研究によると、トランプ氏の支持者は、子どもについて、自立心より年長者への敬意が大切で、思いやりよりしつけの良さが大切だと考える傾向が強かった。この考えを持つ人々は外国勢力の脅威を強く感じている傾向もあった。
子どもにとって、自立心を持つのと年長者への敬意を持つのは、どちらが大切だと思いますか? この質問への回答からどのような政治家を支持するかがわかる、という話です。
今アメリカは政治的に分断されている、とよく言われます。トランプ大統領の支持者と反対者は鋭く対立しています。彼らの違いはどこにあるのでしょう? トランプ大統領の支持層はキリスト教福音派だから信仰心の篤さ? ラストベルトが地盤だから経済状態? それとも白人からの支持が強いから人種? Voxの動画によれば、どれも違います。
以下は次の動画とこちらの書籍に基づいています。
トランプ氏への支持と相関する指標
動画はマシュー・C・マクウィリアムズ(Matthew C. MacWilliams)氏(当時マサチューセッツ大学アマースト校大学院に在学)の2016年に発表された研究に基づいています。Voxも同様の調査をしています。
マクウィリアムズ氏は、アンケートの4つの質問に対する回答が、トランプ氏(研究当時はまだ大統領候補者)への支持と強く相関することを発見しました。
その四つの質問とは、子どもについて2つのうちのどちらが好ましいかを問うものです1。
- 自立心と年長者への敬意(Independence or Respect for Elders)
- 好奇心とお行儀(Curiosity or Good Manners)
- 従順さと独立心(Obedience or Self-Reliance)
- 思いやりとしつけの良さ(Considerate or Well Behaved)
この4つの質問で、太字の方が好ましいと答えた数が多い人はトランプ氏を支持する傾向がありました。
性別・教育の程度・年齢・信仰心の篤さ・人種・収入などはトランプ氏への支持と明確に相関していませんでした。4つの質問以外でトランプ氏の支持と有意に相関していたのはテロへの脅威を感じているかどうかでした。
この4つの質問への回答はトランプ氏以外の共和党候補者(ルビオ氏・クルーズ氏・ブッシュ氏・カーソン氏)への支持とは相関しませんでした。
4つの質問への回答は何の指標なのか?
この4つの質問への回答からわかる政治的傾向は何なのでしょうか? この4つの質問は、一般に権威主義(authoritarianism)的な特徴を測るものとされています。権威主義的な特徴を持つ人は、秩序を求めて権威に従い、既存の権威を守ろうとします。この「権威」は人物ではなく憲法などの理念のこともあります。
ちなみに、権威主義的な特徴を測るために、もっと直接的に政治的見解を聞くのではなく、子どもの育て方について質問しているのは、その方が正直に答えてもらえるからだそうです。
権威主義的な人は必ずしも保守的ではありません。保守的な人は変化全般を嫌いますが、権威主義的な人は社会全体の変化には従おうとします。
トランプ氏支持者の秩序を重視し権威に従う態度は別の質問への回答からも裏付けられます。トランプ氏支持者は「別々の社会的集団は別々に暮らすべきか」「少数派の権利は多数派の権力から守られる必要はないか」に対してyesと答える傾向が強いのです。
このような考え方を持つ人々が、多様化する社会の中で強い指導者を求めた結果、トランプ氏が支持を集めたということになります。「不法移民」対「アメリカ国民」、「一握りのエリート」対「一般庶民」のように「彼ら」と「我々」を分けるやり方が、妥協を模索するやり方よりも、権威主義的な人々の支持を集めたわけです。
権威主義的な特徴をもつ人はテロリスト・イラン政府・ロシア政府への脅威も強く感じている傾向があることもVoxの調査でわかりました。
動画では、権威主義的な傾向のある人はもとは民主党の支持者にも共和党の支持者にもいたが、近年は共和党の支持者に多くなっている、とも述べられています2。
動画は、トランプ氏は特異な人物ではなく、トランプ氏のような政治家は今後たくさん出てくるだろう、と締めくくられています。これは私見ですが、人々の権威主義的な傾向によって支持される政治家はアメリカ以外の国でも出現しうるし、実際に出現しているでしょう。
Image: The Circus on SHOWTIME