アニメチャンネルは見やすくて、見ているとあっという間に時間が過ぎていきます。しかし、実はYouTubeに無数にあるアニメチャンネルの中には、子どもたちに決しておすすめできないものがあります。
なぜおすすめできないのか、YouTuberのジャーヴィス・ジョンソン(Jarvis Johnson)の動画を元に解説していきます。ジャーヴィスはPatreonでシニアエンジニアとして働いていましたが現在はYouTuberを本業にしています。
“ACTUALLY HAPPENED”は実話ではない
おすすめできないチャンネルの代表例は“ACTUALLY HAPPENED”です。
“ACTUALLY HAPPENED”の動画はカナダの急上昇にしばしばランク入りするほど再生回数が多い人気チャンネルです。本サイトでもこちらとこちらで取り上げています1。“ACTUALLY HAPPENED”は実話を元にアニメを構成しているとうたっていますが、実際は作り話です。
なぜ、作り話だとわかるのかというと、チャンネルの運営会社が脚本家を募集していたからです。こちらのジャーヴィスの動画では、“ACTUALLY HAPPENED”の脚本家に応募した人が運営会社から受け取ったメール内容を読み上げています。脚本家の業務内容は次の通りでした。
- 物語の主人公はアメリカのティーン(16歳まで)で同年代のティーンに受け入れられるような内容であるべき。
- 真実味があること。可能な限り実在のティーンが話しているように書く。作り話だと気付かれないように。
- 話題になるような物語を作る。悲しい物語、喜ばしい物語、物議をかもすような物語、恥ずかしい物語、奇妙な物語などなど。
- 実在の人がSNS上で公開している情報もできるだけ盛り込む。
- 物語は始まり、展開、結果の3つのパートを含む。
- アメリカの視聴者に向けて、物語の主人公は英語が第一言語の人だと思わせねばならない。
動画では、他にも“ACTUALLY HAPPENED”の物語が掲示板の内容をそのまま流用している証拠を紹介しています。
内容が不適切
“ACTUALLY HAPPENED”に投稿された動画“My Mom Woke Up From A Coma And It’s Terrifying”について。主人公のアリス(13)の母親が植物状態になってしまった、という内容です。ジャーヴィスは主人公と同じ境遇になった経験があるので内容に違和感があると話しています。
母親が植物状態になっている大変な時期に13歳の子が“ACTUALLY HAPPENED”のチャンネルを見つける→自分の話をする→アニメ化! その経緯が理解できない。
感情を揺さぶるような物語が実は盗作や作り話だと多くのティーンは気付きません。さらに、動画は「みんなはどうやってこの辛い時期を乗り越えますか? コメントしてね!」と話して終わります。
実話だと思い込ませ、感情が高ぶった視聴者にコメントを書き込ませようという魂胆が悪質だとジャーヴィスは指摘しています。
計算されたタイトル
“ACTUALLY HAPPENED”の動画タイトルには特徴があります。『私のお母さんはゲイ』、『私のお父さんの秘密』、『髪の毛のせいで停学になった』など衝撃的なものばかりです。
ジャーヴィスは視聴者の関心を引くために衝撃的なタイトルをつけていると指摘しています。
こちらの動画では、ジャーヴィスの元エンジニアとしての技術を生かして、“ACTUALLY HAPPENED”っぽいタイトルを自動生成するプログラムを作っています。このプログラムは、次のような“ACTUALLY HAPPENED”のタイトルの単語の並びを使って偽タイトルを自動生成します。
“ACTUALLY HAPPENED”のタイトルの最初に来やすい単語はMyだから最初の単語はMy、Myの次に出てきやすい単語はMomかDadだから次の単語はMom、Momの次に出てきやすい単語はWasかHadだから3番目の単語はHad、のように偽タイトルを作ります2。スマホで語句を入力すると、これまでの入力の履歴から次に出てきそうな語句の候補を表示してくれますね。この候補から勝手に選んで偽タイトルを作るようなイメージです。
面白いので、自動生成されたタイトルを紹介します。
偽彼氏がいたけど、何かを教えてもらった。
お父さんの最後の贈物を紛失してしまったが、贈物が私たち家族をコ○シてしまった。
僕の彼女はおばあちゃん。
うつ気味なんだけど、友達は私をベジタリアンだと思ってる。そしてお父さんは気が狂った。
ジャーヴィスは自動生成したタイトルを見られるサイト(こちら)も作っています。面白いタイトルがいくらでも出てくるので遊んでみてください。
動画を作っているのは何者?
