人生の節目にさしかかったとき、人は人生行路の指針を求めます。指針になるのは人によって宗教だったり哲学だったり占いだったりしますが、YouTuberのピューディパイ(PewDiePie)の場合は哲学だったようです。
2020年にYouTubeの動画投稿を一時休止すると発表したピューディパイ。
発表から一日も経たないうちに、今度はこれまで使っていたTwitterアカウントのツイートを全消ししてしまいました。
その心境は
その心境をこちらの動画で語っています。タイトルは“I hate twitter”。ド直球です。
他人の行動の善悪をあげつらって、自分は善人ぶる。それでいいねを増やす。そんな連中が多すぎる。
自分が善人だって言ってるけど行動を見るとウソだってわかる人が多いよね。
話は「善」と何であるかに及びます。そして古代ギリシャの哲学者アリストテレースが『ニコマコス倫理学』で述べた見解を紹介します。第1巻に最高善とは幸福のことであると書かれているのは正しいと思う、と語ります。
2000年以上も前に答えの出ていた問題に今の自己啓発本が答えようとしているのはおかしいね。
ソークラテースはたぶん史上最高の哲学者で、その弟子のプラトーンは自分のお気に入りの哲学者ですばらしい文章家、その学園(アカデーメイア)に入学したのがアリストテレース、その弟子がアレクサンドロスクソ大王、とピューディパイは語ります。
『ニコマコス倫理学』
アリストテレースの講義録とされる『ニコマコス倫理学』には善行を一つすれば善人になれるわけではなく、善行をし続ける必要があり、習慣づけが必要だとある、とピューディパイは語り、子どもの頃のしつけを思い出しています。子どもも人工知能もいろいろな試行錯誤して学びますが、それは幸福になれる行動を探しているのです。
幸福(εὐδαιμονία)とは何でしょう? お金が欲しいのは何か「もの」がほしいからですが、それは結局はその「もの」で満足を得て幸福になりたいのです。アリストテレースの見解によれば、なんであれ過剰も欠乏もだめで、中庸を得ている状態が善であり幸福であり徳のある状態です。たとえば、臆病なのも向こう見ずなのものも駄目で、適度な勇気を持つのが優れた状態です。
このあたりのことは『ニコマコス倫理学』では次のように書かれています。
οὕτω δὴ πᾶς ἑπιστήμων τὴν ὑπερβολὴν μὲν καὶ τὴν ἔλλειψιν φεύγει, τὸ δὲ μέσον ζητεῖ καὶ τοῦθ’ αἱρεῖται1
このように、もののわかった人はみな超過と不足を避け、「中(μέσον)」 を求め、選ぶ。
διὸ κατὰ μὲν τὴν οὐσίαν καὶ τὸν λόγον τὸν τὸ τί ἦν εἶναι λέγοντα μεσότης ἐστὶν ἡ ἀρετή, κατὰ δὲ τὸ ἄριστον καὶ τὸ εὖ ἀκρότης2
ゆえに、実体とそれが何であるかという言葉(=定義)に関しては徳3は中庸4であるが、最善性とか「よさ」に関しては頂点である。
火事の家に飛び込んで取り残された人を救い出したらすごいけど、自分も犠牲者になったらだめだよ。
自分にどれだけのことができると思っているかと、実際に自分に何ができるかの食い違いがあるのは不幸だとピューディパイは語ります。動画の最後の彼の結論はこうです。
ともかくTwitterはクソ。
長々と語った結論は結局そこでした。
YouTuberの代表格になってしまい、メディアやSNS上の人々から攻撃をよく受けるので、思うところが色々あるようです。
ピューディパイはこちらの記事で取り上げた動画では仏教の本を読んだと言っていました。
中庸の徳については、『ニコマコス倫理学』と近いことを四書の一つ『中庸』も語っています。ピューディパイが東洋の古典も語ったらファンは喜ぶのではないでしょうか。
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