ポートランド、オレゴン州で撮影されたこのような動画がソーシャルメディアで拡散されています。
As federal officers shoo militants away from the fence, Antifa responds with green lasers. Several Portland police officers and federal agents have been permanently blinded by these devices. pic.twitter.com/R4DpUdqIcj
— Ian Miles Cheong (@stillgray) July 25, 2020
武力衝突が起きています。
ポートランドの現状を、2016年のダコタ・アクセス・パイプラインのデモ隊と軍の衝突に例える人もいます。
(2020年9月27日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
ポートランドの映像は平時の風景ではありません。映っているのは軍隊でしょうか、治安部隊でしょうか? 通常の治安部隊より物々しく見えます。また、不思議なことに制服や装備が統一されていません。一体ポートランドでは何が起こっているのでしょう?
本記事では、ポートランドで今、何が起こっているのかをお伝えします。
経緯
ポートランドはオレゴン州最大の都市で、米国西海岸北部の中心地の一つです。
ポートランドでの抗議活動は、2020年5月25日にミネアポリスで起きたジョージ・フロイドさんの事件を受けて始まりました。ミネアポリスの事件は全米各地で抗議活動を引き起こしました。ミネアポリスについては本サイトのこちらの記事で紹介しています。
こちらの記事に、ポートランドでの初期の抗議活動の様子が報じられています。NBC系列のポートランドのテレビ局KGWのサイトです。
大部分の参加者は平和的な抗議活動を行っていました。一部は暴徒化し、放火や破壊を行いました。デモ隊と警官隊との小規模な衝突があり、一日あたり数十人が逮捕されていたようです。ここまでは、米国内のほかの都市の抗議活動と同様です。
ポートランド市のテッド・ウィーラー(Ted Wheeler)市長は秩序回復のため、6月1日には州知事に州兵の派遣を要請しました。同日、派遣が決定されています。この時点で沈静化のため州兵が動員された州はおよそ20で、これも目立つ動きではありません。
連邦治安部隊の投入
事態が急変したのは7月4日です。沈静化しない抗議活動を受けて、トランプ大統領が連邦治安部隊の投入を決定します。これは、連邦裁判所(Mark O. Hatfield U.S. Courthouse)の近辺が抗議活動の中心地となっていたため、連邦の所有物を守るのが目的とされています。ここで抗議活動の参加者と市・州の地方政府以外に、新たに連邦政府というプレイヤーが登場したことになります。
冒頭に紹介したツイートの写真などで見られるのが投入された連邦治安部隊です。構成についてはこちらの動画の9:20から説明されています。
投入されている治安部隊は、連邦保安官(U.S. Marshals)、連邦防護局(Federal Protective Service)、税関・国境警備局(U.S. Customs and Border Protection)、国土安全保障捜査(Homeland Security Investigations)です。様々な部隊を集めたため装備がばらばらだったことになります。
寄せ集めの部隊であるためか、何かほかの理由があるのか、何の徽章もつけていない車で乗り付け、抗議活動の参加者を連れ去っていく様子が動画にとらえられています。
Militarized Federal Agents from a patchwork of outside agencies have begun policing Portland (in rented minivans vans) without the explicit approval of the mayor, the state, or local municipalities. This is what that looks like in practice: pic.twitter.com/losap4SsgI
— The Sparrow Project (@sparrowmedia) July 15, 2020
準軍事組織が徽章をつけずに市民を逮捕するのは建国の父たちの理想のとおりだ、という皮肉も出ています。
(2020年8月21日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
通常、徽章をつけることで治安部隊以外の勢力(過激組織や外国の諜報機関)が治安部隊になりすますことを防ぎます。徽章がなくてはそのような勢力なのか治安部隊なのかわかりません1。
こちらのNew York Timesの動画では、治安部隊が徽章を外して所属がわからないようにしていると指摘されています。
こちらの映像では、自転車に乗った人物を治安部隊が倒して押さえ込んでいます。
WATCH – Portland Police officers knock a protester off of his bicycle and arrest him outside of Lownsdale Square Park near the Federal Courthouse downtown #LiveOnK2 pic.twitter.com/tow0GzeyzW
— Dan McCarthy (@DanMcKATU) July 16, 2020
こちらの動画では治安部隊が無抵抗のデモ参加者を殴り、催涙スプレーを吹きかけています。
(2024年11月17日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
この参加者は53歳の退役海軍軍人、クリス・デイヴィッドさんでした。徽章をつけていない車が人々を連れ去るのを見て抗議活動に参加しようと思ったそうです。
(2024年6月8日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
クリスさんは「治安部隊は徽章を外して人々を逮捕していた。これでは誰かがなりすますこともできてしまう。私は憲法を守ると誓って海軍で働いた。彼らの行動は違憲だ。」と語っています。
“I don’t know who they are still. I don’t even know what agency they are from.”
