新型コロナウイルスは人工的に作られた、これは誰かの陰謀だ!──こんな意見があります。新型コロナウイルスなんてない!とか、マスクをつけると感染しやすくなる!という主張もあります。
今回は、陰謀論(トンデモ説)と陰謀論への反駁を紹介します。
以前にこちらの記事でも新型コロナウイルスに関するデマを取り上げました。
陰謀論のいろいろ
もちろんこのような主張は明らかに根拠のない陰謀論です。しかし、陰謀論だからといって馬鹿にできません。各国で外出規制に反対するデモがありましたが、陰謀論を信じて参加した人もいたようです。
こちらの動画では、SNSで流布した様々な怪しいウワサが取り上げられています。
保健当局の陰謀だとか、コロナウイルスワクチンを口実にビル・ゲイツが人々にマイクロチップを埋め込もうとしているとか、生物兵器だとか、荒唐無稽なウワサが出回っているようです。感染症の恐怖や、外出できないストレスが流言飛語を加速させたのかもしれません。
一時期に比べれば医療体制に余裕が出ていますが、各国で新型コロナウイルスの感染者は依然として増えています。今後、陰謀論が社会の動きを左右するかもしれません。
Doctor Mikeの動画
このような陰謀論やウワサを検証した動画を紹介します。2020年5月に出た動画で、やや古くなってしまいましたが、陰謀論に一つ一つ真正面から反論しているので、取り上げます。
チャンネルはDoctor Mikeです。
おもに検証しているのはJudy Mikovits(ジュディ・ミコヴィッツ)のインタビュー動画(現在はYouTubeからは削除されています)1です。彼女は過去に実験結果を捏造した疑いがあり、訴えられています。動画を制作したのはこれまでも陰謀論を広めてきた会社です。
保健当局への攻撃
ジュディはインタビュー動画で国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長を攻撃しています。彼がかかわったHIVのIL-2療法2は誤っており、それによって何百万人もの患者が死んだと言っていますが、これには根拠がありません。
政府の研究費で得られた成果による特許を政府と大学の共同所有とする法律3も攻撃されていますが、ドクター・マイクによればこれも見当違いな攻撃です。政府のみの所有にすると政府は特許を実用化せず放置してしまい、大学のみの所有にすると企業と結託して薬価をつり上げるので、バランスをとるために採用された制度だからです。
ファウチ所長はトランプ大統領と意見の対立があると報道されており、保守派から攻撃を受けているようです。社会全体が苦境に立ったときにたまたまテレビによく出ていた人が嫌われるという効果もありそうです。
結論:ファウチ所長を攻撃する根拠なし
ビル・ゲイツへの攻撃
ジュディは、ビル・ゲイツが医学的知識もないのにワクチン開発などに影響力を持っているのはおかしい、と攻撃しています。
ドクター・マイクによればこれもいわれのない攻撃です。ビル・ゲイツは研究のための資金は提供していますが、研究の方向性を決めているわけではありません。研究を支援したからといって、彼の財団が特許権を得て利益を上げるわけでもありません。
結論:ビル・ゲイツに非はない
人工説
ジュディはウイルスは自然に発生したものではない、と主張しています。人工的に作られたというのです。これはよく見る陰謀論です。
ドクター・マイクは、ウイルスの遺伝系統樹解析で動物に感染するコロナウイルスがヒトに感染する新型コロナウイルスに変異したことがわかっていると反駁しています4。
「遺伝子の挿入部位がある」と記載された論文を「遺伝子に人工的に挿入された部位がある」と誤読して騒いでいる例もあるようです。DNAに新たな配列の挿入が起こることは自然界でもよくあります。
結論:人工説を裏付ける根拠なし
水増しだと糾弾
ジュディは別の死因による死者が新型コロナウイルスによる死者だと報告されていると主張しています。新型コロナウイルス患者を受け入れると$13k(約140万円)、人工呼吸器につなぐと$39k(約420万円)の補助金がつくからだというのです。
しかし、ドクター・マイクによれば、ニューヨークでは今年3月の死亡率が直近の10年間と比較して極端に跳ね上がっており(動画11:28)、死因の付け替えだけでは説明がつきません。また、補助金は適正額で、もしなければ入院費用をカバーできないのです。
結論:死亡率が跳ね上がっているから水増しではない
ワクチンを攻撃
ジュディはイタリアで感染が拡大したのは、インフルエンザワクチンを作るために使われた動物の細胞にコロナウイルスが含まれていたせいだと主張しています。
しかし、ドクター・マイクは、含まれるとしてもその動物のコロナウイルスであって、ヒトに感染する新型コロナウイルスではない、と一刀両断しています。
結論:インフルエンザワクチンは無関係
トニックウォーター
一時期、抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンが効くのではないかと言われていました。トランプ大統領も服用を公言していました。
ドクター・マイクは、効果はまだ確証されておらず、自分の知る限りで著効はない、と言っています。トニックウォーターにわずかに(ヒドロキシクロロキンと類似する物質の)キニーネが含まれるので、飲用を勧める動画も引用されていますが、効果(がもしあるとしても)が出るためには一日何十リットルも飲む必要があるので無理だそうです。
この動画が投稿された後で、アメリカ食品医薬品局5はヒドロキシクロロキンを自己判断で服用するのは推奨しないと発表しています。
ヒドロキシクロロキンが効くと思うという医師が多い、というアンケート調査があるようですが、もちろん新しい病気ですから医師にも共通見解はまだありません。大切なのは臨床試験だ、とドクター・マイクはまとめています。
結論:トニックウォーターを飲んでも無駄 とにかく臨床試験の結果待ち
このほか、スラミンが自閉症を治す!という奇妙な主張もジュディはしていますが、本筋と関係ないので省略します6。
インフルエンザワクチンを攻撃
ジュディはインフルエンザワクチンを摂種すると新型コロナウイルスに感染しやすくなると主張しています。
根拠となっているのはこちらの論文のようですが、ドクター・マイクによれば的外れです。インフルエンザワクチンを摂種するとほかのウイルスに感染しにくくなったり、しやすくなったりするという報告ですが、この論文で調べられているのは新型コロナウイルスではなく、以前から知られていた風邪の原因になるコロナウイルスです。
結論:インフルエンザワクチンによる悪影響の根拠なし
マスクが体内のウイルスを活性化するので有害だ、という主張もされているようですが、ドクター・マイク曰く、理解不能、でした。
反論は大切
以上、ドクター・マイクによる陰謀説の反駁でした。
陰謀論者は往々にして主張が意味不明で、その都度、自分の都合のよいことだけを言います。反駁すれば別の(元の発言と矛盾する)「証拠」を出してきます。客観的証拠の説得力よりもレトリックの説得力で人々を説き伏せます。人々の恐怖をあおり不安につけ込んで金儲けを企むことも稀ではありません。標準的な治療を受けない人が出てくることによる社会的な損失は計り知れません。丁寧に反駁するドクター・マイクには頭が下がります。
ドクター・マイクはこちらの記事でも取り上げています。