“ACTUALLY HAPPENED”を運営している会社TheSoul Publishingのサイトを見ると、毎月1500本以上の動画を投稿していると書かれています。膨大な量のコンテンツです。
これだけ多産なのは、動画のアイディアを使い回しているからです。『私は12歳で妊娠した』という動画とそっくりな『私は15歳で妊娠した』、『私は16歳で妊娠した』という動画が投稿されています。
TheSoul Publishingは他にもYouTubeチャンネルを運営しています。“5 Minute Crafts3”や“Bright Side4”などのチャンネルです。TheSoul Publishingの本社はロシアにあります。“ACTUALLY HAPPENED”の英語がところどころおかしいのはそのせいです。
たとえば動画“I Thought I Was Smarter Than Burglars But Got Trapped”の主人公はアメリカ生まれで両親はメキシコ人だと言っていますが、声優はアメリカ式発音でもメキシコ人風発音でもありません。不自然です。
さらに、“ACTUALLY HAPPENED”のようなアニメチャンネルは他にもあります。再生回数が稼げるので類似のチャンネルも乱立するようです。
類似チャンネル一覧は以下のとおりです。
- My Pingu Tv – “Dina and the Prince”という動画では、王子が外見が変貌してしまった女の子にショックを受けるシーンがありました。この部分が人種差別的だと批判されていました。執筆時動画は削除されています。
- My Story Animated – 運営会社はイスラエルに本社があるZvoidという会社です。“I Am The Richest Girl At School And It’s Embarrassing”という動画ではお金持ちすぎる主人公が悩んでいます。
- Share My Story – “ACTUALLY HAPPENED”を真似しています。
- Teen Stories – “ACTUALLY HAPPENED”を真似しています。
- My Story – このチャンネルで頻繁に出演している声優はロシア的アメリカ南部なまり5をしているとジャーヴィスは話しています。“How I Got Pregnant At 12”では12歳の妊娠を美化しています。
これらのチャンネルを運営しているのはコンテンツファームだとジャーヴィスは話しています。
コンテンツファームの従業員は必ずしもアメリカ人ではありません。しかしアメリカのティーン向けに動画を投稿しています。アメリカの感覚からすると文化的・人種的な配慮に欠けているように感じられたり、発音や英語の文法や言い回しに違和感があったりするアニメ動画が多くあります。脚本家にはアメリカの視聴者に違和感を持たせない文章を求めていましたが、うまくいっていないのですね。英語を学ぶためにこれらのチャンネルの動画を視聴するのはおすすめしません。
こちらの動画で上記の内容をジャーヴィスが話しています。
問題ないチャンネルは?
“ACTUALLY HAPPENED”は“storybooth”を参考にしていると言われています。“storybooth”は実在の人が、本当に体験した話を元にアニメ制作をしています。ホームページでは、実話の募集をしています。声をあてているのは実話を投稿した本人です。
こちらは見ても問題はないでしょう。
ジャーヴィスのパロディ
ジャーヴィスはコンテンツファームの動画を研究した結果、パロディアニメチャンネルを作ってしまいました。チャンネル名は“THEY ACTUALLY ANIMATED MY STORY”です。
こちらの動画では主人公がぼやっとした話をしています。具体性がなく信憑性に乏しい“ACTUALLY HAPPENED”の動画を上手に皮肉っています。
こちらはある少年のストーリーです。両親を亡くした少年は意地悪なおじとおばの家に暮らしていたのですが、ある日魔法学校へ入学することになります。おや? どこかで聞いたことのあるような話ですね。
コメント欄にはこのような書き込みがありました。
そうそう。私の大好きな本『ギャリー・ボッターと魔法使いの岩』だね。もし興味が湧いたなら、著者はゲイ・ゲイ・ハウリングだよ。
偽物の「実話」を動画にする手法はロンリーガールフィフティーンのようですね。ちなみにジャーヴィスはfiverrでアニメ動画の制作を依頼したようで、$100ほどだったそうです。
【2021年3月7日追記】ACTUALLY HAPPENEDなど多数の質の低いコンテンツを量産していた会社TheSoul Publishingについて掘り下げた記事を書きました。こちらをごらんください。
参考:The Worst Animated Stories On Youtube (My Story Animated)
【2019年12月8日】タイトルを変更しました。
Image: Jarvis Johnson
注
- 記事にしているだけで計4回トレンド入りしていた。
- ジャーヴィスはAIが作ったみたいなタイトルだからマルコフ連鎖でやったみたと言っている。マルコフ連鎖の実装では、Myの後に“ACTUALLY HAPPENED”のタイトルでMomが出てきた回数とDadが出てきた回数にそれぞれ比例する確率でMomもしくはDadを置くなどとする。ここでは簡略化して1次マルコフ過程で説明したが、ジャーヴィスの自動生成プログラムの出力を見られるサイトで出てくるタイトルはそこそこ自然なので、2次マルコフ過程か3次マルコフ過程を使っているかも。
- “Trying 5-Minute Crafts’s Worst Life Hacks”などジャーヴィスは4本の動画で“5 Minute Crafts”の動画を批判している。
- ジャーヴィスは“The Dark Side of BRIGHT SIDE”という動画で“Bright Side”のチャンネルを批判している。ジャーヴィスの執念を感じる。
- ジャーヴィスの冗談。