Navy veteran describes “absolutely shocking” clash with federal officers during Portland demonstration: “I wasn’t a human being to them…I was a target.” https://t.co/Sf3XN2K0y2 pic.twitter.com/2umBvKIqbh
— ABC News (@ABC) July 25, 2020
この動きを受けて、7月20日、ポートランド市の市長は、「連邦治安部隊の到着以前に事態は沈静化しつつあった。連邦治安部隊の介入は逆に抗議活動を激化させている。」と批判しました。
ここに至って地方政府と連邦政府の対立は鮮明になり、7月22日、市当局は市の警官に連邦治安部隊に協力することを禁ずる指令を出しました。
また、州政府は連邦政府に対して連邦治安部隊による市民の逮捕をやめるように要求しますが、連邦政府は拒否しています。
7月23日には市長が抗議デモに参加し、連邦治安部隊に催涙ガスを浴びせられました。
対立の背景にあるもの
抗議活動は8週にも及び、収束は見通せません。
連邦政府と地方政府の対立の背景には党派的対立があるとする指摘もあります。オレゴン州の州知事も、ポートランド市の市長も民主党選出で、共和党のトランプ大統領のターゲットになったという声です。
党派対立を受けて、紹介したツイートや動画のコメント欄の意見はかなり大きく割れています。
デモに反対し連邦治安部隊の派遣を支持する人々は、「これはもはや平和的デモ参加者ではなく凶悪な暴徒だ」と主張しています。クリスさんの動画にも「いくらで雇われたんだ?」、「暴徒の中にいれば殴られてもしょうがない」という意見がありました。他の地域から運動のために集まった参加者もおり、暴動を扇動する輩とみなす向きもあるようです2。
一方、デモ参加者の側に立つ人は、「国家権力による民主主義の圧殺だ」と主張しています。クリスさんの動画には、「彼こそがアメリカの英雄だ」という意見がありました。「トランプのゲシュタポに立ち向かえ」という声もあります2。建国の理念である自治の危機を感じているようです。
二つの立場の隔たりは大きく、妥協点は見いだしがたいように思われます。政府の目指す暴徒の排除と、運動参加者の目指す連邦治安部隊の撤退が真っ向から対立しています。
ポートランドの運動の出発点はブラック・ライブズ・マターだったはずですが、今ではそこは焦点ではなくなっているようです。ブラック・ライブズ・マター運動であれば、何らかの政治的宣言や措置が区切りになりえます。しかし、ポートランドの現在の抗議運動にはそのような区切りがありません。連邦治安部隊に対する抵抗以外に明確な争点を失っているため、勝利はありません。
治安部隊も、強権的な対応がかえって抗議運動に力を与えてしまっているようです。運動参加者を全員逮捕するのでもなければ鎮圧にはかなりの時間がかかるでしょう。
今のところ、報道されるのは夜間の映像ばかりです。昼間は平和的抗議活動が行われ、夜間は破壊行為が行われる傾向があります。抗議と鎮圧が過激化している様子が窺われます。本来目指されていたものが見失われているのかもしれません。
双方ともに振り上げた拳の行き場に困っているようです。
注
- ただし、The Nationの記事によれば国土安全保障省の部隊には任務中に徽章をつける義務は規定されていない。
- 暴徒の中に犯罪歴のある人物が含まれているという指摘もされているが未確認。運動参加者が扇動者を取り囲んで詰問する様子をおさめた動画もある。