新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが続いています。ヨーロッパでは夏の間は収まっていましたが、秋が深まると感染者数が再び爆発し、夜間外出禁止が発出されました。状況も対策も日々変わりつつあります。
英国の『ランセット』(The Lancet)は世界で最も権威ある医学専門誌です。この『ランセット』に2020年9月、新型コロナウイルスをパンデミック(pandemic)ではなくシンデミック(syndemic)と捉えようという記事が載りました。
こちらのBBC News Mundoの動画で解説されています1。以下の内容はこちらの動画を元にしています。
WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルス感染症のパンデミックを宣言したのは2020年3月です。
新型コロナウイルス感染症への対策は、感染経路の遮断(感染者の隔離、外出制限、社会的距離の確保)です。これは古典的な疫学に基づく対策です。しかし、この対策では足りないという意見が出てきています。
シンデミック(syndemic)はsynergy(相乗作用・共同作用)とpandemic(パンデミック)を組み合わせた造語です。相乗作用とは二つの病気を併発すると症状が強まることで、パンデミックとは感染症が多くの国に同時に広がることです。シンデミックという語はアメリカのMerril Singer教授が1990年代に作りました。
がん、糖尿病、循環器障害、肥満の人々は新型コロナウイルスに感染すると重篤化しやすいことが知られています。
また、貧困層や人種的マイノリティーも感染率が高いことが知られています。アメリカでは、黒人は新型コロナウイルスによる死亡率が2倍です。新型コロナウイルスによる死亡率が世界1位のペルーでは、貧しい地域の死亡率が特に高いことが調査でわかっています。
シンデミックとはこのように、人体の生理と社会とが絡み合って起こります。ですから、大切なのは感染症に対処するだけではなく、感染症以外の病気(高血圧、肥満、糖尿病、循環器障害、がん)に対処すること、そして、経済的・社会的な不平等を解消することです。不平等が残ったままでは、ワクチンができても新型コロナウイルスの制圧には成功しないでしょう。新型コロナウイルス感染症を新型コロナウイルスだけのものと捉えるのではなく、ほかの病気や社会的・経済的な状況と合わせて考えるシンデミックの観点が必要なのです。
この動画の元になった2020年9月の『ランセット』の記事はこちらです。
この記事を受けて、シンデミックの観点からどのように考えるかが議論になっています。2020年10月、『ランセット』にシンデミックについての新しい記事が掲載されました。こちらの記事では、シンデミックになっている国となっていない国があることが指摘されています。サハラ以南のアフリカ諸国は、もっと豊かな米国・ブラジル・インドよりも対策がうまくいっています。これは政府が機敏に対処したからで、大切なのは政治だと主張されています。
SyndemicのWikipediaページはこちらです。