本記事はこちらの二つの記事の続きです。2020年10月に発生した美容YouTuberタティ周辺の訴訟について解説します。
美容YouTuberたちの活動が停滞し、事件らしい事件がなくなっていた2020年秋。10月末に美容YouTuberタティの周辺から相次いで飛び出してきた2件の訴訟は青天の霹靂でした。
一つはタティと夫ジェームズがHalo Beautyの共同経営者から訴えられたというもの。
もう一つはこの訴訟を最初に報じたウィザウト・ア・クリスタルボール(Without a Crystal Ball、以下ボール)がタティから訴えられたというものでした。
この二つの訴訟が前後して報じられましたが、直接の関係があるかどうかは不明です。タティによる訴状にはボールの動画の内容が詳細に書かれていました。そのため、数か月前から準備していたものを、Halo Beautyの共同経営者からの告訴をボールが報じたのを受けて出したと思われます。
以下、ここに至るまでの出来事から、背後に何があったのかについて説明します。
サプリメントの遺恨
タティは誠実な人柄で美容YouTuberとして堅実にキャリアを築いていました。しかし2019年に後輩の美容YouTuberジェームズ・チャールズの不義理を告発する動画を投稿しています。タティの動画はジェームズを大炎上させ、ジェームズは登録者を300万人以上失いました。ドラマゲドン2と呼ばれる事件です。
前後の経緯についてはこちらの記事をごらんください。
告発のきっかけは「タティのサプリメント会社Halo Beautyのライバル社のサプリメントをジェームズが宣伝したから」でした。タティはジェームズの裏切りをどうしても許せなかったようです。YouTuberが様々な商品を宣伝するのはよくあることなので、なぜライバル社の宣伝が許せなかったのか、疑問が残っていました。
タティがHalo Beautyの共同経営者に訴えられた1訴状を読むと、タティが後輩ジェームズを辛辣に攻撃した理由が少し理解できます。
訴状によれば、タティは共同経営者へ「自分のチャンネルで宣伝すればサプリメントは簡単に売れる。知り合いである有名美容YouTuberたちもそれぞれブランドを立ち上げる予定だ。交互にそれぞれのブランドを宣伝するので、自分の商品も宣伝してくれる」と豪語していたそうです。
ジェームズが他社のサプリメントを宣伝したことで、タティのメンツは丸つぶれになりました。これがタティがジェームズに激怒した理由だったとみられます。
タティの低迷
ボールは2019年からタティと夫ジェームズの過去について独自調査し、動画として投稿しています。夫ジェームズが過去のビジネスパートナーおよび家族とも訴訟を抱えていると語っています。
タティと夫ジェームズはボールにこれらの動画を取り下げるようにたびたび警告してきましたが、ボールは拒否していたようです。
タティのYouTubeチャンネルは2019年5月にジェームズ・チャールズを告発した際、数百万人の登録者を増やしました。しかしその後は一定して減り続けています。
2020年6月には、ドラマゲドン2でジェームズ・チャールズを告発したのは、同じくYouTuberのジェフリー・スターとシェーン・ドーソンにそそのかされたからだったと告白しています。しかし、タティの評判は回復せず、登録者数の減少も止まっていません2。
かつての誠実な印象が失われたため、人気が低迷してしまったようです。
インフルエンサーのイメージについて
Halo Beautyの共同経営者がタティと夫ジェームズに要求している金額は「2万5000ドル(約250万円)以上」です。訴状に書かれているHalo Beautyの収益(年間数億円)と比べると非常に少額であることに驚かされます。
共同経営者がタティに要求する金額が極端に低い理由は何なのでしょうか?
おそらく、「評判」・「イメージ」が理由です。現代のインフルエンサーマーケティングで一番大切なのは、インフルエンサーのイメージです。タティのコスメはタティのイメージで売っていました。イメージが下がればコスメは売れなくなります。
共同経営者が狙っているのはタティと夫ジェームズのイメージを落とし、今後の商売をつぶすことです。確かに、ボールが公開した訴状は夫妻の評判を落とす目的を見事に達成しました。
共同経営者は自分から詐欺的な手段で会社を奪ったウェストブルック夫妻から会社や金を取り戻せるとは思っていないようです。ボールが(タティから今回訴えられる理由になった)動画で主張しているように、夫ジェームズはこれまでいくつも訴訟を起こされているようです。夫妻はカリフォルニアからワシントン州3に引っ越したのも裁判を有利に進めるための可能性もあります。
一方、タティがボールに要求している賠償金額は「7万5000ドル(約750万円)以上」です。タティは自らのイメージを回復させるため、ボールをなんとしてでも黙らせようとしています。動画の公開を止めさせるのがタティの狙いでしょう4。
タティと夫ジェームズの評判は、たとえボールを黙らせたとしても回復しません。夫妻は勝ち目のない戦いに追い込まれたようです。
私見
これまでも繰り返し書いてきましたが、アメリカのYouTube美容界は炎上の多い界隈です。また、これも機会があれば書いてきましたが、その中ではタティは品がよく、2018年以前までは炎上と無縁な印象があるYouTuberでした。
2019年のドラマゲドン2以前のタティには、正直で信用できるイメージがありました5。
しかし、ドラマゲドン2以降の事件を見れば、タティも信用できないYouTuberに仲間入りしてしまったのは疑いの余地がありません。儲けるために好感度の高いイメージを作り上げたのか、元は正直な人だったのに美容YouTuberとして成功して変わってしまったのかはわかりません。
個人YouTuberで登録者数一番のピューディパイは、タティを批判しています。ジェームズを大炎上させた責任をとらず、他人のせいにしているタティに納得出来ないようです。
Image: Tati Westbrook SUED – UPDATE
注
- タティが訴えられたと最初に報じたのがボールだった。
- 一週間に登録者が1万人減るペースを維持している。通常YouTuberは人気がなくなっても登録者数が伸びなくなるか、伸びが悪くなるかであり、登録者数の減少が一定して続くことはない。タティのチャンネルの挙動はきわめて異例である。
- シアトル(ワシントン州)にテック関係者などの知人が多いとタティは語っていた。
- しかしボールが黙ったところで夫ジェームズの過去はよく知られてしまっているし、タティのイメージが悪化したのはボールのせいというよりは、(ボールが主張するように)タティが公開した『バイ・シスター』と『沈黙を破ります』のせいだろう。
- 個人的に美容YouTuberの中で一番好きだったのがタティで、商品に一番魅力を感じたのもタティだった。