動力なしで風より速く走れる車の動画を以前の記事で取り上げました。
本記事はその後日談です。物理学の専門家からこの動画の内容は間違っていると指摘があり、1万ドル(約100万円)を賭けて対決することになりました。
前の動画のおさらい
論争になったのはVeritasiumのこちらの動画で取り上げられた「風力自動車」です。
この車には動力はありません。プロペラと後輪がチェーンでつながっています。「風力自動車」と書きましたが、実はプロペラは風を受けるためのものではありません。後輪が回転するとそれによってプロペラが回り、車体を前進させます。追い風を受けると車体が前に進み、車輪の回転がプロペラの回転になって加速する仕掛けです。
一見、奇妙ですが、実験してみると追い風の数倍の速度で走れることがわかりました。
挑戦を受ける
この現象はおかしい、説明も間違っている、という声を上げる人が出てきました。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校のアレックス・クセンコ(Alex Kusenko)教授です。
Veritasiumのデレクが「じゃあ1万ドル賭けませんか」と持ちかけると、なんと賭けをすることになりました。しかもニール・デグラス・タイソン、ビル・ナイ、ショーン・キャロルなど、科学コミュニケーションの大家が証人です。オンラインで立ち会ってもらっています。
彼らを前にして二人がそれぞれの理屈をプレゼンしますが、決着がつきません。
風よりも速く走る車の歴史ともう一つの説明
実は風よりも速く走る車は今回初めて作られたわけではありません。1969年には作られ、実験に成功しています。また、車ではなく船としてですが、1978年には理論的に挙動が詳しく調べられ、風より早く走れることがわかっています(論文)。この2013年の米国物理オリンピックの問題にもなっています。
では、何が起こっているのでしょうか? 動画13:30からもう一つの説明があります。車輪を三つ組み合わせた小さな車の模型を床と角材の間に挟みます。角材を床に対して動かすと、車は角材よりもずっと早く動いていきます。
風よりも速く走る車も同じ原理で動いています。この原理を理解すると、トレッドミルの上で前進する模型の車を作ることができます。ザイラ・フォックスリン(Xyla Foxlin)の動画で詳しく説明されています。
科学コミュニケーション動画コンテスト開催
クセンコ教授は確かに風より速く車が走れることを認め、潔く1万ドルをデレクに渡しました。デレクはこのお金を科学コミュニケーション動画コンテストの賞金にすることを決めました。
ハッシュタグ#VeritasiumContestをつけて1分以内の動画をYouTubeやTikTokに投稿すれば参加できます。科学や数学の複雑な概念や、一見直感に反する事実をうまく説明する動画に賞金が与えられます。応募の詳細はこちらのページにあります。期限は8月31日です。YouTubeではこちらから見られますが、執筆時点で700を超える動画が投稿されています。いずれも力作ぞろいです。