アメリカ大統領選挙の民主党の候補者選びに予期せぬ暗雲が立ちこめています。
2020年2月3日、アイオワ州からアメリカ大統領選の民主党予備選挙が始まりました。共和党の現職トランプ大統領への対抗馬を全国でこれから数か月かけて選びます。
アイオワ州で何が起こったのでしょうか? それは、
- いっこうに発表されない結果
- 勝手に勝利宣言をする候補者
- 集計システム開発会社の黒い疑惑
でした。以下、アメリカでの報道に即してお伝えします。
アメリカ大統領選の仕組みをおさらい
詳しい方はこの節は読み飛ばしてください。また、用語を知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
2020年はアメリカの大統領選挙の年です。候補者は二大政党の民主党と共和党から出ます。共和党の候補者は現職トランプ大統領です1。民主党の候補者はこれから各州の予備選挙を経て7月に決まります。最初の予備選挙がアイオワ州の党員集会です。
民主党から名乗りを上げている主要な人物はバーニー・サンダース、ジョー・バイデン、エリザベス・ウォーレン、マイケル・ブルームバーグ、ピート・ブティジェッジ、エイミー・クロブシャーです(数日前のNBCニュースの調査の支持率順)。
集会はアイオワ州内の2000近い予備選の選挙区(precinct)で行われ、集計されます。
「何かがおかしい」
党員集会は2月3日、アイオワ州内の各地で行われ、午後8時に終了しました。ただちに集計が始まるはずでしたが、何らかの異常が発生しました。
当初、「何かがおかしい」「品質管理のために手間がかかっている」などと報道されていましたが、判明したのは集計システムの深刻な問題でした。
原因は今回始めて導入されたスマートフォンのアプリでした。プロセスの透明性を上げるために、各地区の集会から州民主党本部へ集計結果を送るアプリが導入されたのです1。しかし、方々の集会でアプリをダウンロードできない、アプリにログインできないという問題が起こりました。
アプリなしでできることをアプリでしようとしないこと。
Never use an app for a thing that can be done without an app.
— Chris Hayes (@chrislhayes) February 4, 2020
今のところ、アプリの不具合はサイバー攻撃によるものではないと報道されています。
このアプリは今後ネバダ州の党員集会でも使われる予定です。アプリにセキュリティ上の問題があることは以前に指摘されていたようです。
勝ったと叫び始める候補者
党員集会の後は、候補者たちが支持者に向けて演説をするのが慣例です。結果が発表されないことにしびれを切らした候補者たちが、「自陣営の勝利を確信している」と支持者を鼓舞する演説を披露し始めました。
そんな中、一線を越えてしまったのが主要候補の中でもっとも若いピート・ブティジェッジ元サウスベンド市長です。
(正式発表は何もないのに)勝利宣言をし、「今夜、アイオワは新しい道を選び取った」と熱っぽく語り、夫を未来のファーストジェントルマン1とたたえました。陣営を元気づけ、資金を集めるためです1。
これは危険な賭けです。結果が正式に発表されるまでは、資金と印象でほかの候補を圧倒できます。しかし、もし実は敗北だったとなれば、笑いものです。
誰が勝者なのでしょうか? それはまだ発表されていません。しかし敗者は明らかです。こちらの記事のタイトルにあるとおり、「アイオワ州民主党本部」です。
(2020年2月20日追記:再集計の結果、代議員獲得はブティジェッジ候補が僅差で勝利しました。)
アプリを開発した会社の黒いウワサ
アプリを開発した会社が怪しいという意見もあります。
どうも心証が悪いね。
- 民主党はShadowと呼ばれる会社にアプリを作らせた
- 連邦選挙委員会によればブティジェッジの陣営もShadow社にお金を払った
- アプリは動かない
- ブティジェッジは結果が出てないのに勝ったと言ってる
Not great optics here, folks:
– Dems paid company literally called Shadow to create caucus app
– Buttigieg campaign also paid Shadow, FEC records show
– Caucus app fails
– Buttigieg declares himself Iowa winner with no results— Walker Bragman (@WalkerBragman) February 4, 2020
こちらのスクリーンショットでは、Shadow社で働く人々(COOやCTO、マネージャーなど)が、ヒラリー・クリントンの選挙活動に関わっていた職歴が明らかにされています。
— Josh Harris Photography (@Heterodoxious) February 4, 2020
Shadow社の公式アカウントがフォローしている79アカウントのうち一つが、先週バーニー・サンダースを攻撃する広告を打った元締めのアカウント“Democratic Majority for Israel”だ。
(2020年5月24日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)
元市長ピート・ブティジェッジが勝利宣言した後、ハフポがピートの資金管理団体が問題のアプリを開発したShadow社に$21,000(約230万円)を支払ったと報じている。
Moments after Mayor Pete’s bizarre victory speech, HuffPo confirms that Buttigeig’s fundraising entity paid >$21,000 to developer “Shadow” for the app that’s broke the Iowa Caucus…here’s that clip… pic.twitter.com/HzYmbc480D
— Brook Hines ? (@nashville_brook) February 4, 2020
これは国を揺るがすスキャンダルだ。卑怯なピートが不正を働いた。
This is a national scandal. Pete the ? is playing dirty. https://t.co/q6oPZqeiy0
— The Humanist Report? (@HumanistReport) February 4, 2020
バーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンを支持する左派は、ヒラリー・クリントンやピート・ブティジェッジなどの民主党主流派に対する強い不信感があり、この件を強く非難しているようです。これが正真正銘のスキャンダルなのか、欠陥アプリと目立ちたがり屋が即興で繰り出した茶番劇なのか、続報が待たれます。
参考:Live Blog / Iowa caucus live updates: Results and analysis from the first 2020 Democratic contest