重という意味では重要ですが、ブレーキがきかないのは問題です。どこかで法的な統制とクリエイティビティの折り合いをつける必要があると思います。クリエイティブであってしかも差別的だととられる表現をしないことは可能なはずです。
さらに問題なのはオーナー社長的なデザイナーで、デザインだけでなく個人の発言についても全く制御が効かないことがあります。ドルチェ&ガッバーナはその例です。ドルチェ&ガッバーナはアジア人に対する差別発言でショーが中止になり、不買運動にまで発展しました。
こちらの記事で扱っています。
華やかなファッション業界に潜む差別的な構造を一朝一夕に解消するのは難しそうです。まだまだ事件になるファッションブランドは出てくるでしょう。
参考:アングル:「黒塗りメイク」、なぜ米国でタブーであり続けるのか
Prada pulls products after accusations of blackface imagery
Image: Cartier Tea